食わず嫌い王子 04 山田 育子/ワークショップ・デザイナー

 

f:id:PurpleUniversity:20200426215642j:plainヨーロッパやアメリカでは「現代のモーツァルト」として高く評価されリスペクトされる一方、日本の一般層には「プリンス?誰それ?」状態。そんな時代に、究極のお節介企画、『食わす嫌い王子』。プリンスをあまり聴いていない方、存在自体知らない若い世代に、「殿下の音楽は届くのか?」実験的インタビューをここにお届けします。

 山田 育子/ワークショップ・デザイナー

yamadaikuko (@yamataikoku0224) | Twitter

ーーーこんにちは、紫大学です。この度は、無茶な企画にお付き合いくださり、誠にありがとうございます。まずは山田さんの自己紹介をよろしくお願いします。

 

山田:こんにちは。山田育子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。私は、大学卒業後に大手電機メーカーに事務職として就職したのですが、そこでたまたまケニアジュネーブでの展示会のスタッフとして働いたことがきっかっけで、イベントの企画や実施に興味を持ち、イベント企画制作の会社に転職。その後ずっと新聞社主催のシンポジウムやフォーラムや企業の講演会の企画~実施までをやってきました。

 ところが、2011年に会社が突然解散になりまして(笑)。東日本大震災の影響もあってイベント業界は厳しい時期で、転職もままならず、また震災の影響でちょっと思うところもあってフリーランスになりました。

 

―――会社が解散、震災の影響も!

 

山田:そうなんです。今は会社員時代にやっていたようなイベントの企画制作もやってますが、その後一方的な情報提供のイベントだけでなく、双方向に対話する場づくりに興味を持ち、ワークショップなどの対話の場づくりも行っています。その他にも自分の働き方がフリーランスになってかなり変わったので、そこでの気づきを、同じミドル・シニア世代でキャリアに悩んでいる人に伝えたくて、キャリアコンサルタントの資格もとって、ミドル・シニア世代のかキャリア開発や支援などの活動も行っています

 

―――予期せぬハードシップを経験されて自ら「場をつくる」ご活動、そして支援もされているわけですね。ご自身の気づきを悩んでいる方々の問題解決の一助とされているのも、素晴らしいと感じました。何かご趣味であったり、好きなことはございますか?

 

山田:ありがとうございます。みなさんそうだと思いますが、今はなかなか厳しい状況にあるので、そのように言っていただけると勇気づけられます。趣味というと本当に私はつまらないやつでして(笑)、趣味と言えるものがないのです。まあ続けていることというと、「気功」ですかね。20年以上やっているので。好きなことは、やっぱり人に出会ってお話することですね。ご縁をいただいて、こうして今インタビューを受けている。人との出会いでいろんなきっかけや気づき、そして知らない世界への扉が開かれるというのがいちばん好きなことかなぁ。

 

ーーー20年以上続けているものがある、というのが凄いですし、出逢い、ご縁を大切にしているというのも、素敵なことですね。この企画は、プリンスをそこまで聴く機会がなかった方に、ちょっとした「あなたのプリンス」を紹介してみよう、という、かなりおせっかいなプロジェクトなのですが、その前に、山田さんが現在お持ちのプリンスのイメージなどがありましたらぜひ教えてください。

 

山田:そうですね。ものすごい強烈な個性を持ったアーティストというイメージですね。独特のファッションセンスとなんとも怪しい感じ。陰と陽でいうと陰な感じ。。かな。

 

ーーーなるほど、強烈な個性、独特、陰・・・まさにある意味でその通りかも(笑)ではでは、早速1曲目を選んでみたいと思います。こんな感じの曲がいいとか、ジャンルやタイプであったりとか、イメージとか、何でもいいので教えていただければ嬉しいです。

 

山田:では曲の希望ですが、新型コロナウイルスのことで緊急事態宣言も出て、あらゆる活動がダメージを受けています。こんな時だから、希望を感じる曲をお願いします。

 

ーーーでは、女性シンガー、マルティカとプリンスが共作した Love...Thy Will Be Done をご紹介します。

 

 

 

山田:ご紹介いただいた曲、何度も聴いてみました。私は聴きながら歌詞の意味がわかるほどの英語力はないのですが、「希望を感じられる曲」というリクエストでこの曲を紹介されたという前提で聴いているからでしょうか? なんかこのリズムに身をゆだねていると、救いがやってくるような・・・そんな感覚を感じました。

 

ーーー何度も聴いてくださり、ありがとうございます。山田さんのヒストリーを知り、さらに世の中や個人が絶望に打ちひしがれているとき、僕も少しだけ「希望」について考えてみたんです。彼は「希望」という概念をどんな形で表したんだろう?と。いろんなメタファーがあるんですが、彼はこの曲で「光」と表しました。

「愛、あなたの御心のままに。もう私は隠れたりしない。もう逃げたりもしない。私を守る光を拒むことはもうできない。その光は私に戦い続ける力を与えてくれる。」

これがこの曲の歌詞、主題のメッセージです。 

 

山田:わー、すごい歌詞ですね!最初の「愛、あなたの御心のままにもう私は隠れたりしない。もう逃げたりはしない。」のところは、何度も繰り返されるフレーズで、なんとなく意味は伝わってきていました。それでこの曲を通じてずっと刻まれているリズムに体をゆだねると、なんか救いが来るみたいな感覚になっていたかなぁと思いました。

 

―――救いが来る。

 

山田:はい。それと、ずっとこの曲を聴きながら感じていたのは、キリスト教のイメージだったんです。それはご紹介いただいた動画の中で、ちらっとマリア様の像が映るので、それに影響されたのか?と思っていたのですが、「御心のままに」とか「光」という訳をみて、ああやっぱり、と思いました。「私を守る光を拒むことはもうできない。その光は私に戦い続ける力を与えてくれる。」のところは、今このコロナと戦っている人類にそれこそ光を与えてくれるような。人間の知恵、人間の生きる力を信じて、心を一つにして戦いづつける。そんな力を与えてくれる詩ですね。いろんな言葉の訳をつけて「がんばろう!人類」みたいなプロジェクトをつくって、このメッセージを流したいと感じました。

 

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ーーーこの収録は4月21日から約1週間かけて、新型コロナの影響が拡大していく真っただ中で、メッセージのやりとりで記録されています。奇しくもこの日は彼の命日でもあって、「生きる」という主題を突きつけられているような状況です。そんな時に、山田さんから「希望のリクエスト」があったこと、そして1曲目にして「人間の生きる力を信じて」という言葉にハッとしました。

 

山田:ありがとうございます。

 

―――山田さんは、お仕事やご活動の中で、数多くの人々に関わられると思うのですが、「希望」とか「信じる」って「希望をもちなさい、信じなさい」って言われて「はいわかりました」ってなるような簡単な話じゃないじゃないですか。そのあたり、現実場面でどのようにそのあたりのことを共有していらっしゃいますか?

 

山田:うーん。やっぱり、希望を失わずに行動している人とか、信念を持っている人の活動を伝えることでしょうか? おっしゃるように「希望をもちなさい。信じなさい」と言っても伝わらないですから。先ほど、私の経歴について、2011年、震災の年に会社が解散になって、思うところがあってフリーランスになった。とお話しましたが、もちろん、その年はイベント業界にとって今と同じように厳しい年で転職が厳しかったということもあるのですが、あのような未曾有の被害にあっても、助け合おうとしたり、支援に行っている人に感謝の気持ちを伝えている東北の人々をみて、それで逆に勇気をもらったというか、希望をもらったようなところがありました。やっぱりそういう姿をみる・知ることで心が動くような気がします。

 私はイベントとかワークショップを通じて、伝えることをしているので、そういうステキな人の生きざまとか、ユニークな考え・視点を伝えて、そこに参加した人が、何か新しい視点や気づきを得て、パッと顔が明るくなったら幸せです。

 

ーーーたいへん興味深いお話です。震災というハードシップの中にあって、助け合う、支援する、感謝する。言葉にすれば1行で終わりますが、その行動とその影響のようなものが、「勇気」や「希望」として他者の中に芽生える、というわけですね!そして山田さんご自身が、そういう激流の中で見つけた何かが、今のご活動に繋がっている。それは本当に素晴らしいことですね!

 

山田:ありがとうございます。そうですね。やはり言葉だけでなく、その方の行動や考え方が周囲に影響を与えるのではないかなと思います。

 

ーーー先ほど、山田さんが聴いてくださった、Love Thy Will Be Doneは1991年にマルティカのセカンドアルバムからのシングルとして発表されたのですが、プリンスはあの曲を1995年から96年、元プリンスとしてハードシップの真っただ中の時期に、ステージで演奏するんです。

 

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山田:ハードシップの真っただ中、に。

 

―――そうなんです。「所属レーベルとのトラブル」と言われがちなのですが、「音楽の所有権は誰にあるのか?」「音楽を商品としてだけ取り扱う業界はそれでいいのか?』「自由のための音楽なのにオレは今自由じゃないじゃないか!」そんな状況下にあって、名前も読めないマークに解明して、右の頬にわざわざ「SLAVE」(奴隷)と書いて活動していたんです。

 

山田:SLAVE!

 

―――震災のような直接的な生命の危険はないかも知れませんが、巨大なレコーディング・スタジオ、自身の独立レーベル、数多くのスタッフを抱える責任者として、レーベルとの闘争はスタッフとその家族も巻き込む死活問題だったわけで、そんな時、もっとも「希望の光」が必要だったのは彼自身だったと思うんです。先程の山田さんのエピソードから、プリンスの特質というのでしょうか、暗闇であったり、激流の中での希望。そういった彼のテーマ性を、改めて再認識しています。

 

山田:そうですか。そんな時期の曲だったんですね。頬に奴隷と書いて活動していたとは、なんか本当に痛みが伝わりますね・・・。レコーディングスタジオ、レーベルとスタッフを抱える責任者として、スタッフの家族も抱えて死活問題だったというのは、今、なんか自分事のように苦しい気持ちになります。私も個人事業主ですから、今のような状況下、仕事が飛んだら収入0なので・・・。特に表現者・アーティストであり、スタッフを抱えるリーダーでありというところのバランスは大変だったでしょうね・・・。そんな中、希望を見出だそうとしたこの曲で、Love Thy will be done 愛 御心のままに と歌うのは、本当に祈りの歌のように届きます。

 

ーーーお話を伺いながら、平時はもちろん、非常時や困難なときこそ、希望、祈り、信じる、といったものが我々人間に必要なんだな、感じています。では2曲目にいってみたいと思います。どのような曲がいいでしょうか?

 

山田:ご紹介いたただいた曲は、すっかり私にとって祈りと希望の曲になり、家に閉じこもってちょっと不安に駆られるときに繰り返し聴いております。さて、2曲目ですが、祈り~希望ときたら、『再生』。生きる力を感じるようなものをお願いします。ビートの効いたかっこいい感じのものを、よろしくお願いいたします。

 

―――では、こちらはいかがでしょう?I'm yoursです。

 

 

山田:この曲知らなかったですけど、自分が10代とか?に聴きまくっていたロックっぽいテイストで懐かしい感じがしました。ギターのリフとか、ね。中学生の時に当時好きだったギタリストのリフを口真似して(自分はギター弾けないんで)友達と遊んでいたことを思い出したりして(笑)。アー思い出すだけでも恥ずかしい。でも若い時にバカみたいなことで熱中していた時のあの感覚を思い起こすと細胞が若返る気がする。まさに「再生」ですね!

 

ーーーおおお、そのご感想にこちらがびっくりしています。全くのノーヒントでこの曲を選ばせていただいたのですが、これ19歳に時に発表された曲なんです。デビューアルバムのラストに収録されてるんですが、10代の若々しさ、みずみずしさ、そして「これからやっていくぞ」の決意が山田さんの10代の記憶と握手したのかも!

 

山田:わー、なるほど!

 

―――ちなみにこの曲、全ての演奏を10代のプリンスひとりでやってるんですよ。鳴ってる音も、録音も、プロデュースも、全部プリンス。オール殿下(笑)

 

山田:オール殿下(笑)。19歳の時にすべての演奏を一人で・・・。しかも録音~プロデュースまで。それはすごい!!本当に天才ですね。いろんな分野をそれぞれ極めちゃう人の頭の使い方ってどうなってるんんでしょう?自分は単細胞でめちゃくちゃ不器用なので、ご教示いただきたいです(笑)。でも既にこれだけ完成度の高いものをつくっているとはいえ、なんかやっぱりすごくフレッシュ!というか若い!って感じはしますね~。ういういしいです。しかし、まさかギターのリフを口真似してギャーギャー騒いていたおバカな中学生時代をここで思い出すとは(赤面)。音楽って不思議ですね。

 

ーーーあははは、完璧な中学時代を誇る大人にあったことがありません(笑)プリンスが少年時代、「仕事しないとな」って思って電話帳を拡げたらしいんです。そしたらやりたい仕事がひとつもなかった。その時に、「オレは音楽で勝ってやる」って決めたんだそうです。

 

山田:音楽で勝ってやる!いいなぁ。

 

―――これ、すごく不思議なんですけどね、アメリカの五大湖ってあるでしょう?あの周辺から、全く同学年の3人がライバルだったんです。マイケル・ジャクソン、マドンナ、そしてプリンス。3人とも常軌を逸脱したレベルの超負けず嫌いで。それぞれ交流をもちながらも、「あの二人には負けねーぞ」ってのはあったみたいなんです!

 

山田:マイケルとマドンナとプリンス、凄すぎる。3人が「負けねーぞ!」のエネルギーを噴出させたら、なんか宇宙まで吹っ飛ばされそうです(笑)。同時代のめぐりあわせみたいなものも、人生にすごく影響を与えるものなんですね。

 

 

 

 

ーーーほんとですね!あの頃はMTVでどれだけの回数オンエアされるか?が勝負でしたからね。みんな歌って、踊って、演技して。山田さん仰るように、ライバルに恵まれる、さらにいえば、ライバルとして意識できる、って大切ですよね。そういえば、今の日本では、「ライバルつくれ」とか「ライバルが自分を伸ばしてくれる」みたいなこと、スポーツなどの領域以外ではあんまり聞かないような気がするんですが・・・。

 

山田:そうですね。あまり「ライバルをつくれ」とか「ライバルが自分を伸ばしてくれる」というような言葉はあまり聞かないですね。私は中学・高校は「ハイキング部」(笑)だったし、いわゆる体育会のりのところとは無縁だったこともあって、自分自身もそういうことを言われたり、ましてや自分からそういう存在を見出そうとしたことがないんです。でも、身近にそういう「負けねーぞ」と思う対象がいると、もっている能力をぐーっと伸ばせる気がしますね。

 唯一、私が10年以上勤めて、震災の時に解散になったときの会社に、同年代で自分とはまったく違うタイプの仕事のできる女性がいました。あまりにタイプが違うので(笑)、お互いに距離を置いていたけど、お互いの存在は意識はしていたかもしれません。その彼女とは震災の時に、帰る方向が一緒だったので、二人で何時間もかけて歩いて励ましあいながら帰宅しました。その時、「私も彼女も互いに認めあってたんだなー」と感じました。そういう存在はまた親友というのとも違うけど、かけがえのない存在ですよね。だから、ライバルってとても素敵なんだなと思いました。私はスポーツとも無縁で、女子高でぬるま湯のような世界で育ってきてしまったので、他人と切磋琢磨するようなことをちょっと避けてきてしまったようなところがあるんですが、そこはもっとやれたらよかったなぁ。

 

ーーーわぁ、震災の時、励まし合いながら会話して、互いに認めあってたってわかったって、なんか素敵ですね。その光景が目に浮かんでくるようです。なんだろう、なんかライバルとか、勝負という言葉が、日本では「競いあい」の意味でしか捉えられていない気がするんですが、山田さんの仰る切磋琢磨、つまり磨き合いであったり、高め合いであったりは、あとになってから「自分を形づくる重要な要素」だとわかるのかも知れないですね。

 

山田:磨き合い、高め合い。なるほど。プリンスたちもそれを見せてくれた。

 

―――僕はそう思います。マイケル・ジャクソンが亡くなったとき、プリンスは「これで本当のダンスが失われた」と呟いたそうで、その後にステージでマイケルの曲を演奏するようになるんです。でも自分では歌わないで、ほとんど女性ボーカルに歌わせるんですけど。「俺はマイケルのようには歌えないよ」ってことなのかな?

 プリンスが亡くなったときは、マドンナは「プリンスは世界を変えた。真のビジョンがあった。」とコメントしていて。「ああ、この人たちはそれぞれの才能と存在を磨き合ったんだな」って思ったんです。

 

山田:そうなんですね。マイケルとマドンナとプリンス、互いにリスペクトしていたんですね。足をひっぱりあうのではなく、互いの才能と存在を磨きあっていた。ステキですねえ。いいな~。そういう関係性。私も今回こうして問いを投げかけられることで、ライバルというか、身近で頑張っている存在が、自分の眠っている可能性を呼び起こしてくれたり、エンジンを回し続けて前に進むことを後押ししてくれたりするものだな。と気づきました。

 

―――ありがとうございます。3人の素敵なライバル・トライアングルのお話から、かなり強引に3曲目にもっていきます(笑)どんな感じにいたしましょう?

 

山田:3曲目はTakkiさんにとっての忘れられないプリンスの曲をお願いします。

 

ーーーありがとうございます、忘れられない曲はいろいろあるのですが、The Crossを選んでみました。

 

 

山田:ありがとうございます。拝聴しました。The Crossというタイトルからして、なんか宗教っぽいんメッセージがあるのかな?と思いましたが、それよりなにより、めちゃくちゃかっこよかったです!女性のドラマーもすっごくかっこよかった!こんな、エネルギーの爆発みたいなステージ観たらノックアウトされそうです。

 

ーーー観てくださりありがとうございます!「サイン・オブ・ザ・タイムズ」というライブ映画のラスト曲を選んでみました。プリンスという人は、「観客はレコードを聴いてコンサートにくるんだから、コンサートはレコードを超えなきゃ意味がない」という信念をもっていて、アルバムはライブのサウンド・トラックぐらいの位置づけなんですね。

 だから、「プリンスすげー!すげー!」ってウザいくらい言ってる僕らみたいなリアルタイム世代の人たちの多くは、彼のライブを経験しているんです。山田さんの仰る「エネルギーの爆発」を全身に浴びて五感で受け取ってしまっている。

 

山田:いやー、ライブ観てみたかったです。殿下のエネルギーの爆発を全身で浴びてみたかった!ライブはやっぱり伝わるものが違いますよね・・・。実は私もこのコロナの影響で家にこもるようになってから、ミュージシャンのライブ映像をよく視るようになりました。やっぱり無意識に、ミュージシャンとオーディエンスのエネルギー交換をどこかで欲してるんですよね~。ライブ映像をみていると、音楽だけじゃなくて、ミュージシャンの表情、オーディエンスの表情がどんどん輝いていくのがわかって、それが何かこちらにエネルギーをくれるんです。

 

ーーーなるほど、表情が輝いていく。大きなパワーが生まれる瞬間を映像でも受け取れる、今、こうして共有できるのも素敵なことですね。

 

山田:なぜこの曲が忘れられない曲なのか、ぜひ理由を知りたいです。

 

―――僕がこの曲を選んだ理由は、そのメッセージにあります。

「真っ暗な日、嵐の夜。愛も希望もどこにも見つからない。だが泣くのはやめよう、彼はやってくる。死んではいけない、十字架を知る前に」

 これ、十字架という言葉だけだと、たしかにイエス・キリストだったり、宗教的な感じを受けると思うのですが、ずっとずっと聴いてきて、ある時ふと気がついたんです。「ザ・クロス」とは「生きる意味」であったり、「ミッション」であったり、「心から信じられる何か」なんじゃないか?と。十字架は「キリストの象徴」であるばかりではなく、「愛、神、信仰、祈り」など人が生きていくために大切なものをシンボライズしてる面があると思っていて。

 

山田:生きていくために大切なもの。

 

―――はい、生きていれば、思い通りにいかないこととか、希望が見出せないこととか、全部ギブアップしたほうが楽なんじゃないかとか、まあ、いろいろありますよね。この曲では「我々はみんな問題を抱えている。小さなものから大きなものまで。だが、いずれそれら問題は去っていくだろう、十字架によって」って歌われていて。それに気づいてから、自分にとっての「ザ・クロスって何?」と意識するようになったんです。

 

山田:ありがとうございます。

「真っ暗な日、嵐の夜。愛も希望もどこにも見つからない。だが泣くのはやめよう、彼はやってくる。死んではいけない、十字架を知る前に」

 今この状況下でこのメッセージはヤバいですね・・・。もう一度このメッセージを意識して曲を聴いてみたら、なんか涙が出ました・・・。今はどうしても、新型コロナの脅威の環境下での自分の感情と、なんでも結びけてしまう自分がいます。

 なんとなく「死んではいけない。一人ひとりが一生をかけて取り組む大事なミッションをもっているのだから」と言われているようで、ぎゅーっと胸が締めつけられました。そして、この曲が静かなメロディーから次第にどんどんエネルギーを増していく感じが、「必ずこの状況下に打ち勝つ!」という力を与えてくれるような気がしました。かなりの勝手な自分の解釈ですが。Takkiさんにとっての「ザ・クロス」は何なのでしょうか? 私は人生をかけて大事にしたいことがある人が本当に幸せなのではないか? と思っています。

 

ーーー山田さんの言葉を通じて、1987年に発表された曲が、今、コロナの状況下で力強いメッセージソングとして機能する、時空を超えて力を与える、という事実に僕も驚いています。僕のザ・クロスは、、、あえて言葉にすると、「ポジティヴィティ」を伝えること、かな。これもプリンスが1988年に突きつけた命題なんですけど(笑)、15歳の時に「ポジティヴィティ」という曲を聴いて、ずっとそれについて考え続けているんです。なので、僕は僕の活動や作品を通じて、「ポジィティブであること」を問いかけたいなと思っています。単に前向きとかじゃなくて、自分の中のネガティヴな面をしっかり捉えつつ、少しでもポジティヴでありたい。といっても、なかなかできていないんですが(笑)。それが僕のザ・クロスですね。

 

山田:TakkiさんのThe Crossはポジティビティを伝えることなんですね。それは素晴らしいです。私もツイートのメッセージにすごく元気をもらっています。

 

―――ありがとうございます。ここまで、3曲を聴いていただいただけでなく、非常に興味深い対話をさせていただきました。かなり強引な企画であることは自覚しているのですが、率直なところいかがでしたか?

 

山田:今回、この企画にお誘いいただいたときは、プリンスの曲はいわゆるメジャーなヒット曲ぐらいしか知らないのですが、曲の感じとか存在感とかはすごく好きなほうだったのでお受けしたのですが、まさか曲を通じてこんなに自分を内省することになるとは思いませんでした。

 震災の時になぜ自分は独立の道を選んだのか。ずっとその存在は意識していたけど、あえて距離を置いていたライバルのような存在との絆、ギターのフレーズを口真似して友達とキャーキャー言っていたアホな中学時代。そして今このコロナの状況下での自分の気持ち。

 殿下の曲を通じて語り合うことで、一気に自分の歩みと、今の自分と、そしてこれからの自分に想いを馳せるような、深く内省するとても貴重な時間を過ごすことができました。

 

ーーーこちらこそ、究極のお節介企画、しかも無茶ぶり連続の数日間にお付き合いいただき、ありがたいやら、申し訳ないやらです。こうやって3曲を聴きながら対話を重ねることで、山田さんと同じように、僕自身も新たな発見がたくさんありました。

 ザ・クロスの「十字架を知るまで、死ぬな!」のメッセージも、Love Thy Will Be Doneの「光」も、このような絶望時にこそ真意がハッキリと理解出来たり、高め合うライバルが時を経て「戦友だった」と気づいたり、I‘m Yoursの10代の若き衝動の大切さだったり。これらは、楽曲だけを聴いていてはおそらく得られなかった気がするのです。山田さんというひとりの女性のヒストリーの中で得られた発見です。

 

山田:それは私にとっても嬉しいです。

 

―――プリンスの楽曲は「人生のサウンドトラック」、つまり「人生のあらゆる局面のあらゆる感情に寄り添う音楽」として意図された部分があるように思っていて、今回の対話がその典型例なんじゃないか。そんな感覚を得ることができました。これも山田さんのおかげです。ありがとうございました!

 

山田:こちらこそ、心から感謝申し上げます。ここで対談がいったん終わるのが寂しいくらいです。楽しかったし、自分を見つめたり、ふりかえったりする素晴らしい機会になりました。ありがとうございました!

 

 山田育子

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