食わず嫌い王子 06 山本 裕美/人財育成コンサルタント

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食わず嫌い王子 ~あなたの殿下がここにいる!かも?~

ヨーロッパやアメリカでは「現代のモーツァルト」として高く評価されリスペクトされる一方、日本の一般層には「プリンス?誰それ?」状態。そんな時代に、究極のお節介企画、『食わす嫌い王子』。プリンスをあまり聴いていない方、存在自体知らない若い世代に、「殿下の音楽は届くのか?」実験的インタビューをここにお届けします。

06  山本 裕美さん/人財育成コンサルタント

アスパラ 山本裕美 (@wakabagou) | Twitter

 


ーーーこんにちは、紫大学です。この度は、おせっかい企画へのご参加、ありがとうございます。まずは、山本さんの自己紹介をよろしくお願いします。

 

山本:山本裕美と申します。「自分で考えて行動する人の育成」と「個と組織の成長の支援」をテーマに活動している人財育成コンサルタントです。塾講師、OL、勤務社会保険労務士の仕事を経て2004年に起業しました。最初は就職支援に携わっていましたが2011年に働く人々の支援にシフトチェンジしました。現在は企業での人財育成コンサルティングと現場実践型・対話型の研修やワークショップの企画運営などが主な活動です。

 

ーーー働く人々の支援のプロとして活躍されているんですね。自分で考えて行動する、早くも面白くなりそうな予感がしています。趣味や好きなことはございますか?また音楽はどのようなのがお好みですか?

 

山本:そうですね。社労士時代から通算すると、気づいたら「ひとと仕事」に20年ぐらい携わっていることに先日気づきました。この対談で自身への新たな気づきも得られそうで楽しみです。趣味は筋トレ、そして5~6年前からバスケットボール観戦にどっぷりハマっています。9月から5月のシーズン中は毎週末、日本全国どこかのアリーナに出没する生活を送っていましたが、2月末からの無観客試合、そしてリーグ戦中止になってしまい、今はそのエネルギーを筋トレにぶつけています(笑)

音楽は、今は何かジャンルを決めて聴くことはあまりなく、運転中に流しているラジオやどこかで出会って心に残ったものを探して聴いていることが多いですね。聴いているうちに自分の思考にエネルギーがシフトすることが多く、もしかしたら「聴く」ということをやっていないかもと今なんとなく思いました。

 

ーーーバスケ観戦に、筋トレ。アクティブな生活ですね!音楽も心に残ったものを聴く。人と仕事の専門家らしいスタンスを感じました。この対談は、その人の趣味趣向やライフスタイルに合わせて、プリンスの楽曲を3つ選んで聴いていただく、という実験企画なのですが、山本さんは「プリンス」にどのようなイメージがありますか?率直なところを教えてください。

 

山本:ありがとうございます。アクティブと言えばアクティブかもしれませんが、自分がやることとやらないことは結構明確に分かれているのでピンポイントでアクティブなのかもしれないですね。そして、プリンスのイメージですね。ほんとに率直に言っていいでしょうか・・・?プリンスを愛していらっしゃる方との会話の中ですから憚られますが、お名前自体は知っていましたがまさに「誰それ?」状態です。ステキな企画にお声かけいただいたので、気の利いたコメントをしたいと思って情報収集しようと思ってググってみました。まず最初に見つけたWikipediaの記事を読もうと思いましたが・・・・・情報量の多さか何なのか分かりませんが全く頭に入ってきませんでした(汗)今のところはこんな状態です。

 

ーーー逆にありがたいんです、「誰それ?状態」というのは現実そうですし、この企画自体、その現状認識からスタートしています。世界最大の音楽授賞式、グラミー賞のスタッフが主導で、グラミーの直後にプリンスを祝うトリビュートコンサートが2020年1月末に開催されたんです。アッシャー、アリシア・キーズジョン・レジェンド、コールドプレイのクリス・マーティンフー・ファイターズ、H.E.R.、ベック、といった当代きってのミュージシャンたちが出演して全曲プリンスを演奏したんですが、これがCBCで放送されて、新型コロナ以前の最大の音楽イベントとして、アメリカでは早くも再放送が決まったくらいなんです。

 

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山本:なるほど、海外では盛り上がっている!

 

ーーーそうなんです。欧米の盛り上がりに比して、日本では悲しいくらいに知られていなくて・・・。山本さんが仰る「全く頭に入ってこない」ってのも、実は当然のことなんです。僕らリアルタイム世代が何十年もかけて聴いてきたから、歴史や概要がわかるだけで。ですから、無理やり例えるならば、メニューが300種類ぐらいある何でもありのレストランに入ったようなもので。ですから、今まで彼の作品と接点がなかった皆さんと、こうして対話できる機会を心からありがたく思っているんです。

 

山本:そういえばWikipediaでもたくさんのアルバム名が並んでいました。何を基準に読んでいいのか分からず断念したのかもしれません。メニューが300種類のレストランと聞くと、一気に見え方が変わってきました。選ぶのが楽しそうでワクワクしますね。

 そして「誰それ?状態」の現状認識からスタートされているというのは、共感するところがあります。私は9年前から研修にケースメソッドという教育手法を取り入れているのですが、それこそ当初は私の周りや関わっているクライアント先では「何それ?状態」からスタートしてようやく少しずつ浸透してきたところなんです。カレーを食べたことない人にカレーの味とおいしさを説明する難しさとでも言いましょうか。「とにかく一度食べてみて!」と勧めてきたことを思い出しました。

 

ーーー曲紹介が始まる前の、この対話がすでにめちゃくちゃ面白いです。よくよく考えてみれば、「王室に生まれた」とか、「超有名人の家に生まれた」とかを除いてほとんどの人や活動は「誰それ?」からスタートするわけでして。山本さんの実体験のごとく、「少しづつ」に挑んでみたいと思います。ではさっそく1曲目を選んでみたいのですが、こんなタイプの曲がいいとか、ジャンルだとか、今のフィーリングだとか、どんなことでも構いません。ご希望をいただければと思います。

 

山本:記念すべきプリンスとの出会いの1曲をどうしましょうか・・・。あ!そうだ。実は今、ジョギング中に聴く曲を探していたところでした。3月からジムが休館になってしまい、自宅でトレーニングを続けているんです。筋トレはYouTubeの動画を見てやっているのですが、有酸素運動をどうしたものかと思いジョギングを始めました。走るの興味なかったのですが、始めると楽しくなってきたところなんです。ほとんど人がいない田舎道をひとりで走るパートナーになりそうな曲があったら教えてください。

 

ーーー具体的な情景まで教えてくださりありがとうございます。では、ジョギング用としてこちらを選んでみました。Stevie NicksのStand Backです。

 

 

山本:ご紹介ありがとうございます。それでは、これをBGMに後でちょいと行ってまいります!

(約2時間が経過してからの返信)

ゼェーハーゼェーハー。人体実験から戻ってまいりました。6キロ走りながら9回目の途中まで聴きました。記憶が新鮮なうちに実験中に感じたことをつらつらと書き記しておきます。今から走り出すぞ^というところでイントロが流れだして「おおっ!これはテンション上がってきた!」と軽快に走り出しました。そしたらパンチの利いた低音の歌声が響きだしてさらに力が湧いてきました。テンポよく走りながら、音楽と自分の思考を行ったり来たりしていて、まさにジョギングにあった曲。走りながら感じたのは、いつもより身体の軸がしっかりしていたことです。疲れると前傾姿勢になってくるのですが、今日はブレないというか。頭のてっぺんからまっすぐ軸が通っている感じがしました。

 気持ちよく走りながら、また曲に意識が戻って聴いていたら、力強いだけだと思ったら♪Stand back Stand back ♪のあたりになぜか繊細でちょっと弱いというか儚げな感じがしてきて、それでも腹が据わった感じは根底に流れたまま。不思議で強くて優しい印象を持ちました。ちなみに!6キロの自己ベストタイム更新できました。

 

―――うわぁ、ちょっと驚いています!初めてご紹介させていただくStand BackをBGMに自ら人体実験してくださったこと。それから、曲が走る感覚にどのような影響を及ぼしたか、内的な変化を含めて記してくださったことに!Stand Backは世界中で今も聴かれ続けている曲ですが・・・ジョギングとリンクしての記述は、おそらく「初」だと思います!

 

山本:よかったぁ!

 

―――この曲は、ちょっと独特の過程で、完成していまして。フリートウッド・マックという歴史的なスーパーバンドがあるんですが、そのキーパーソンのひとりであるスティーヴィー・ニックスがあるときプリンスの曲、「リトル・レッド・コルベット」をラジオかなんかで聴いたらしいのです。気に入ったニックスは、リトル・レッド・コルベットをベースにしてこのStand Backを書き、プリンスに連絡をしました。

「あなたの曲にインスパイアされた曲を書いたの、もしよかったら協力して」みたいなことを言ったら、プリンスはすぐにスタジオを訪ねたそうなんです。そこでキーボードを演奏して、曲の完成をアシストした。結果、この曲は全米5位を記録、ニックスのソロの代表曲のひとつになったんです。

 元歌となったリトル・レッド・コルベットは、プリンス初のトップ10入りヒットにして、MTVで初めて流れたブラック・ミュージシャンの曲でもあります。いわゆる人種の壁を超越した曲が、プリンスに影響を与えた側の先輩、ニックスにもリーチして影響の恩返しを果たした。白人社会の一般層の「プリンス?誰それ?」を「プリンス!」にした曲に閃きを得て共作された曲として、Stand Backをご紹介させていただいた、というわけです。

 

山本:「あなたの曲にインスパイアされた曲を書いたの、もしよかったら協力して」この言葉、一体何でしょうか。心の奥から何かぶわーっと溢れてきました。今の私にとてもタイムリーな言葉かもしれません。今まで16年、フリーランスでやってきました。もちろん、これまでもいろんな人との関わりで仕事をしてきましたが、今これと似たような感覚で共感とか刺激とかを通して人とつながって何かを始めていくことがとても多いんです。つい最近知り合った人、しかも直接会ったことなくオンラインでつながった人と何かを始めていく。それも、互いにとってとても大切なものを扱って、シェアしあって、新しいものを構築していくことが増えています。

 

 

あ、リトル・レッド・コルベットも探して見てみました!これめっちゃかっこいいですね!!!!「プリンスさまはじめまして」なんですが、セクシーだなあというのが第一印象。動きに見とれてしまいました。お顔立ちも美しくて、目が離せない感じです。

 

―――おおお、動くプリンスもご覧くださったのですね!山本さんの「共感とか刺激で人とつながって何かを始める」って素晴らしいですね。プリンス自身がフリートウッド・マックの大ファンで、メロディアスで親しみやすい音楽性はもちろん、男女混合編成のバンド形態なども大いに影響を受けているんです。

 

 

 だから、スティーヴィー・ニックスに電話をもらったプリンスは、めちゃくちゃ嬉しかったんじゃないですかね?2人の感情の高まりみたいなものも、音に反映してるような気がしますし、「新しいものを構築する」際の山本さんのマナーにも大いにリンクしてような気がします。

 

山本:わー、ご自身がリスペクトしている方から「協力して」と言われるって、魂込めて仕事や表現をしていたらそんなうれしいことはないでしょうね。まさに今、こちらのオファーいただいたときの私がそれです。影響を受けた相手からのオファーは「自分が役に立てることがあるかも!」と思えて、その場に立ったら「これからどんなことが起こるんだろう」と最高にワクワクしますよね。そういうご縁で「新しいものを構築する」ときって、その場がひとつの脳になっていてそこで互いの大切なもの、つまり価値観の一部が混ざり合って化学反応を起こしていくような感じがします。

 この曲もまさにそんなエネルギーがあふれてるんですよね、きっと。そう思って改めて聴くと感慨深いです。それぞれ、自分ひとりでは表現できなかったものが、セッションによってその場で互いに影響を及ぼし合って「新しいものを構築していく」パワーを感じます。表現や創造の喜びってこういうことなんだろうなあ。

 

ーーーとても興味深いところですね。やはりプリンスがプリンスとして結果を出した。それが作品を通じて、つまり作品がブリッジとなって、スティーヴィー・ニックスに届いた。そこで新たな楽曲が生まれた。ニックスは、お礼としてロイヤリティーの50%と共作者としてのクレジットをプリンスに申し入れたそうなんです。プリンスは「いらない」と断ったらしいのですが、最終的にはレーベルやビジネス面での調整もあったのかな、その条件で合意となったそうです。

 

山本:そんなやりとりがあったんですね。自分がまっすぐ世の中に送り出したものを誰かが受け取って反応する。そこからつながりが生まれ、互いに影響を及ぼし合いながら新しいものが生まれていく。今、私自身がこの場で貴重な体験をしていますが、きっとこういうスパーク的なものは今このときも世界のいたるところで無数に起こっているんでしょうね。なんだかとても幸せな気持ちになりました。

 

ーーーこちらもです。このスパークが読んでくださる皆さんに伝わっていくといいなと思います!では2曲目に参りたいと思います。ご希望をお知らせください。

 

山本:ありがとうございます。2曲目・・・・・そうですね、では「闘う男」を感じられるような曲があればぜひお願いします!

 

ーーーでは、Love Signをご紹介します。映像と共にご覧いただければ!

 

 

山本:ありがとうございます!2曲目の Love Sign 聴きました。こ。これは。。。ちょっと驚きました。「闘う男」というリクエストで、ハードなのが来ると思いきや軽快なリズムで始まって、曲とともに映像を追っていたら最後にズキュン♡と堕ちてしまいました(笑)

 そもそも「闘う男」をリクエストしたのは、先にも話しましたが私はバスケットボール観戦(Bリーグ)が好きなんです。シーズンで50試合近く、片道何時間もかけて全国各地の会場に大好きな選手を追いかけて応援しに行く生活を5年ほど続けています。今シーズンは2月末からコロナの影響で試合が中止になってしまって「闘う男」に飢えていて、それを埋めたくてリクエストしたのでした。

 私はバスケを観に行くと、ボールではなくゴール下のセンターやフォワードの選手たちのゴリゴリのポジション争いにばかり目が行ってしまうんです。2メートルぐらいの大きな男たちの熱い闘い。そのゴリゴリを感じたかったので、正直これは斜め上・・・というより斜め後ろぐらいから来た感じでした

 でも何度か見返すうちに、暗殺者(?)の女性にどんどん意識が向いていきました。彼女と彼の闘いを描いた映像ですが、彼女は最初に依頼人からのオファーがあった時点ですでに戸惑いがあったのか。プリンスのもとに向かう道中にも心の揺れが垣間見られて、椅子の背に銃を向けたときも手がブレている。ここ、とても興味深かったです。それと、銃をチケットに替える会場に向かったところ。赤いレザースーツを脱いでいたところ、そしてアタッシュケースの中のスポンジのくぼみがなくなっていたところがとても印象的でした。

 

ーーーおおお、面白いですね。プリンス、実は高校の時バスケ部で。身長158cmでアメリカでは相当小柄なんですが、動きが相当速かったらしいです。ステージのバスケのゴールを設置してライブ中にシュートしたり、NBAも観戦にいったり、彼のスタジオにもバスケゴールが設置してあったから、相当なバスケフリークです。なので、山本さんとここでもリンケージがありますね!

 

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山本:なんと!プリンスはバスケ部だったのですか!!!ここにきて一気に親近感(笑)先ほどの「プリンスさまはじめまして」で出会ったリトル・レッド・コルベットの動画を観たときに、その動きの素早さとしなやかさに目を奪われました。小柄であの俊敏な動き,からすると、きっとポイントガードでしょうね。プレイがなんとなくイメージできます。闘う男を感じる曲で、何でこの曲を選んでいただいたのか?興味津々です。

 

―――プリンスは1978年にワーナーブラザーズと契約してキャリアを進めてきたんですが、1993年頃に拳銃反対のチャリティーをやろうとするんです。チャリティーソングをリリースして、その収益を拳銃撲滅運動に役立てる、というものだったのですが、所属のレコード会社からこのアイディアを潰されるんです。「チャートで1位をとることより、重要なことなんだ」と彼は訴えたんですが、銃社会アメリカで銃反対の活動をやるというのは、いろんな意味で困難だったということでしょう。そこでプリンスは、この曲の入ったアルバムを自分の独立レーベルからリリースします。

 

山本:拳銃反対の歌だったんですね!ポップな感じなのに。

 

ーーー曲調としては、親しみやすい感じはあるんですが、思いっ切り銃社会に対してNOを突きつけ、これ以降、レコード会社の言いなりにならずに独自の表現と流通ルートを開拓していくという意味で、プリンス流の静かな闘志が宿った作品でもあるんです。

 

山本:なるほど、静かな闘志!

 

―――山本さんが注目された、女性。彼女は、ノーナ・ゲイといって、銃で射殺されたソウルシンガー、マーヴィン・ゲイの実の娘さんなんです。この映像では、「ノーナが闇組織の指令でDJプリンスを暗殺しに行く。でもプリンスは、拳銃のサインを人ではなくて、天に向けたら「L」、Love Signだろ?と訴える。ノーナは銃を燃やしてコンサートチケットを手にする道を選んだ。」というストーリーになっています。

 しかも、この映像の監督は、アイス・キューブという西海岸を代表する元ギャングスタ・ラッパーで、アイス・キューブもまた、暴力的な路線からの脱却をはかってクリーンな活動に変化している時期の作品なんです。

 

 

 

「オレは闘う、でも怒りに任せては闘わない。みんなに届く親しみやすい楽曲と共に必要なメッセージを届ける」、そんな態度が曲と映像になっていると思ったので、Love Signを選ばせていただきました。

 

山本:おおおおっ!なんと!まさに斜め後ろからのノールックパスに痺れています。そしてこのLove Signのエピソード。拳銃のサインの方向を変えることで「L」…Love Signに変わること。怒りに任せては闘わない。みんなに届く親しみやすい楽曲と共に必要なメッセージを届ける。というところ、とても響きました。これはタイトル通り「愛」のうたですね。

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 愛も怒りもそうしようと思って出てくるものではなく、どちらも衝動的なものだと思います。その湧いてきた衝動に突き動かされてアウトプットとしての行動があって。でも、その根底が愛なのか怒りなのかによって形はずいぶん変わるなあと感じました。闘いという場においてもまさにそれは同じだなあと感じました。ゴール地点が全然違うように思います。

 

―――なるほど、根底の違いで、ゴールが違う。

 

山本:プリンスにとって、どうしても守りたい、実現したい・・・それまで積み上げてきたものよりも大切なものがあると確認しての決断。どんな気持ちだったんでしょうね。プリンスでも、これからどうなっていくか未知への不安があったんでしょうか。でも、自分で決めて選んで進むというところで清々しく誇らしい気持ちになったのではないかなあと想像します。

ここまでのスケールではないですが、自身の転機をふりかえっても「自分が守るべきものと手放すもの」を問いかけて決断したときに重ねてそう思うのかもしれないですね。闘うというのは、ある意味自分の内側の何かと向かい合うことなのかもしれないと感じました。

 

―――深い洞察をありがとうございます。彼の葛藤を含めたそのあたりの部分は、アーティストとして重要な部分だと思ってまして。プリンスが特徴的なのは、「ヒット」に対する考え方なんです。

 

山本:ヒットに対する考え方?

 

―――そうです。彼は、このLove Signのように、音楽が人々に寄り添ったり、世の中を良いほうに前進させることが真の目的だったんですが、それを成し遂げるにはやっぱりヒットを出して、影響力を持たなければならない。だからヒットはゴールじゃなく、「やりたいことをやるために必要なこと」だったようです。そんな価値観がデビューから2年目くらいの時にすでにあったんですね。

 

山本:それは凄いですね。

 

ーーーブランド名であり、本名であった「プリンス」の名前も捨てる。レコード会社副社長の地位も捨てる。大物歌手との共演も断る。山本さんがおっしゃるように「清々しさ」が漂うくらい、固執しないんですよね。なんていうんでしょう、おそらく葛藤や悩みを抱えつつも、やはり「畏れない、囚われない自分」を見せる、それがオレだ、みたいな自意識があったんじゃないかな、と思います。

 

山本:畏れない、囚われない自分。

 

―――あともう一つ重要なのは、楽曲、メッセージが共にアファメーションになっていること。未知の不安の中で、「オレはこうする」を作品の中で先に形にして、自分をその方向に導く、といったところがありますね。Love Signでも、こういう音楽と映像を遺すことで、自分の音楽は暴力や争いではなく、愛を表現する、みたいな。宣言であり、航海図のような。

 

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 山本:おおっ。フィットする言葉が見つからずにありふれた表現になってしまいますが、深く感動しています。「ヒット」が目的ではなく、自分が発信したいメッセージを広く伝え、世界にアプローチする手段だとはっきり認識していたからの選択。葛藤や悩み、不安と向かい合いながらも、敢えてポップな感じで愛を表現していくところに痺れます。ああ、それらの感情があるからこそのアファーメーションなんでしょうね。自分を変えていく、進化させることが世界の変化、進化につながっているという確信でしょうか。「世の中を良いほうに前進させること」が真の目的とありますが、プリンスが考える「良いほう」というのは一体どういった世界だったのか興味深いです。

 

ーーー「自分を変えていく、進化させることが世界の変化、進化につながっているという確信」という山本さんの言葉、そのものだと思います。彼の表現の特徴として、答えを投げずに問いを投げかけ、彼なりの答えは自身の表現や態度で示した。この対話から、そんな彼らしさの輪郭がハッキリしてきたように感じています!

 さて、いよいよ最終曲の3曲目に参りたいと思います。心拍数上げるStand Back、ポップにファンキーに”L”で戦うLove Signと来ました。次はいかがいたしましょう?

 

山本:そうですね。では「癒し」をテーマに1曲お願いできますでしょうか?今のところ毎日元気に今自分が出来ること、そして未来に向けての種まきをしている日々ですが、大変化の波を乗りこなそうと力が入りすぎているなあと感じることがあります。そんなときのおススメがあればお願いします。

 

ーーーでは、こちらはいかがでしょうか?Venus De MIloです。

 

 

山本:これもプリンスの曲なんですか?最初に300ものメニューがあるレストランという表現をされていましたが、今まで聴いたものとはかなり雰囲気が違って驚きました。メロディがとても美しくて、何度も何度も聴いてしまいました。実はこれも人体実験をしてみまして・・・。

 

―――おおお、またもや!ありがとうございます。

 

山本:「癒し」をテーマにお願いしたので、夜寝る前に聴く曲だわと勝手に思い、部屋の明かりを消してベッドに入って準備万端の体制で初めて聴きました。低音で始まり「おおっ!これは心の奥にフォーカスしてくるのか?」と思いきや、軽やかなメロディが流れ出しその美しさが心地よく、いつ歌が始まるのかな?と思っていたら気がついたら終わっていた・・・というのが初回の感想です。

 で、何回か繰り返し聴いているうちに、広い草原でやさしい風に吹かれているような気持ちになってきて光のイメージが湧いてきて「朝に聴きたい!」と思いました。今朝、起きてさっそく聴いてみました。窓を開けて朝の柔らかい光とこの曲を浴びながら、ルーティンのストレッチをするととても心地よかったです。そして、最後のピアノの音で「さあ、整ったからいってらっしゃい」と送り出された感じがして、初めての朝ラン&ウォーキングに行ってきました。

 

ーーー素敵な実験と詳細なレポートに感謝します。僕も「癒し」のテーマで、いろんなシチュエーションを自分なりに想定してみたのですが、今は2020年の5月の最初の日。緊急事態宣言の延長、増大する社会不安、解雇や倒産のニュース、ネット上を飛び交う非難と罵声・・・こういうシチュエーションにおける「癒し」って何だろう?って僕なりに考えたんです。ノイズに対してノイズを返しては、不安は増強されるばかり・・・そんな中でノイズから心を脳を守るには「静けさ」つまりサイレントが必要なんじゃないか?と考えました。このミロのヴィーナスの音の細部までしっかり聴こうと思ったら、まず「静かな環境」に身を置く必要がありますよね?

 

山本:ああ、たしかにそうですね。私も静かな環境で聴きました。

 

―――さらに「言葉」もある意味、癒しの邪魔になることも想定されます。例えばですが、大切な男性がコロナで苦しんでいる時に、「A Man」という歌詞で「想起させてしまう」可能性があります。そういうことが無いように、「静かな環境で、静かなる音をキャッチして、自由なイメージに逃避する」つまり、レスキューとしての音楽として選んでみたんです。

 ですから、山本さんが心地よい朝を迎えるためのマインドセットとして届いたのであれば、もう最高に嬉しいですね。プリンスはおそらく、メジャーなスターとしてはおそらく、ボーカルなしの楽曲をリリースした数はナンバーワンだと思います。アルバム単位でも変名含めて5枚は出していますし、通常のアルバムやシングルのB面、サイドプロジェクト等の中にスッと差し込むこともあって。ですので、もしこの曲が言葉の無い音楽体験のひとつになれば嬉しいです。

 

山本:ありがとうございます。「癒し」について考えを巡らせてこの曲にたどり着かれたプロセスを知って、なんだかじーんとしています。私たちは日々、言葉を使って考えて、言葉を使って他者とコミュニケーションを図っています。だから、言葉が与える影響ってものすごく大きいですよね。特に今はオンラインでのコミュニケーションが日々の大多数を占めていて、いつも以上に多くの言葉が飛び交っているように思います。会えば非言語で伝わる部分もSNSでは言葉のみの情報となっていて、限られたところからたくさんキャッチしようとしているのかもしれません。その分いつも以上に言葉に対して敏感になっているなあとあらためて感じました。

 だからでしょうね。この曲を何度も聴いていくうちになんだかとても「豊かな時間を過ごしているなあ」と感じていたんです。「余白」のありがたみとでも言いましょうか。実は朝のジョギングでもひとつ変化がありました。いつもは途中でつらくなっても最後まで走ることを自分に課していて、歩いたら負けという暗黙の掟(笑)みたいなものが自分にあったんですが、あえて「歩く」という選択をしてみたんです。つらいから歩くのではなく、あえて「歩いてみよう」と。そしたら、走っているときには気づかなかった優しい風やお花の香りに気づいて、さらに聴いていた音楽を止めてイヤホンも外したら鳥のさえずりも聞こえてきて・・・気づいたらふんわり笑顔になっている自分がいました。走っているときの表情とはかなり違っていたでしょうね。「ない」ことによって気づかなかった「ある」を得られたような気がします。

 

ーーー「豊かな時間」素晴らしいですね。いま、音楽の聴かれ方もレコードやCDの時代にくらべて、1曲単位になってしまっているというか、いわゆる即効性のある曲はどんどん聴かれるけれど、この曲のように音楽に向き合って情景が浮かんでくるような曲は、ネットの大海の中で聴かれづらくなっているような気がするんです。アルバムの中で「主役となるヒット曲」ではないのですが、でもそういう曲にもちゃんと意味があって。山本さんがランニングに集中されていた時には気が付かなかった「ある」にも通じるような楽曲かも知れない、といま改めて感じています。ここまで、山本さんにはお忙しい中、3曲のリスニングにお付き合いいただきました。初プリンス体験、全体を通じていかがでしたか?率直なご感想をお知らせいただければ幸いです。

 

山本:丁寧に対話を深めながら新しい世界を知るという非常に興味深い体験でした。初めにプリンスの印象を聞かれたときにWikipedia見に行ったけど全然頭に入らなかったとお話したと思うんですが、今の私はどうなっているんだろうと改めてページに飛んでみました。最初に見たときはただの大量の文字列だったのが、今読んでみると少しずつ言葉が入ってきます。ああ「唯一無二のスタイル」ってああいう感じなのかとか「ワーナーとの確執」・・・Love Signで聴いたお話だなあとか、モノクロの世界が少しずつ彩られていくような感じがしました。今回、プリンスを知って、曲に込められた想いや背景、根底にあるプリンスの愛を知ってからご紹介された3曲を聴くとあらためて沁みますし、もっともっとプリンスの世界に触れて、自分で感じ取りたいと思いました。

 

―――ありがとうございます。

 

山本:そして、もうひとつ。「世界はつながっているんだなあ」と実感しました。プリンスも誰か・・・ここではスティーヴィー・ニックスでしたが他にもたくさんの人々と影響を与え合い、世界の出来事を感じて想いを込めて曲を世に出す。それを多くの人が聴いていて、今回、こうやって私にも紹介してくださいました。お互いに新たな気づきがあって、それぞれがつながっている人たちにまた何らかの形で広がっていく…そんな連鎖を感じました。連鎖の根底には「世の中をよりよくしたい」そして「自分自身をよりよくしたい」これがあるからこそつながっていくのかなと、そんなことを感じています。

 

ーーーあああ、それは嬉しいです。録音された音楽や記録された映像は「変わらない」はずなのに、こちらの知識、経験、機会、関係などによって、「違って聴こえる」「違って見える」ってことはあるじゃないですか。彼はそういった「気づくトリガー」をたくさんしかけて「積極的に感じとる能力」であったり「偏見に惑わされない能力」であったりを引き出そうとした人なんだな、と思います。

 そして山本さんおっしゃる通り、世界が拡大していく醍醐味みたいなものを感じます。なぜ僕がいま、山本さんとご縁があるのか?というと、僕のツイッターや記事を読んでくださり、それに対してnoteで感想を記してくださったことがきっかけなんですよね。直接的な会話ではなかったけど、お互いの作品や発信で、会話したようなところがあったと思うんです。それまで全く別の世界に生きていたのに、SNSを媒介としてご縁ができて、プリンスの芸術によってさらにご縁がワンステージ上がっていく。そんな貴重な経験をさせていただいています。山本さんの実験精神であったり、ホワイトボードですぐに形にしてくださったり、そういう人としての姿勢からも学びがあって。感謝しています。

 

山本:「気づくトリガー」をたくさんしかけて というフレーズ、めちゃくちゃいいですね。昨日、講師や先生など教える立場の人向けのオンラインワークショップを開催したのですが、そこでも「教えないで教える」というテーマでディスカッションをしたところでした。発信側ってついつい相手の肩を揺さぶって「これ大事!」と伝えたくなってしまうんですが、それをやっちゃうと逆に相手に届かないというか。伝えた相手が当事者として自ら手に取ることで、そこに意味が生まれて変化や成長につながっていくんですよね。仕掛ける側としては、相手を信じて待てるかどうか。そこが大きいように思います。相手を信じるというのは、相手を信じる自分を信じるということでもあって・・・なんだか言葉遊びみたいになっちゃいましたが、その姿勢を貫き通しているプリンスにますます興味が湧いてきました。師匠と呼びたいです!

 そして、なんとなんと!noteにほぼ日での糸井重里さんと二重作拓也さんの対談の感想を備忘録がわりに自分が感じたこと書き残しておこうとひっそりと記事をアップしていたのですが、まさかご本人に届いていたなんて思いもしませんでした!それが「今」につながっていることに衝撃を受けております。あの対談を読んで「おもしろい!」と思ったこと、読んで感じたことを書き残しておこうと軽い気持ちで蒔いた種が忘れたころに思ってもみない形で芽を出していたという・・・「人生って、ご縁っておもしろすぎる!!!」と震えています(笑) 

 表現する・伝える・行動するということは自分と世界をつなげ、自分も世界も広げて深めていくための大事なアクションだなあとあらためて感じました。こちらこそ、身体を通して気づき学び、対話を通してさらに気づき学ぶ機会に深く感謝しています。

 

ーーー対談を読んでくださり、ありがとうございます。僕もあの時、糸井さんにいろんな角度から引き出していただき、気づかせていただいたんです。なんか昔、近所の憧れのお兄ちゃんが優しくキャッチボールの相手をしてくれたような。このプリンスの3曲もそうですが、彼が全く違うタイプの楽曲をつくったのも、人間の多様性にアクセスするためだったんじゃないかな?と思います。大切なことを、いろんな形で、優しい変化球も交えながら、受け取りやすいように。ですから、ほぼ日の対談、そしてプリンスの音楽を通じて、山本さんとも素敵なキャッチボールができたような気がして、非常に楽しかったです。これからのご活躍も、応援しています。どうもありがとうございました!

 

山本:私もとても楽しくエキサイティングな対話の時間を満喫させていただきました!2020年の今だからこそのゴールデンウィークならぬパープルウイーク、最高でした!どうもありがとうございました。これを機にプリンスをもっと聴いてみようと思っています!これからもおすすめなどをぜひ教えてください!

 

―――わかりました、紫大学のいたるところにそっとトリガーをおいておきますね!

 

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