食わず嫌い王子 03 白川 烈/ライター・エッセイスト

f:id:PurpleUniversity:20200425221514j:plain

ヨーロッパやアメリカでは「現代のモーツァルト」として高く評価されリスペクトされる一方、日本の一般層には「プリンス?誰それ?」状態。そんな時代に、究極のお節介企画、『食わす嫌い王子』。プリンスをあまり聴いていない方、存在自体知らない若い世代に、「殿下の音楽は届くのか?」実験的インタビューをここにお届けします。

 白川 烈/ライター・エッセイスト 

白川 烈 (@recchaaaan) | Twitter

 

ーーーこんにちは、紫大学です。おせっかい企画、「食わず嫌い王子」へのご参加をありがとうございます。まずは白川さんの自己紹介をよろしくお願いします。

 

白川:こんにちは!関西でライターをしている、白川 烈と申します。25歳です。どうぞよろしくお願いします。20歳の頃に大学を休学して、オリコンチャート一桁にランクインしたバンドのアシスタントや、熊本地震のあった年には熊本県阿蘇NPOの現地責任者をしながら復興支援に携わったりなど、あまりジャンルに囚われない活動を多くしてきました。現在はフリーランスのライターとして活動しており、大学生向けのサービスサイトの運営や、日常風景をエッセイとして書く仕事をしています。

 

ーーーなるほど、いろんな立ち位置を経験されているんですね!大学生との接点も多いとのことで時代の空気を直に感じられるのではないでしょうか。普段、音楽は聴かれますか?また、どのような音楽が好みでしょうか?

 

白川:人並みには聴く方だと思います。仕事中や考え事をしたいときはピアノやアンビエント系の曲を聴くことが多いですね。散歩するときは、声の入ったものを聞いたり。当たり前かもしれませんが、シチュエーションに分けて聴く音楽のジャンルが変わります。

 あとこれは職業病とも言えるんですが、どうしても日本語の歌詞が好きなんです。集めているレコードもほとんど昭和歌謡だったりで。好きなジャンルは?と聞かれるとやっぱり歌謡曲やフォークと答えちゃいます。でもそれはジャンルとしてというより、「歌詞が好き」が半分以上入っちゃいますね。

 

ーーーなるほど、シチュエーションと音楽がリンクされているのが伝わり面白いです。日本語の歌詞のお話も納得というか、普段から恒常的に言葉に接していらっしゃるんですね。さて3曲ほどプリンスの楽曲を趣味や趣向、気分、興味などに合わせてご紹介するという企画なのですが、白川さんはプリンスをご存じでしたか?

 

白川:存在は知っていたものの、曲を聴いたことはないんです。友人にプリンスを好きな方がいてその話を聞いたくらいで、知っているとも言い難いかもしれません。というかそもそも、プリンスって本名なんですか??

 

ーーー初体験なんですね!そうなんです、プリンス・ロジャース・ネルソンといいます。幼少時に離婚しちゃいましたが、お父さんが場末のジャズピアニスト、お母さんがジャズシンガーだったんですね。で。お父さんがステージネームを息子につけてしまった、という。

 

白川:へえー!生粋の音楽家庭ですね。というかそもそも、お父さんのステージネームはプリンスだったんだ!お父さんなのに(笑)

 

ーーー(笑)プリンス・ロジャース・トリオというのをやっていて。息子に今でいうキラキラネームをつけてしまった(笑)息子は大変ですよね、王子ですから。

 

白川:そうですね!少し話は逸れますが、「名前」って住所をあらわすものだと思っていて。まだ名も無かった黄色い花に「たんぽぽ」と名前を付けたから、その黄色い花(がある場所)を「たんぽぽ」と呼ぶようになった。人間でも、例えば僕のことを名字で呼ぶ人と、名前で呼ぶ人、あだ名で呼ぶ人はそれぞれで、ピンを指されている「僕」の場所が違う気がするんですよ。日本なんか特に、地名が由来になっていますしね。

 それでいうと、「プリンス」は生まれながらにして、「プリンス」という場所にピンを指されたわけですよね。それって、とんでもないですよね。楽曲よりも先に、人生が気になってしまいます(笑)

 

ーーーそのご指摘は、実は凄く大切な部分で。プリンス=王子という既成概念と戦わざるを得ない運命にあったのかも知れません。たとえば、1999って曲であったり、パープルであったり、プリンス以前から存在する数字や色を「自分を象徴するもの」として「ぶんどってくる」感じがあるというか。一般性のある「パープル」=「個人の表現者であるプリンスの象徴」にしたって、ある意味凄くないですか?

 

白川:凄い。がぜん、彼が音楽で何を表現したのか、気になってきました。

 

ーーーでは、白川さんへの1曲目、いってみましょう。こんな感じの曲がいいとか、個性的なのがいいとか、何でも構わないので、ご希望を知らせてください。

 

白川:そうですね...プリンスの処女作を聴いてみたいです。

 

ーーーデビューアルバムの『FOR YOU』から1曲目の「FOR YOU」を。

 

 

白川:ちょっとこれ、いきなり度肝を抜かれました!想像していたのを遥かに上回る、完成度と歌声。脳に直接響いている感じがします。これがデビューアルバムのオープニングなんですか...完全に仕上がってるように感じます。もうすでに、芯があるというか。ブレたりすることが悪いわけではないけれど、もうこの時点でその境地には居ない。

 

ーーー早速、ご感想をありがとうございます。1978年のデビューアルバムは「全部自分ひとりで」つくってます。もはや意味が分かんない(笑)

 

白川:セルフプロデュースでこの完成度。いや、セルフプロデュースだからこそ、この完成度なんですね。もしかして、コーラスもすべてプリンス1人の声ですか?

 

ーーーはい、自分の声と自分が鳴らした音以外、ファーストアルバムには一切ありません。

 

白川:純度100%、無添加のプリンス。賛美歌すらも、己でつくれるのだと。

 

ーーー無添加プリンス(笑)たしかに!白川さんも、表現活動をされる上で、セルフプロデュースというか、全体を構築するみたいな視点で取り組まれることはありますか?

 

白川:そうですね、これも癖のようなものなんですが、全体を把握しておかないと気が済みません。森を見て、自分の木をどこに植えるかを決めたいので、まず森を人に聴いたり自分で観たりしちゃいます。これに気付いたの、小学生の頃におじいちゃんと将棋をしていたときなんですよ。

 

f:id:PurpleUniversity:20200425222420j:plain

 

ーーー将棋の時に。

 

白川:はい、将棋を始める際の自陣の作り方が、人によって違うことに気付いたんです。まず「歩」だけを集めて並べていく人もいれば、「王将」を先に探して、その周りから固めていく人もいる。とりあえず近いものから取って、揃っている駒なら渡してくる人も。おもしろい具合に、性格が出るんですよ。

 僕の場合は、適当に取って並べながら、相手の陣地も見つつ並べるんです。「あ、香車取ってるから、あとは自分のだな」とか。そうすると、駒が足りてない時に早めに気付いたりもします。そのときに「自分は現状把握をまずいちばんにしたい人間なんだ」と。

 

ーーーなるほど、将棋のフォーマットの中で「その人」が出てしまう、と。で、白川さんは、おじいさんとの将棋の中で、自分の特性を理解されたんですね。

 

白川:そうですね。将棋に限らず、そんな瞬間を見つけるのが好きで。

 

ーーー駒と将棋、そして木と森のお話にリンクする部分なのですが、プリンスの場合、「1曲で世界が完結してる音楽家」というよりも「1曲がまさに将棋の駒のように」全体を形づくっている、そんな側面があるんです。

 

白川:1曲が将棋の駒のように。

 

―――はい、先ほどのFOR YOUにしても、「私は私のせいいっぱいの愛と誠実さをあなたに捧げる」と宣言してるわけですが、次のアルバムにはI FEEL FOR YOU、あなたを探してる、という曲が出てくる。これが世界的に大ヒットしたパープルレインの時代になると、I WOULD DIE 4 Uという4 Uに変化する。「僕の話を心から信じてくれるあなたのなめなら、死んでもかまわない」になる。

 

白川:曲が、意味合いが進化してゆく。これは、プリンス自身の心境の変化と関係があるのでしょうか?

 

ーーー心境の変化の刻印、ジェットコースターみたいなアップダウンを含めて表現するようなところはあったように思います。さらに「変化からも何かを感じ取れるように」しかけてあるような。2009年にはNo More Candy 4 U (もう君たちに与えるキャンディーはないよ)って思いっきり突き放してますし(笑)

 

白川:デビューから30年で、キャンディは切れた。ここで比喩するところのキャンディは、なんだったんだろう。早くも、次の曲が聴きたくなってきました。

 

ーーーでは2曲目を選んでみたいと思います。どんな感じで参りましょう?

 

白川:そうですね・・・、では、プリンスの転換期、分岐点になったであろうと思う曲を聴いてみたいです。

 

―――では、ダーティー・マインドで!

 

 

白川:ははは!これ、チョーカッケー!!!!(笑)

食い入るように4分ずっと観てしまいました。かっこいい!同じ男としても、アーティストとしてもこんなことされると惚れ惚れしますね。

 

ーーーこんなことされると(笑)

 

白川:4分半、つまり一曲分まるまる飽きるどころか、食い入るように観れる。これって、とんでもない所業ですよね。たぶん、普通の人がやっても、ただのミュージシャンがやっても、コントですよ。最後まで観てらんない。でも不思議と、観れちゃう。なんならこのディスコソングに腰が動いちゃう感じ。

 

ーーーあははは、そうなんですよ、もうね、コント、ギャグの領域なんです。裸にスカーフに、リトル・プリンスもゆさゆさ揺れるビキニパンツに、ロングタイツに、ハイヒール。その上にトレンチコートを羽織って、クルクル、クネクネ、わけのわからん奇妙なダンスを繰り広げる・・・変質者ファンションの先駆者。

 

白川:あははは、観るからに分かりやすい!いったいどういう転換をしたのですか?

 

ーーー先ほどのデビューアルバムはつくりこみも完璧な作品だったんですが、当時はジャンルレス過ぎて売れなかったんです。で、セカンドアルバム『Prince』は完全に売りにいったら、ファーストシングルのI Wanna Be Your LoverがR&Bチャートで1位、総合チャートで11位のヒットになったんですね。マイケル・ジャクソンのと首位争いをしたりして。

 

 

白川:ほうほう。

 

―――で、そのままの路線で行けばおそらく「第2のスティービー・ワンダー」、すなわちR&Bやソウル、ファンクの才能ある若手の認知は得られたはずなんです。ところが、3枚目のアルバム『ダーティー・マインド』で大きく舵を切った!変質者ファッション、歌詞もオーラルセックスや近親相姦を題材にした放送禁止アルバムを発表してしまう。そのタイトル曲がこれです。

 

白川:1枚目で己をフルに表現して、2枚目で実績も勝ち取った。そして、3枚目。もしかしてですが、この舵の切り方は時代背景に大きく関係があるんでしょうか?

 

ーーーさすがの視点ですね、時代背景は極めて大きいです。1980年頃は、ロックやフォークは白人、ソウルやファンクは黒人、といった感じで音楽と人種が分けられていました。人種的マイノリティだったプリンスやマイケルは、マジョリティである白人の支持を得ることがメジャーブレイクに必要だったんですね。そこでプリンスは「なんじゃこいつは?」と注目を集める戦略に打って出たんです。ブラック特有のリズム感と演奏能力を持って、当時のパンクやニューウェーヴといったヨーロッパの音楽の要素も取り入れた音楽を出してきた。

 

白川:なるほど、新しい波を受け容れた、とも言えますよね。ヨーロッパの音楽の要素や新しい波だけでない、肌の色や今までの活動、すべてを受け容れて、変化した。まだ2曲しか聴いてないけれど、それでも1曲目の『FOR YOU』で驚くべきほどの完成度を見せていたのに、それらを捨ててまで変化することは並大抵の意志では出来ないように思います。

 プリンスにとって、大切だったのは"そこ"じゃなかった。そのために変化した。プリンスは一体、音楽というものに何を感じていたんでしょう。「よくわかんない変なヤツ」になってまで、やり遂げたいことがあった。それとも、ただ純粋に己を楽しんでいたんでしょうか。

 

ーーーなぜ変なヤツになったのか。これ彼の戦略だったんです。さっきの映像でやたらオーディエンスが映りますでしょ?

 

白川:あ、それとっても気になってました。カメラワークと、それに対するプリンスが仲良すぎるな、と。

 

―――あれ、実はフェイクなんです。

 

白川:フェ、フェイク?

 

ーーーはい、あの時期の支持層はクロスオーバーしていなかったらしいんです。音楽的にはデビュー作から、ハードロックもフォークもあって、完全にジャンルレスだったんですけどね、彼の支持者はブラックがほとんどだったんです、本当は。そこで、映像で先にクロスオーバーさせて、つまりアファーメーションとして「これからクロスオーバーさせっからな、見とけよ」みたいな映像なんですね。で、変態路線で耳目を集めながら「存在としてのインパクトを優先した」という。今でいう炎上商法のような。

 

白川:なるほど、自分が、あらゆるものの交差点となったんだ。音楽を通路にして。たった2曲でここまで聴けて、語れるというのも凄いですよね。縦横無尽に話が展開できてしまう。このあとのプリンスは、いったいどこへ向かうんでしょう。

 

ーーーあまりインタビューなどにも答えずに「???」を打ち出しておいて、映画「パープルレイン」で「これがプリンス!」をわかりやすく伝えてスターになりました。しかしその後も、そこに安住することなく、変化、変化、変化。ある特定のジャンルの住人になることを拒否して、現代音楽のあらゆるスタイルを手中に収めていく、そんな冒険を見せてくれましたね。

 

白川:そうなんですね!興味深いです。どうして僕は、マイケルやボブ、ジョンレノンは大好きで通ってきたのに、彼だけ見過ごしたんだろう。

 

―――今日がその日になりますよう、ラスト曲を選んでみたいと思います。ご希望はありますか?

 

白川:そうですね、処女作、転換期と来たので最後は晩年のプリンスを聴いて、時間軸で捉えてみたいです。

 

ーーーありがとうございます、それでは2014年にリリースされたアルバム『Art Official Age』からオープニングの1曲め「Art Offcial Cage」を。もし可能なら、ヘッドホンもしくは大きめのスピーカーシステムがお薦めです。

 

 

白川:うおお!EDMのようなイントロから、素晴らしいサウンド。こんなところまで行くのかー。今っぽさと昔の感じが上手く混ざり込んでるのもありますね。

こちらは、プリンスの中で最後のアルバムになるのでしょうか??

 

ーーーこのアルバムの後に2枚でるのですが、アルバム『Art Official Age』の拾遺集、後拾遺集みたいな色彩があるんです。活動中に他界してしまったので、その2枚のあと、どのような展開になったのか、謎を残したまま・・・。ただコンセプトとしては『Art Official Age』は一つのマイルストーンであることは間違いなさそうです。アルバム名と、1曲目のタイトルが微妙に違ったの、気づかれましたか?

 

白川:たしかにAgeがCageになってますね。Cageは籠という意味ですか?

そもそもArt Official Age、ってなんなんだろう?

 

ーーーArt Official Age、無理やり直訳すれば「芸術が公式化する時代」ってことになりますよね。でも、音だけ聞くとartificial、すなわち人工的、にも聞こえる。「人工的な時代」でもある。AgeがCageになると、人工的な籠、檻。

 人間表現であるアートの時代になるか?それともスマホやPCに支配された人工的な時代になるか?そして我々は檻の中にいないか?問いかけているんです。白川さんがEDMっぽいサウンドに感じたのも、「こういうのもできるぜ」でもあるけど同時に「こういうのでいいのか?」でもあるわけです。

 

白川:うわー、なるほど。最後に、とてつもない作品。遺していったんだ。なんだかプリンスは、僕たちに、人間に期待している印象を受けるんです。信じてるよ、というか。

 

ーーー人間への期待、その視点は非常に興味深いです。彼の表現の中には「LIFE」、その対概念としての「死」や「終わり」も頻繁に出てくるんです。『Art Official Age』に収録されているWay Back Homeという曲にちょっとゾッとする歌詞が出てくるんです。「この世の多くの人は生まれながらにして死んでいる。でも僕は生きるために生まれた。」

 

白川:生きるために生まれた。

 

―――人間の賢さも、愚かさも、ブライトサイドも、ダークサイドも、喜びも悲しみも含めて「人間らしく生きる」への愛や肯定があったんだと思います。ただその愛は「まあ、人間なんだから楽しくやりましょうよ」みたいなぬるい感じじゃない。人間の不完全性を理解しながらも、魂を殺さずに生きる様を見せるというか。おそらくは彼自身を含めた「人間の可能性への期待」のようなところでしょうか。

 

白川:人間の可能性への期待。なんでしょう、「勝手に期待されても・・・」と表面では思いつつも、奥底では感動してしまう。以前、ほぼ日刊イトイ新聞さんに掲載されている、矢沢永吉さんと糸井重里さんの

ほぼ日刊イトイ新聞 - 上がりたかったんだ。E.YAZAWAの就職論

の中で、矢沢永吉さんがこんなこと言ってたんです。

 『人のせいにしちゃダメだよ。周りのせいにしちゃダメだよ。そして、いま言ったことは、俺もそっくりそのまま、自分に問いかけるから。』

 僕、もう、涙をこらえちゃって。「そんな約束されても・・・」、なんて戸惑いながらも、矢沢永吉ほどの人間が、「おれも守るからお前も守ってくれよ」と言ってるんだ、って。その期待というか、彼の約束に胸を打たれたことを思い出しました。

 

ーーーそっくり自分に問いかける・・・読者であった白川さんにも約束が届いた。おそらく矢沢さんは「YAZAWA」を。プリンス・ロジャース・ネルソンは「PRINCE」を創造した。その時に他に求めなかった。先ず真っ先に自分に求め、ずっと自分に求め続けた。おもえば、矢沢永吉さんも「曲」よりも「存在」が超えちゃうイメージがありますね。

 

白川:おっしゃるとおり、そんな印象はありますね。

 

―――偶然にも、Art Official Cageのイントロで「紳士淑女の皆様、王様たち、女王様たち、そして全ての皆さん!僕の教室へようこそ。あなたは今、人生を永遠に変える授業にきています。さぁ、檻を開きましょう。」という意味のデンマーク語でナレーションが入るんです。矢沢さんのメッセージで、白川さんは何かを受け取った。プリンスの世界もまたひとつの教室だったような気がします。

 

白川:まさにそう思います。そしてプリンスが亡くなられた今、そして命日である今日に時代を経て、何かを受け取ることができた気がします。

 

f:id:PurpleUniversity:20200425222835j:plain 

ーーー今回は、20代の若き表現者といろんな対話をさせてきただきました。白川さん、いかがでしたか?

 

白川:いやあ、楽しかったです。なんていうでしょう、いい意味での「添加物」が盛りだくさんだったというか。料理で例えると、純粋に食べ物そのものを味わってることって、実は意外に少ないんじゃないかと思っていて。

 「これは気仙沼で今朝獲れたサンマなんだよ」とか「同じウニでも、〇〇産のはよりクリーミーでね」とか。何日も食べれなかった後のなんてことないおにぎりがとっても美味しかったり、お袋の味なんてのもそうです。味そのものよりも、知識だったりシチュエーションだったり思い出だったり、ある意味食材とは別の添加物と一緒に味わってるなと思うんですね。

 まさに今回のプリンスはそんな感じでした。曲の裏話や時代背景、プリンスを初めて味わうぼくのリクエストを聴いてもらいながら3曲を紹介してくださった。それらと一緒にプリンスを聴けたのが、とっても良かった。もちろんそれは、プリンスという素材の素晴らしさありきですし。今までプリンスを聴いてこなかったのは、「今日出逢うためだったんだ!」と思ったぐらいです。

 

ーーーおっせかい企画、やってよかったです(笑)言われてみれば、あんまり味では覚えてないですね。誰と食べたとか、店の親父のキャラとか、どんな会話したとか、そんなのとセットとしての「食の記憶」のような。アートも、音楽も、映画も、スポーツなんかもそうかもしれないけれど、やっぱり「出逢い」あっての名作であり、名試合ですよね。絶世の美女も、誰からも知られなければ美女ですらない、というのと同じで。英語圏では現代版のモーツアルトとして認知されてるプリンスですが、日本では伝わる機会が減ってしまえばしまうほど、どんどん過去の人になってしまいます。そんな状況の中で、若者に彼の音が届いたというのは、言葉にできない感動がありますね。

 

白川:僕はこれからプリンスを聴くたび、プリンスの話をするたびに、今日のことを思い出すわけですから。特別な出会いにしていただいて、心からありがたいなと思います。残念ながら、プリンス自身がもうこの世には居ないので、プリンス自身は塗り替えられませんが、プリンスを通してこれからの僕は何度も塗り替えられ、更新されます。そういう意味では、ぼくにとっては過去の人どころか、これから関わる人になります。そのきっかけをいただいた。

 

ーーーそうか、白川烈という若者にとって、彼は新しいんですね!それは僕にとって希望の言葉です。たしかに彼の音楽は「伝統と革新のお好み焼き」のようなところがありました。古さと新しさを掛け合わせることで、世代を超えて語り合えるギフトを遺してくれたんですね。偶然にもこの対話は彼の旅立ちの日(4.21)に行われていますが、終わりは始まりでもあったんですね。

 

白川:心から好きなものを語っている人には、自然と耳が傾いちゃいますから。プリンスの引力もそうですが、紫大学さんの「好きの引力」につられて、ついつい聴きたくなることを聴いてしまう。好きなものを語っている人は分かりやすくキラキラしているから、どうしてもそっちに目が行きがちなんだけど、それをきちんと相槌を打ちながら耳を寄せている人も同じくらいキラキラしてる。なんだか久しぶりに自分がそう在れたような気がして、嬉しくなりました。

 

ーーーありがとうございます。インタラクティヴ(双方向)の重要性を改めて感じるとともに、読んでくださる皆さんにもキラキラ感が伝われば嬉しいです。ヒーローのリアルタイムの後をどう過ごせばいいのか?暗中模索ではありましたが、おかげで光が見つかったような気がします。ありがとうございました!

 

白川:僕も、これから何度も何度も聴くことになるでしょうし、違う曲を聴いてどんなことを思うのか、また時間が経ってどんなことを感じるのか。楽曲を通じて手ほどきを受けながら、プリンスという芸術家を通じて、新しい自分に出会えることが楽しみです。こちらこそ、ありがとうございました!

 

twitter.com


(構成・編集 Takki)