ほぼ日 プリンスとモリッシー Impression 01 Takki

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                           イラスト:杉山鉄男

 

プリンスとモリッシー

愛と、勇気と、自尊心の話 (ほぼ日)

 

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「プリンスとモリッシー」である。ありそうで、なかった組み合わせ。このタイトルだけで「他とは違う何か」を感じられた方もいらっしゃったかも知れない。

 

もし2人の違いを列挙しだしたら、それこそキリがない。あなたとわたしが違うように。あの人とこの人が違うように。もしかしたらそれ以上に、「2人は全く違う個性」であり、同じ音楽を表現の核としながらも、そのアプローチもテイストも、あまりに異なる。

 

だが・・・

 

「ほぼ日」さんのThe Magnificent(最上級)な企画での対談では、意外にも2人の共通点が浮かび上がることになる。そして僕は、ザ・スミス、そしてモリッシーの生き様に魅せられた上村さんの言葉から、モリッシーはもちろん、プリンスをも教えていただいたのだ。

 もっと丁寧に言葉を尽くすならば、「モリッシー」というフィルターを通してそれまで僕自身が知らなかった「新しいプリンスの一面」が立ち上がってくるーーーそんな貴重な経験をさせていただいた。

 

 少なくともプリンスに関して少しは理解してるかもしれないと「勝手に自負していた僕」が、上村さんの徹底したモリッシー愛に触れることで、

 

「スミス、凄いなぁ!モリッシー、今も現役で戦ってんだ!ガーディアン誌にも負けてないんだ!いくつになってもその様子を見せて欲しいなぁ~!」

 

という気持ちになり、その気持ちのままふと「プリンス」を振り返ると、まるでグーグルに言葉を入れてEnterボタンを押したときのように、

 

「古き価値観をひっくり返そうと全力で戦ってきたプリンス」を彼の遺した様々な作品やエピソードの中にそれを見つけようとする自分を発見してしまった。現在進行形で世の中と対峙し続けるモリッシーと、苦境にあってもFearless(畏れない)を貫き通したプリンスが、自分の中でシンクロし始めたのだ。

 

プリンスはかつて、自身の楽曲、「カオス&ディスオーダー」の中で、このように歌っている。

 

「オレは名もなきレポーター。世の中に伝えなきゃならないニュースなんで無くなればいいのに」

 

まさに「混沌と無秩序」に支配された世の中と自分の心を憂い、嘆き、怒りを表明した。

 

 上村さんが語るモリッシーは、プリンスが歌うところの「レポーター」そのものだと僕には感じられた。過去の栄光に胡坐をかくことなく、「懐メロ化」を全力で拒否し、現在進行形の自分を見せる。自分の瞳から見た景色の中で、モリッシーが心の奥底から感じたことは、批判を恐れずに表明する。(時にはTシャツまでつくる!)

 

世の中の不条理や理不尽を何とか良い方向に変革していくためには、それらをまず「認識しなければ始まらない」わけだが、そういう意味でもモリッシーは世の中に対して伝えるべきことを伝えるメッセンジャーとして、勇気ある表現活動を継続している稀有なアーティストであることがわかる。

 

表現される音楽と創造される言葉は違えども、時代の鏡たらんとする2人の姿勢、怖れを克服しようとする勇気、そして聴く者を勇気づけ、文字通り「自分の力で」立ち上がることを喜ぶ気高きアーティスト精神は、音楽や表現を下支えする水面下の部分で遠からぬ何かを感じた方も多いのではないだろうか?

 

そして、モリッシー自身も、プリンスについて言及している。

 

「プリンスは長年のヴィーガンであり、畜殺場の全廃を強く訴えてきた提唱者だ。でも、このどちらも、彼の神秘的な人生と悲しい死を特集しているにもかかわらず、わたしが昨日目の当たりにした100のテレビ番組では言及されなかった。

この2点は、権力者層の利益に反する表現だと認識されているから言及されなかったのだろう。僕らのようなガレー船を漕ぐ単なる奴隷には、知ることは許されないのだ。

プリンスは思っているよりも世界に影響を与えてきた。彼の音楽の人生はまだ始まったばかりであり、彼が歌ったように、叙情的な人生を送ったことに対して人間だけでなく、動物からも感謝されることになるだろう。人間よ、分かる通り、世界はお前らだけのものではない。」

モリッシー、プリンスについて「エリザベス2世よりもずっと王家らしく気高い」と追悼 | NME Japanより)

 

これはプリンス逝去時のコメントだが、モリッシーはまさに彼にしかできない形で見事にプリンスを、そして一面的なRIP報道の在り方の問題点を捉えている。

 

スミス時代、「心に茨を持つ少年」と歌った彼は大人になっても、その感性を鈍化させることなく、同時に世の中の大多数の認識に取り込まれることなく、ずっと「モリッシー」である様子が、このコメントからジワジワと伝わってくる。その視線の鋭さは衰えるどころか、ますます本質を射抜いているようにも感じられる。

 

 

 

 

モリッシーの発言が、動物愛護者としてのプリンスをハッキリ示しており、僕を含む多くの人々が、彼の発言を通して「プリンスを再び捉え直す」ことになったのだ。

 

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そしてモリッシーは「彼の音楽の人生はまだ始まったばかり」と伝えている。プリンスの逝去を受けた時点のこのコメントを読んだとき、正直、僕は意味が解らなかった。

 

「え?いなくなったのに!始まったばかりって?どういうこと?」

 

奇しくも2020年、コロナ・ショックが世界を覆った時、SNS上で「プリンスならどんなメッセージを発しただろうか?」という内容の投稿が相次いだ。

 

そして彼の故郷、ミネソタ州ミネアポリス市で5月25日に発生した白人警官による丸腰の黒人男性の圧迫死事件。デモ、暴動は全米、欧州にまで飛び火し、日本でも連日放送される事態となった。

 

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 アメリカでも最も平和な音楽都市、ミネアポリスは暴動の街として世界に知られることになったのだが、ここでプリンスが投げかけてきたメッセージのパズルが完璧に一致したのだ。

 

・彼が世界中で大ブレイクした時のバックバンドがThe Revolutionであったこと。

・パープルレインの雨で人々を覚醒させたこと

・授賞式でのBlack Lives Matterに言及した歴史的スピーチ。

・「我々は行進を続ける」と歌いデモを肯定したWe March

・まだ人種差別はなくならない?と怒り狂ったDreamer

・暴力ではなく歌と行進による「平和的デモの方法」を映像に収めたBaltimore....

 

 

 ミネアポリス市は警察を解体し、再編成することを発表。人種差別に対するシステムの改革はプリンスが愛し、活動の拠点としたミネアポリスから始まった。

 

さらに

 

「 キミはまだ白人に押し付けられた名字のままじゃないか!」とアフリカ系アメリカ人の問題の根幹部分を鋭く指摘したFamily Nameの歌詞の通り、アフリカのガーナは

 

「今の場所で必要とされていないならとどまることはない、アフリカは皆さんを待っている」

 

と世界に向けて声明を発表している。

 

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「アルバムって覚えてる?アルバムは大切だ。本や、黒人の命のように。アルバムは大切なんだ。(プリンス)」

 

モリッシーのコメントは圧倒的に正しかった。「プリンスのメッセージが意味を持つのはこれからである」という未来を誰よりも理解していたのは、モリッシーだったのだ。

 

そして彼はこのように述べている。

 

 

 プリンスという名を黒人の父親に授かった貧しい少年と、生まれながらに権力と富を手にしていた英国のプリンセスを比較し、世に問いかけている。

 

彼ら2人は表舞台で共演することはなかったが、音楽よりももっと深い部分で、共鳴する何かがあったんじゃないか?そう思わずにはいられない。

 

 今回、このような素晴らしい、そしてありえない(ゆえに有り難い)企画をくださったほぼ日さん、糸井さん、編集担当の稲崎さん、もし皆さんのお気持ちが無ければ、プリンスの日本での認知は寂しいものになっていたかも知れません。イラストの秋元さん、プリンスとモリッシーの8変化、超楽しかったです。ワンタイムアーティストではない2人にふさわしい最高のアートでした。そして対談相手の上村さん、モリッシーへの愛はもちろん、それを誰にも届く洗練された形にされる態度と、依存しない高潔なお人柄に感銘を受けました。上村さんからモリッシーを感じる、というのが僕にとっての極上体験でした。そして対談を楽しみに読んでくださった皆様、応援してくださった皆様にも心から感謝申し上げます。

 

最後にひとこと。

 

RIP、じゃ、遅いんです。もし、あなたが心から愛する表現者がいるならば、もしあなたの心を救ってくれた人がいるならば、その人が元気なうちに(できれば活動されているうちに)敬意ある形で表してください。(今はSNSもありますしね!)そしてプリンスとモリッシーが示してくれた「自分らしく、自分の力で」が混迷の時代の希望となることを信じています。最後まで読んでくださり有難うございます。 2020.6.14  Takki

 

PS.プリンスとモリッシーの対談を読んで、インスピレーションを受けたイラストレーター、杉山鉄男氏が最高のアートを創作して送ってくださいました。気の遠くなるような緻密な工程を経た点描画です。ご堪能いただけたら幸いです。

 

 

 

 

https://twitter.com/Otsutema_S