食わず嫌い王子 02 勝井 洋/理学療法士

 

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食わず嫌い王子 ~あなたの殿下がここにいる!かも?~

ヨーロッパやアメリカでは「現代のモーツァルト」として高く評価されリスペクトされる一方、日本の一般層には「プリンス?誰それ?」状態。そんな時代に、究極のお節介企画、『食わす嫌い王子』。プリンスをあまり聴いていない方、存在自体知らない若い世代に、「殿下の音楽は届くのか?」実験的インタビューをここにお届けします。

勝井 洋さん/理学療法士 https://twitter.com/fightingmed

ーーーこんにちは、紫大学です。このような実験的な企画にご賛同いただき、ありがとうございます。まずは勝井さんの自己紹介をお願いします。

 

勝井:勝井洋と申します。この度はとても面白い企画へ参加させて頂きありがとうございます。私は格闘技をしていたことからリハビリの理学療法士という仕事に就いています。音楽は高校の頃は同級生に洋楽好きが何人かおりロックを中心に勧められたCDを聴いていることが多く、激しい曲調で政治的な思想をメンバーが持っていることにも興味がありRage Against The Machineが特に好きでした。

 

ーーーロックからスタートされたんですね!

 

勝井:はい!20代からヒップホップを好きになりその中でも特に生き方にも刺激を受けた2PACのファンになり今もよく聴いています。ジャズも好きで毎年常連として通っていたカフェで行われていた野外ジャズライブに行っていたこともありました。

 今は特定のジャンルやミュージシャンにハマっているということはありませんが、寝る前には脳をリラックスさせるような音楽をかけたり運転中に好きな音楽をかけたりなどライト感覚で音楽を楽しんでおります。

 

ーーーなるほど、医療者であり、格闘技もされているのですね。RATM、2PACがお好きということですが、ぜひ彼らの魅力を教えてください。

 

勝井:RATMの魅力は感情を揺さぶられるような音の強さがあることで、特にアドレナリンが出るような曲をよく格闘技の練習に向かう車の中で聴いていました。20代後半になると少し落ち着いてリラックスして聴けるような音楽が好きになり、2PACの作品にはアップテンポなものだけでなくメロウな曲もあることに魅力を感じています。

 そこから2PACがどんな人物かにも興味を持つようになり、短い生涯の中でも多数の未発表曲を残して多作であったことや、当時の黒人社会の厳しい環境をリアルに伝えていることに一人の人間としての強さを感じてより好きになりました。2PACが獄中で読んだ哲学者のニッコロ・マキャヴェッリの著書「君主論」に影響を受け「マキャベリ名義」にしたエピソードがあり、当時の自分はそれを知って現実的な考え方やリーダー論の勉強になるきっかけをもらいました。

 

―――RATMのアドレナリンがでる、すなわちテンションがあがるような音楽はここぞというときの強烈なカンフル剤としても意義があるように思います。そして2PACは25歳で凶弾に倒れた、カリスマラッパーですよね。よろしかったら、勝井さんのお薦めの曲を紹介していただけますか?

 

勝井:推薦曲は「To Live and Die in L.A.」です。歌詞にある「またこうして耳障りな曲を書いてる俺。けどこんな俺でも物事を前向きに考える事を身につけたんだぜ。だからこうしてペンを片手に戦ってるのさ 」という言葉にポジティブ思考が感じられて好きです。

 

―――2pacの歌詞も力強いですね。名前を変えて活動した、という点も興味がわくところです。こうやってお話を伺っていますと、「差別や問題の中にあっても強くあろうとする意志のような音楽」が勝井さんのお好みなのかな、という印象を勝手に受けたのですが、いかがでしょうか?もちろんそれだけではないという前提の上で。

 

勝井:仰る通りだと思います。逆境の中から立ち上がる、自分を強くするような勇気をもらえる音楽は楽曲だけでは無い「何か」を感じます。自分の中ではそういう要素もひっくるめてカッコ良さであったり、曲から受ける印象であったりが音楽に求めるものなのかも知れません。

 強くなりたかった、格闘技をやり始めた頃や社会人として働き始めた頃の気持ちとリンクしているような気もします。そのミュージシャンに対する憧れもセットで好きになっているのも確かにあります。ですので今の自分の状態や気持ちに合わせた音楽に出会えたら、そこからまた好きになれる音楽との出会いがあるのかもしれないと、質問を受けて私も気付かせて頂きました。

 

ーーーなるほど、格闘技、お仕事、ご自身が目指す方向などをふくめて、音楽がそれらを緩やかにつないでいるのかも知れないですね。

 

  

2PACのご推薦の曲も聞かせていただきましたが、あくまでも主観ですが、アメリカ西海岸の開放感ある心地よいサウンドの中に、時々いわゆる放送禁止のダーティーワードが混じってくる感じが印象的でした。「だからこうしてペンを片手に戦ってるのさ 」のメッセージ通り、ポジティヴなサウンドと映像に伝えたい本音を乗せてるのかな?なんて。続いて、RAGE Against The  Machineも検索してみました。

 

 

「疾走感に溢れててカッコいいなぁ!」が第1印象だったのですが、何回か聴くと、1曲の中に抑揚があったり、展開があったりで、「いわゆるノリだけで突っ走る感じ」じゃないんだなぁ!と。フラストレーション溜まったときに大音量で浴びたい曲がまた見つかった気分です。

 

勝井:音源を検索して頂きありがとうございます。2PACのこの曲はいつ聴いても日本には無い独特の感性を感じます。レイジのこの曲は総合格闘技イベントPRIDEのテーマにも使われていて久しぶりに聴くと当時の熱さが蘇ってきますね!

 

ーーーたしかに!2PACは映像も含めてLAを知る手がかりのような気がしましたし、RATMと格闘技は納得の組み合わせですね!またあらたな音楽を知れて嬉しいです。ありがとうございます。では、まず1曲目を選んでみたいと思います。「こんな感じ」とか「ジャンル」とか何でもいいですので、お知らせください。

 

勝井:では、自宅でトレーニングで一人でもモチベーションが上がるような曲をお願いしたいです。

 

ーーーわかりました、ではEndorphine Machineをご紹介します。

 

 

勝井:まずは曲のパワフルさを感じました。全ての音が大音量で流れているような、それぞれの力強さがありますね。そしてリズムに乗りやすいのも格闘技トレーニングにはすごく良いですね。始めから終わりまでずっと乗っていられる心地よさがあります。

  曲の全体的な感じとしてはすごく明るいですね。怒りをぶつけるような曲ではなく、中にあるエネルギーをとにかく解き放ちたいようなエネルギッシュさからくる激しさ、こんな感じは身体を動かしたい衝動ともリンクすると思いました。

 「細かいことは気にせずガンガン行こう」というような気持ちにさせてくれるのも日常のストレスを気分転換したい時に良いですね。プリンスのシャウトや途中のラップのような部分も印象的で、楽しく歌っているのが伝わってくるような感じがあって好きなことに打ち込みたい時にも気分的にマッチするように感じました。

 

ーーー素敵なインプレッションをありがとうございます。K-1のテーマにもなった曲でもありますので、パワーありますよね。そして「エネルギーを解き放ちたい」という言葉にはびっくりしました。

 

勝井:おおお!

 

ーーーこの時期のプリンスは、名前をシンボルマークに変えた時期で、簡単に言えば「新しい自分としてデビューする」そんなフレッシュさがあって。音と映像からも以前のプリンスとは明らかに異なるオーラを放ってるような気がします。

 ラップの部分、言われてみればラップでしたね。僕なんかは逆に、プリンスのいろんなスタイルが混ざった唱法に良くも悪くもなれてしまっていますから、逆のその表現が新鮮だったりします。

 

勝井:色々とお話を聞くと面白いですね。「新しい自分としてデビューする」、そんなタイミングと重なっていた曲だとは知りませんでした。

 

ーーー新しい名前は発音できないシンボルマークだったんです。「改名しますが、新しい名前は読めません」って意味が解らんでしょう(笑)?

 

勝井:発想がすごいですね。他のアーティストには無いプリンス独自の魅力という部分でしょうか。

 

ーーー長年フォローしてきた支持者でも「???」なんてことはしょっちゅうあってですね。「はーー?」「なにそれ?」みたいに「?」を投げてくるんです。また質問で恐縮ですが、勝井さん、音楽って見るものですか?聴くものですか?

 

勝井:見るものと思ったことがあまりなかったですが、やはり聴くものではないでしょうか。

 

ーーーそうですよね、音楽は目に見えない。じゃあ、彼のシンボルマークは目には見えるけど、読めないし発音できない。ということは・・・・

 

勝井:発音できないものは、見て感じるしかないですね。

 

ーーーそうなんです。感じろ、そして自分で意味を考えろ!と。彼は最終的に答えを言わなかったんですが、「形には見えないプリンスの音楽」に「発音できない形を与えた」、つまり「プリンスの音楽」をシンボライズしたと考えられるわけです。

 

勝井: あー、なるほど、音楽にそれまでには無かった見えるイメージが付与されるような感じですね。プリンスといえば…と思った時に音だけで無く可視化されたイメージがわくような。

 

―――まさしく。逆に形をみれば音楽が想起される。音楽に形を与えた人、でもあるわけです。普通、そんなことは誰も思いつかないですよね?

 

勝井:音楽に形を与える・・・それだけ音楽というものを深く考えていたような気がしますね。そのお話を伺うと、音楽の世界だけで考えるのでは無く、全体の中の音楽を考えていたのではという気がします。音楽というジャンルの壁に穴を開けて現実に生きてる人たちに何かを語りかけるメッセージがあるのかも、と思わされます。

 

ーーー今、勝井さんが仰ったとおりだと思います。映画にしても、スポーツにしても、学問にしてもそうかもしれませんが、彼は「音楽は人々にとってどうあるべきか?」という視点を持ち続けたんじゃないかな?と僕は思います。

 

勝井:興味深いところですね。私はそういう「人」の部分を知るのが好きなのでこういうお話はとても楽しいです!

 

ーーーお付き合いいただきありがとうございます!それでは2曲目に参りましょう。なにか浮かびましたらお知らせください。

 

勝井:ここまでは元気の出るような曲でしたので今度は気持ちがリラックスするような曲、夜に聴きたくなるような曲はいかがでしょうか。

 

ーーーでは、瞑想、入眠用の1曲としてこちらはいかがでしょうか?  プリンスの覆面プロジェクト、Madhouse のEightです。

 

 

勝井:瞑想、入眠にぴったりですね。無駄を省いた音が印象的な序盤から、だんだんと舞台が作られるように音が重なり、3分を越えたあたりからは色んな音と旋律がキャラクターとして次々に入れ替わり登場するような情景が浮かび楽しい音楽として最後まで聴きました。

 この曲一つの中で自分が好きなパートを探して人と比べてみるのも面白いかもしれませんね。全体的にも落ち着いているのですごく聴きやすかったです。

 

――よかったです!

 

勝井:瞑想時に心を落ち着かせたい時にも、今聴いている音そのものに精神が引き込まれて、雑念が無くなる感覚があって良いですね。心がざわついている時にはこれからも度々聴きたいと思いました。

 こういう曲は今まで聴いたことが無かったです。ジャンルがあるのか分かりませんが、型にはまらない、脳へ直接作用するような音の連続は非常に心地良くて好きになりました。素敵な曲に出会わせて頂いてありがとうございます。

 

ーーー繊細な部分まで言葉にしてくださったことをうれしく思います!おっしゃる通りで、この曲の面白さのひとつは、少しずつ、少しずつ、音が丁寧に重なっていくところだと思います。

 最初のリズムを刻む変な声?が徐々に他のサウンドに包まれていくような。ちなみにこの曲、データベースによれば、サックスとフルートはエリック・リーズ、残りはプリンス自身が演奏してるとされています。ほんとかよ!?といつも思うんですが。でも、この人ならやりかねない、という。

 

勝井:そこがまたすごいですね。まさかとは思ったのですが、プリンスが様々な楽器に精通していることを証明するような曲ですね!

 

ーーー尋常じゃないですよね(笑)ちょっと話が戻ってしまうのですが、2PACのことで思い出しました。ジャネット・ジャクソンが主演の映画、Poetic Justiceに2PACも相手役で出演しているのですが、そのサントラにプリンスが書いたGET IT UPという曲がありまして、当時飛ぶ鳥落とす勢いで大人気だった3人ガールグループのTLCがカバーしているんです。

 

 

 

勝井;プリンスの幅の広さに驚きました!まさか2PACTLCとも映画作品を通して繋がっていたとは思いませんでした。この曲も耳に残るキャッチーさがありますね。

 

ーーーそもそも、ジャネット・ジャクソンがブレイクしたのは、プリンスの子分バンド、ザ・タイムのメンバー2人がプリンスに解雇されたところからスタートしてるんです。

 

勝井:え!?そうだったんですか!関連しているどころか源流に関わる繋がりだったんですね。そこからどうなるんですか?

 

ーーー解雇されたジャム&ルイスの2人組はプロデューサーとして頭角を現し、ジャネットを「マイケルの妹」からジャネット・ジャクソンに成長する手助けをしたんです。その子分バンド、ザ・タイムの曲(プリンスが書いた)をTLCがカバーしている、という運命の皮肉で、2PACともつながる、という(笑)

 

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勝井:なんだかすごい繋がりですね。プリンスの周りには有能な人もたくさん集まっていたということでしょうか。

 

ーーーそうですね、結果として才能が集まったんですけど、やっぱりミネアポリスという田舎にいながら、しかも人種的マイノリティがメジャー契約を勝ち取った、ってのが、最初の扉を開いたみたいです。それまでNYとかLAに「上京」するしかなかったんですけど、「実力があれば何とかなる!」を見せつけちゃった。

 

勝井:それは凄い!

 

ーーー映画『パープルレイン』で、ミネアポリスを音楽都市として有名にして。ジャネットもミネアポリスに滞在して録音したり、で。

  

勝井:不利な状況をひっくり返しちゃったんですね。それも大きな影響ですね。新しい扉を開くのはそれまでにない結果を出すような突き抜けた実力だったということですね。プリンスのキャリアは、計画的だったんでしょうか?

 

ーーーどこまで計画だったかはわかりませんが、僕がスゲーな、とデビュー前に「飛びつかなかった」ことですね。いろんな話もあったけど、納得いく契約になるまで、金が無くても耐えたらしいんです。僕ならすぐ飛びついちゃうだろうな、と。

 

勝井:そういうところもすごいですね。自分の能力の高さを分かっていて安売りはしなかったということですね。

 

ーーーそうかも知れないですね。10代の頃は1日12時間くらい練習してたそうですから、虚勢ではない自信があったのでしょう。さて、いよいよこのおせっかいな企画も、ラスト曲となります。どんな感じで参りましょう?

 

勝井:せっかくですのでプリンスの才能や能力の凄さが分かる一曲が聴きたいです。プリンスがそれだけの練習量をこなし、自信があったことを感じられるような、もちろん表には分からない裏話も含めてのエピソードのある曲など、渾身のおすすめ曲を教えて頂きたいです。

 

ーーーでは、こちら  Condition Of The Heart を。もしも可能ならヘッドフォンを使って試していただけたら。

 

 

勝井:何度も聴いてみました。ヘッドフォンでの大きめの音で聴いた時、一つ一つの音の響きや違いが感じられて重厚さがとてもよく分かります。それだけ繊細さの積み重ねのような曲なのだと思いました。一つの曲の中に一体いくつの楽器が使われているのか、と思わされる前半部分でした。

 後半から始まる歌声に合わせるようなそれぞれの音も一つとして同じものが無いように思いました。これもヘッドフォンで雑音の無い状態で聴かないと感じにくい部分ですね。

 これだけの構成を考えるのはすごい手間がかかっているのではないかと思いました。このようなじっくりと聴かせる曲があるというのが、今までプリンスのイメージとして知らなかったことなので興味深かったです。もっとキャッチーさがあってポップな曲を作るイメージがあったのですが、プリンスの力の幅広さを感じる一曲でした。何度聴いても飽きが来ない曲でもありますね。1人の時間で集中して過ごす時には聴きたい曲という印象でした。

 

ーーー長めの曲に関わらず聴いてくださりありがとうございます。そして一人の時間を過ごすときに聴きたい、という言葉に驚きました。歌い出しまで、イントロが二分四十秒くらいあるんですが、全くキャッチーではないし、ラジオやストリート、ショッピングモールでかかるような曲では無いのは間違いないと思うんです。ヒットには不向きということですよね。

 

勝井:たしかに。

 

―――じゃあ、なぜプリンスはこのような曲をアルバムの中にぶっこんでくるのか?それを考えたときに、まさに勝井さんのおっしゃる通り、一人の時間を過ごす、すなわち自分のインナーな世界に向き合うためなんじゃないかと思うんです。

 僕がそういうことに気がついたのは、聴き始めてからかなり経ってのことなんですが、今日初めて聴かれた勝井さんがその印象をもたれたことに驚きました!

 

勝井:プリンスとインナーな世界と聴くと、しっくりくる感じがするのですが、プリンスはこういう曲の良さを世間に知らせたかったという思いがあったのでしょうか?私はこの曲からプリンスの芸術家としての一面を見たような気がしました。

 

ーーーきっとあったと僕は思います。「魂を込めて音楽をやれば、自分に起きた変化が聴いている人にも必ず起きる」彼はこのような発言をしていて、自分の中での深い気づきであったり、反省であったり、寂しさであったり、怒りであったり。そういうものを作品として発表することを恐れなかったんですよね。

 

勝井:魂を込めて音楽をやれば・・・

 

ーーー勝井さんも、医療者として患者さんに共感するというか、感情を共有するような場面を経験されることはありませんか? プリンスがやってきたのも、おそらく深い部分でつながる、ってことなんだと思いますし、インナーな世界、つまり「パーティー」だけじゃなく 「内省」も促したんだと思うんです。

 

勝井:すごいです。そのプリンスの言葉に感動しました。仰る通り、他の分野や仕事においても同じことが言える、普遍性を持った言葉ですね。これは今の曲と合わせて私の人生に新しい大切な気付きとしてずっと残ると思いました。

 私の体験と重なる部分としても、本当はリハビリという体験を通して患者さんには自分の身体のことを知って自らコントロールできるようになる、ということが伝わった時、気持ちを込めてやっていて良かった、と思います。

 本当は伝えたい部分はそこでも、やはり誰もがすぐにはそこまで意識はできない、だからその現状を踏まえて患者さんが受け入れやすい形で治療のプログラムを考えて提供するのですが、それは音楽に例えれば耳触りの良い音楽ではあるけれども本当に自分がやりたかったことでは無いような…「大ヒットはしたけど自分としては実はイマイチな曲だった」と表現するような感覚があります。

 

―――そのお話、ぜひ続けてください。

 

勝井:はい、私が理学療法士として成長する為に、1人の時間で学問としての理学療法や医学に向き合ってきたこともすごく大切な自分自身の変化になっており、それは決して楽しいだけの過程では無かったのですが、その先には素晴らしい成長が待っていた、ということも伝えたい思いがあります。そういう部分は学生さんや後輩に伝えたいと思っていてもなかなか伝わらないことなのですが、私も「魂を込めて」やっていることなので、「自分に起きた変化が聴いている人にも必ず起きる」という言葉に勇気をもらった気がしました。

 

ーーー今の勝井さんの言葉に、感動する僕がいます。後天的に獲得された医学知識と経験がベースにあり、相手に対する責任と愛があるから、今のお仕事でプロとしてやっていけるのだと思うのですが、それは逆に見れば、患者さんとのギャップでもあるわけで、伝わる、伝わらない、とか誤解や曲解も必然的に内包すると思うんです。

それでも勝井さんが目指していらっしゃる「患者さんが自らコントロールできるようになる」地点というのは、まさにプリンス自身が目指した地点だと思うのです。

 

勝井:誤解があろうともその地点を目指した。

 

―――そうです、結局この人が伝えたかったテーマは「オレはオレの歌を最大限に歌うから、お前はお前の歌を歌ってくれ」ってことであって、医療者として「自立」を支援される勝井さんの態度に、なんかプリンスのマインドを見つけてしまったような気がするんです。

 

勝井:おおお〜、すごいです、まさかプリンスのそういう根本的な考えがあったとは!「お前はお前の歌を歌ってくれ」というマインドは人生をどうより良くするかに繋がっていると思います。医療は健康という面で人のために仕事をしますが、プリンスはアーティストとして人の生き方や哲学に関してより良くしたいという思いがあったのではと思いました。

 

―――それが伝わっていちばん喜んでるのは彼だと思います。

 

勝井:だったら私も嬉しいです。何よりプリンスが実際にアーティストとしてとった方向性に私は興味を持ちました。突き詰めた考え方は他の人とのギャップでもあるので、やり方によってはただのエゴの押し付けとしてGIVEでは無くなってしまうと思います。でもプリンスはセールスでも結果を出し、同じ業界のアーティストにも多大な影響を与えたという点でしっかりプラスの方向へ持っていったというのが、私が学びたいところです。

 

ーーープラスの方向!

 

勝井:プリンスはすごく人並み以上に考える人だったのではないかと私は想像しています。自分とも向き合い、外の世界とも向き合い、2つの世界を矛盾なく最高の形で成立させる境地を見つけることは難しいと思います。自分の思い描く理想と現実とのギャップに、自分が現実に合わせて妥協することで折り合いを付けることが私自身ありますし、そこで苦悩することも多いです。だからプリンスの伝えたかったテーマの「オレはオレの歌を最大限に歌うから、お前はお前の歌を歌ってくれ」という言葉がすごく考えさせられます。

 そして「オレの歌を最大限に歌う」プリンスに憧れる人がいることから、彼は「その人が変わるという道筋」を考えたのではないか、と思いました。それを成立させたのが圧倒的な音楽的スキルやセルフプロデュース力だったのならそれはプロとしてすごくカッコいいですね。

 

―――その人か変わる道筋、なるほど。

 

勝井:私も医療者として「自立」を支援する思いがあったら、それを本当に実現できるようにしたいです。

 一度きりの人生をどう使うか、この対話から考えさせられるとは思いもしませんでしたが、プリンスを知ることがそういうことに繋がった、というのは見事に「お前はお前の歌を歌ってくれ」と考えたプリンスの狙い通りだったんだと思います。こういうことは例えば一冊の哲学書を読んで影響を受けるような感覚に似ていますね。このインタビューはすごく楽しかったですし、人生観を考えさせられるような機会を頂けてすごく有り難かったです。本当にありがとうございます。

 

ーーー彼もまた自助努力により圧倒的才能を手にしながらも、苦悩したんだと思います。水準が高ければ高いほど、やはり理解できる人の分母も減ってしまう。あのクラスになれば、プリンスという大企業みたいなものですから、やりたいことやるにはヒットも出さなきゃいけないし、授賞式にも出なきゃならないし、伝わりやすいこともしなきゃならない。時代と合わない時もあっただろうし、人間だから身体も引退できないアスリートみたいにボロボロになっていったと思われます。

 

勝井:たしかに、天才とはいえ人間ですもんね。

 

―――傷つき、倒れ、また立ち上がり、音を鳴らす。そんな生き様みたいなもので魅せてくれた芸術家なんですね。あれほど名曲がたくさんありながらも、人々に「曲」ではなく「プリンス」が記憶されてしまうのも、そんな特質があるからかも知れませんね。 

 

勝井:ほんと、プリンスという人が気になってしまいますね!

 

ーーー今回は、勝井さんとのお話を通じてヒップホップやミネアポリスの影響から、インナーな心象風景まで、多岐に渡るディスカッションができたこと、心から感謝します。楽曲もさることながら、表現を通じた「生き様」が伝わることが、その人が「存在」するということなんだ、と確信した時間でした。お付き合いいただきありがとうございました!勝井さんのご活動のほうも、これからも応援しています。

 

勝井:こちらも鳥肌が立つようなインスピレーションを頂いて、素晴らしい時間でした。Purple University のコンセプトは本当に素晴らしいと身をもって体験させて頂きました。ありがとうございました!

 

 (構成・編集 Takki)

 

この記事が完成したのが4月19日、同日に公開され、Twitterなどでも反響をいただきました。そして4月21日、プリンスの命日。私Takkiの携帯に、師匠の原さんから着信が。この記事を読んだ原さん曰く・・・勝井さんが推薦してくれた2PACの曲にはプリンスのDo Me Babyがサンプリングされている、というのです。つまり勝井さんはプリンスの声をすでに聴いていた・・・ちょっと驚いてしまい追記してます。

(4/21 追記 Takki)https://www.billboard.com/articles/columns/hip-hop/7341638/10-rb-rap-songs-prince-samples