食わず嫌い王子 01 三浦宏文/インド哲学者

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食わず嫌い王子 ~あなたの殿下がここにいる!かも?~

ヨーロッパやアメリカでは「現代のモーツァルト」として高く評価されリスペクトされる一方、日本の一般層には「プリンス?誰それ?」状態。そんな時代に、究極のお節介企画、『食わす嫌い王子』。プリンスをあまり聴いていない方、存在自体知らない若い世代に、「殿下の音楽は届くのか?」実験的インタビューをここにお届けします。

 

 01 三浦宏文さん/インド哲学者 

三浦宏文 MIURA Hirofumi (@HirMiura) | Twitter

 ーーーこんにちは、紫大学です。まずは三浦さんの自己紹介をいただけたらと思います、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

三浦宏文と申します。インド哲学の研究者ですが、それでは食べられないので大学の非常勤講師の他、予備校や看護学校、高校などでも教えています。

 

ーーーありがとうございます。主に哲学、そして教育にも関わられていらっしゃるのですね。趣味や好きなことはなんですか?

 

三浦:いちばんの趣味としては中学高校とやっていたラグビー観戦ですね。そしてアイドルグループのももいろクローバーZ(ももクロ)をあるきっかけで好きになり、ライブなどにも時々行っています。あとドラマや映画をよく観ます。今予定している著書はそういうサブカルチャーと仏教やインド哲学との関連を考察したものです。

 

ーーーなるほど、スポーツ、アイドル、サブカルチャーに哲学。三浦さんの幅白い嗜好性が伝わります。この企画は、プリンスをきちんと聴いたことがない方に、その方の趣味趣向や方向性にそった曲をお薦めする、という実験的なおせっかい企画なのですが、三浦先生はプリンスという音楽家をどのように認識されていますか?

 

三浦:私もプリンスの名前と曲は「パープルレイン」の頃から知ってましたが、特にとんねるずさんの番組のパロディネタから入った「バットマン」の印象が強かったです。大学に入ったぐらいだったんですけど、いつも他の洋楽と一緒にカセットに入れてウォークマンで聴いてました。ダークだけどダンサブルでかっこよかった。そして私はマイケルジャクソンをよく聴いてましたが、マイケルにはない色気をプリンスには感じてましたね。一言で言うと、セクシーなイメージが大きかったです。

 

ーーーパープルレインとバットマンのイメージですね。どちらも全米1位を獲得したメジャー作品でしたからからセクシーなイメージは広く伝わっているかも知れないですね。ではでは、早速、三浦さんへの1曲目を選んでみたいと思います。今の気分でも構いませんし、好きな音楽のタイプやジャンルでもいいですし、思いっきりロックなの、とか、わかりやすいポップがいいとか、前衛的なのとか、なんかありましたら教えてください。

 

三浦:私はやはりダンサブルな曲のイメージが強いので、まずそういう曲をお願いします。

 

ーーーでは、ダンサブルな1曲としてLOOSE! を選んでみました。

 

 

三浦:いま、三回ほど聴きました。一言で言うと「かっこいい!」です。やっぱり最初のシャウトがいいですね。高速で車運転する時とか、ジョギングなどのトレーニングの時にヘビロテで流したいです。

 

ーーーありがとうございます。「1,2,3,4」って子供でも言える数字を、なぜにこんな狂ったテンションで発するのか(笑)

 

三浦:私はジェームス・ブラウンを思い出しました。ジェームスだとあのシャウトがもう歌になくてはならないものになってる感じがします。プリンスのシャウトもやはりこの曲になくてはならないものなのではないでしょうか。

 

ーーーさすが、おっしゃる通りです。プリンスに最も影響を与えたのはJBですし、プリンスは「シャウトのまま言葉を発する唱法」に発展させました。海外では「プリンスの金切り声スクリーミング曲ベスト30」とかわけのわからないランキングがあるくらいです(笑)

 

三浦:ああ、やはりそうなんですね。

 

ーーー三浦さんのおっしゃる通り、プリンスのビートはトレーニングや運動に向いてますが、時々トンデモなくエロい歌詞の曲もあるんで、場所によっては要注意です(苦笑)では2曲目はどのような感じで参りましょう?

 

三浦:エロいの嫌いではないですが、気をつけます(笑) 私の一番強いプリンスの印象はさっきの曲のようやダンサブルなイメージでした。それとは全く異なる「え?こんな曲もあるの?」というような曲があれば教えてください。

 

ーーーインド哲学を専門にされている三浦さんにリンクするかも知れない楽曲がありました。インドの経典にインスパイアされて書かれた「カーマスートラ」という曲です。

 

 

 

 

三浦:これは驚きです。組曲、映画音楽みたいな感じですね。インストで10分以上なんて!インドには人生で得るべき三大目標というのがあって、それがダルマ(法)・アルタ(実利)・カーマ(性愛)と言い、そのカーマ(性愛)を得るためのテキストブックが「カーマスートラ」なんです。そしてそのカーマ(性愛)は単なる性的な快楽を求めるだけでなく、それによって子孫繁栄して一族が栄えることを目指すものなんです。だんだん壮大になっていく曲調がその子孫の繁栄をイメージできました。凄い!

 

ーーーインドには人生の3大目標というのがあるんですね!初めて知りました。勉強になります。そしてカーマ。気まぐれな質問ですが、これって、よく言われるカルマ(業)とは違うものなんですか?

 

三浦:カルマとは全く違うものです。カルマはもともと行為とか作用を意味する言葉でそこから業(過去の行為が影響を及ぼすこと)の意味が出てきました。カーマは何かに対する願望や欲望、愛着といった意味で別のことばです。

 

ーーーなるほど、違うのものなんですね!三浦さんがおっしゃる子孫の繁栄へのイメージには。驚きました。この曲はマイテ夫人との結婚式のために録音されたんです。「結婚=子供が欲しい」と願った記録なのかも知れません。これに関連して、ぜひ伺いたいのですがインドでは「性と愛は切り離せない」と考えられているのでしょうか?

 

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三浦:なるほど、そういう思いのこもった曲だったんですね。性と愛は基本的にはセットと考える事が出来ると思います。愛の定義にもよるのですが、性を追求することの一番の目的は夫婦円満にすること(あるいは伴侶にしたい異性の心を得ること)で家族を繁栄させることです。

 

 

ーーーそれは興味深いです。西洋のキリスト教文化の中にいたプリンスは、性と愛の分断に対して疑問を感じていたと思われるからです。裸のジャケットのLovesexyという組曲のアルバムがあるのですが、愛と性がくっついて一語になっていて。テーマは調和。先ほど、ダンサブルな曲を、とありましたが、ダンスは「生」や「性」のメタファーとして登場することがあって。カーマスートラによる「性の肯定」は救いだったのかも知れません。

 

三浦:なるほど、プリンスはそこで「カーマスートラ」に魅かれたんですね。性の肯定が生の肯定につながるわけですね。素晴らしい。ちなみに「カーマスートラ」は正直引くぐらい細かなセックスの技術的探求をしていきますから(笑)なかなか研究対象にしづらい文献です(笑)

 

ーーーなるほど、アカデミアの先生方が扱いづらいテーマこそ、殿下の独壇場かも知れません、あははは。

 

三浦:まさに!(笑)

 

ーーーちなみに、インドではモラル的に自慰行為に対しては寛容なのでしょうか?というのもキリスト教社会では「よろしくない」とされていて、プリンスはそれにも歯向かったんです。映画のパープルレインなんて、ギターをしごいたらギターから液体がビョーンと発射されるんです。普通、映画でそんなエンディングあります?

 

三浦:凄い映画ですね(笑)インドは自慰についてはどうなんでしょう。ちょっと調べてみないと分かりませんがヒンドゥー教や仏教では少なくとも罪として挙げていることは見たことないです。ただ仏教教団では女性と交わらなければよいというので同性や鳥獣との交わりをした人がいて、トラブルになるので改めてそれを禁止するという条項が戒律に残っています(笑)そう考えるとかなり大らかだったのだと思います(笑)

 

ーーーそれもまた凄い戒律ですね!でも、三浦先生が仰る通り、プリンスもインド文化に大らかさを見つけた可能性はある気がします。ホント勉強になります、プリンスだけ聴いていては解らない部分ですから。では、ダンサブル、インスト組曲と来ました、ラストはいかがしましょう?

 

三浦:私はサイモン&ガーファンクルのファンで、「明日に架ける橋」のようなピアノが中心になったメロディアスなバラードが好きなんですよね。なので、しっとりしたメディアスな曲があればぜひおしえてください。

 

 

 

 

ーーー三浦さんのご提案をきっかけに、サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」を改めて聴いているのですが・・・いいですねー、静かなピアノでシンプルに始まったと思ったら・・・次々に音が重なっていって。どんどん音が重厚になっていく感じ。サイモン&ガーファンクルの音楽に初めて向き合いました。この余韻の中で選んでみたいと思います。When We're Dancing Close And Slow

 

 

三浦:美しい。そして繊細な曲ですね。私はアコースティックギターの音色が好きで一時期自分でも弾いていたこともあるんですが、そのアコースティックギター音色で静かに始ってピアノも美しいメロディーを添える。そしてまたギターに戻っていく。刻まれるリズムがゆったりとしたダンスをイメージさせてくれます。湖畔の白いコテージで恋人と二人、という自分では全く経験したことのない映像を思い浮かべて聞いていました(笑)

 

ーーーありがとうございます!ほぼピアノだけの曲とも迷ったのですが、「明日に架ける橋」を聴いたときに、ピアノはもちろん、ピアノにスッと加わってくる音も心地よくて、この曲を選ばせていただきました。三浦さんはアコースティックギターの演奏もされていたんですね。

 

三浦:父がクラシックギターをやっていて、その影響もあってしばらく弾いていましたね。もう指がうごきません(笑)

 

ーーーお父様の影響だったんですね。音で「近づく、寄り添う情景」を表していたとは、ずっと気がつきませんでした。

 

三浦:そうですね、どこか寄り添うイメージが浮かびました。

 

ーーーそれを音で感じられる三浦先生が凄いと感じました。この曲は全ての演奏をプリンス1人がやっていて、アコギもヘッドホンでよく聴くと左右で別々の演奏が録音されてるんです。

 

三浦:ええ!本当ですか!

やっぱりプリンスは天才なんですね。たぶん全体の音の構成とかも浮かんじゃってるのかな。

 

ーーーピアノ・プリンス。ドラム・プリンス。アコギ1・プリンス。アコギ2・プリンス。シンセサイザー・プリンス。19歳くらいの録音です。

 

三浦:ええ!!!マジですか?恐ろしい・・・。

 

ーーーある意味、変態ですよ。

 

三浦:完全変態(笑)打ち込みじゃなくて自分が全部やってしまうところが凄いですね。

 

ーーーデビュー前にバンド組んだんです、プリンス。それでカバーとか演奏してて。地元のミネアポリスの音楽界隈では凄いヤツがいる、ってなってたらしいんです。でも、「バンドメンバーがオレの求めるレベルじゃない」ってことで「そんなら全部自分でやる」って、やっちまったのがこの人。

 

三浦:凄過ぎる。でも、できちゃうんですよね、一人で。う〜む・・・変態ですね(笑)しかもこんな美しい精細な作りの曲を。。。

 

 

ーーーそうなんですよ、変態だから。ステージでもギターは弾くは、ベースはならすは、ドラムは叩くは、ピアノもサンプラーも演奏するわ、おまけにハイヒール履いてダンス。

 

 

三浦:でも、そう聞くとライブの映像を見たくなりました(笑)推薦はありますか?

 

―――そうですね、各時代でステージングも全く異なるんですが・・・これはいかがでしょう?1曲目は“ロックギタリスト”なプリンス、2曲目が“ハイヒールダンサー”プリンス、3曲目が“ピアノ&バラード”プリンス。多重人格。

 

 

 

三浦:今ちらっと見ただけなんですが、カオスですね(笑)

 

ーーーカオス(笑)今日は三浦さんにたくさんお付き合いいただきましたが、率直なところいかがでしたか?

 

三浦:いやあ、ちょっと、じゃなく、かなり驚きました。こんな多様な音楽を自在に操るアーティストだとは正直思っていませんでした。いろいろと聴いてみたい気がしました。特にこのライブの映像はゆっくり観たいです。ミュージシャンに留まらない方ですね。アーティストと言う言葉が文字通りぴったりくる人だと再認識しただけじゃなく、かなり驚きました。

 

ーーーありがとうございます。ジャンル分けにも抵抗した人だから、総合芸術的で「わかりやすくない」のです。実は全部が突き抜けてる名レスラー、ジャンボ鶴田みたいな。

 

三浦:その例え、プロレスファンの私としてはとても分かりやすい(笑)

 

ーーー(笑)プリンスを主軸にスタートしたのに、インド哲学から、明日に架ける橋、エロ変態まで飛び出して、とても興味深かったです。三浦先生のおかげで世界が拡がり、僕のほうこそ同じ音楽が違って聴こえるような体験でした。

 

三浦:こちらこそ、私のプリンス像が全く変わりました。まだ「簡単には理解できない人」という時点ですが、それが分かっただけでも嬉しいです。昔聴いていた「バットマン」も違うように聴こえてくるように思います。やはり語り合うことで様々な風景がひろがっていきますね。

 

ーーーほんとですね!これらからもいろんな景色を教えてください。貴重なお時間をいただきありがとうございました。

 

三浦:こちらこそありがとうございました。

 

 (インタビュー・構成 Takki)