独自の世界観をもったイラストで衝撃を与え続けるラジカ ル鈴木氏。プリンスを創造の師と仰ぎ、クリエイティヴ な 道を歩み続けるラジカル氏にとってのプリンスとは?———ラジカルさんがプリンスを聴くようになったきっか けを教えてください。 ラジカル:プリンスファンになる前は、映画音楽ファン 、洋楽ファンでした。兄の部屋のステレオで聴いたザ・ビ ートルズ、ベイシティ・ローラーズ(!)なんかから入り 、小〜中学生のときはFMエアチェック 小僧で、ビリー・ ジョエルがヒットを連発しててハマって、なんつっても一 番好きでした。放課後に友達の家に入り浸って、ステレオ で大音響で聴いて、タバコを吸っちゃったりしながら"こ れがロックなんだ〜"なんて思ったもんです、可愛らしか ったですね(笑)。
でもね、“ピアノマン ”じゃないです かビリー・ジョエル って。プリンスとの共通点は実は結構 あると、後年気がついたんです、その話はまた別の機会に したいですけど。他はデビッド・ボウイ も好きでしたね。 ボウイにはもっと、アート心をくすぐられるというか、言 わばトリック・スターでまったく別の存在でしたけど。
同時期“ダーティ・マインド”の頃、音楽雑誌で始めて プリンスを知りました。モノクロで半ページくらいのスペ ースで、例のコートとバンダナ、ストッキングの格好の写 真で、何かとってもショキングなヤツがいる、という紹介 のされ方でしたが、まだ音楽を聴くには至りませんでした 。それから少々経て本国で"パープル・レイン"が大ヒッ トし始めると曲もFMでガンガン流れ初め、何だか凄い音 楽をやる奴なんだな〜、と気になり始めました。ヒットし ているにも関わらず、当時の80年代のヒットチャートの 曲とは明らかに違う何かを感じたのです。
濃厚というか、渦巻く情念というか、そして過剰なまで のリビドー、良識からハミ出す何かヤバイものを・・・そ して、映画「パープル・レイン」を観たのが決定打となり ました。出身地・春日部にあった“春日部文化劇場”で、 高校3年生のとき『フットルース 』(1984 )と2本立 てでスクリーンで観てもう、その存在の虜に!!! 『フット〜』の記憶はどこかへ完全にフットびました。で 、それまで発売されていたアルバムは全部買い、もっとも っと聴いて観たくなって、当時まだ日本ではプリンスのソ フトはレコード以外は皆無でしたから、1985年の米ツ アーのライブビデオを輸入で取り寄せ、悶絶・・・・!! ! なんというエナジー 、なんという才能の塊なんだあああ! !!!
“アラウンド・ザ・ワールド ・イン・ア・デイ”、“パレ ード”と、リリースされるのを予約し発売日にレコード屋 に駆けつけ入手、むっちゃドキドキしながらターンテーブ ルに載せたのも良い想い出です。そのペースの早さと、こ とごとく前作とは違う音楽世界、変化に驚きの連続でした 。それまでのものを一切守ろうとしていない、捨てては新 しく生まれ変わるその潔い姿勢!!! こんなメジャーアーティストはそうそういない!!!!
KISSがチャートNo.1で席巻の'86年、プリンス が来日するのを知ったときは、もうこれは、何を置いてで も行きたい!!! と、春日部ロビンソンのちけっとぴあに走りました。春日 部から横浜・関内の横浜スタジアム は当時たっぷり2時間 かかり、めちゃ遠かったけれど2日間、足を運びました。 生で見たプリンスは・・・もう神を現実に見てしまった、 というくらいの体験でしたね〜〜〜、これだけで一万文字 くらい楽に書けます(笑)。 それから海賊盤 屋を漁るようになり、レコード、カセッ トテープ、プリンスの載ってる向こうの雑誌も買いまくっ て、イケないものを入手してしまったかのように異様に興 奮しました。妖しげなプリンス専門通販屋から毎月DMが 来るようになって、やがてそれはEメールに変わり・・・ 一体いくらお金使ってきたのやら・・・。
また、彼の音楽 ルーツであるJBやジミヘン、スライ、Pファンク、キッ ドクレオール &ココナッツ、T−レックス、サンタナ 、ジ ョニ・ミッチェル、その他もろもろも、同時期に聴き始め ・・・プリンスは、それまで僕の知らなかった音楽の世界 への、興味のドアを大きく開けてくれた存在でした。それ だけでなく、影響は僕の中で"ただの趣味"の範疇を遥か に超えていきました。プリンスの持つクセや"イズム"( リズム?)が僕の思考、志向、嗜好にピッタリマッチして いったのです・・・。———なるほど、趣味をはるかに超えて、プリンスの世界 に飛び込んでいったわけですね! ラジカルさんの人生において、プリンスの楽曲が救いとな った例はありますか? ラジカル:飛び込んでいったといいますか、ある意味 プリンスを媒介として自己探求を始めたとでもいいますか ・・・彼の音楽全部、行動、存在、統べてが救いで、日々 の励みでした。彼の曲を聴いていると、前向きになれるん です。外見やアートワークに反して彼のメッセージは純粋 なんですよね。1曲1曲例を挙げていったらきりがないん ですが、曲"パープル・レイン"は「よくぞ自分が生きて いるこの時代に、これを発表してくれた。自分はなんてラ ッキーなんだろう」と思っています、多分もう1,000 回以上は聴いてきたと思います(自分で歌ったりもします ^^)。
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「ザ・クロス」も特別な曲です。映画『パープル・レイン 』もそうですが、悶々としていた20代前後、自分がちょ いと行き詰まって、辛いなあ、苦しいなあ、というときに 何度『サイン・オブ・ザ・タイムズ』のアルバムとビデオ で救われたか判りません。「左にゲットー〜右には花畑〜 我々は皆問題を抱えている〜大きいのやら小さいの〜もし 信じるなら〜その問題は消えてなくなる〜 死ぬな〜ザ・クロスを知る前に」ってな歌詞に涙し、明日 からの活力をもらっていました。無宗教 のつもりの自分に とって、まるで教会のような機能をしていたのです。その 後も、彼のスピリチュアルな曲はどれも特に大好きですね 。
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———おおお、プリンスを媒介とした自己探求。そして救 いであり、励みだったんですね!今現在のご活動は、プリ ンスに触発された部分があったのでしょうか? ラジカル:プリンスなしでは今の自分はありません! !!! ユーアーエブリシング!!!でしたよ。ただ、依存したま まではダメだと思っていましたね。どうやって自分の道を 見つけたか - プリンスに手を取ってもらって、"それ"を見せてもらっ たんです^^———プリンスがプリンスであったように、ラジカルはラ ジカルとして道を見つけるべきだ、と意識されたわけです ね? ラジカル:その通りです。誰かのインタヴューで「彼 には、すべてを常識や借りたものではなく、自分流にして いくことを学んだ」と言っているのを読みました。激同感 ですね。———確かに、プリンスも自分の音楽をそのまま真似する 人たちを嫌いましたね。自分に出来ないものを聴きたい、 と。ラジカルさんの作品にある生命感や、毒も含めた存在 感も独特ですね。 ラジカル:ヴィジュアルの表現に関しては、彼から直 接の影響もあるけど、元々僕の中にあったものです。彼は "それでいいんだよ"と言ってくれました。(スターフィ ッシュ・アンド・コヒーの主題!) また、自分が自分のオーナーシップを持つ、みたいなこ とも彼から教わりました。たとえ間違っていようとも、や りたいこと、やりたくないことの責任は自分で持つ。やっ ぱりつくる者、つくりたい者にとって超強力 なインスピレーションですよね。お手本、これほど見事な 師はいないと思います。———海外では芸術家、アーティストとしてリスペクトさ れていますが、日本での認知度や評価をどのように感じら れますか? ラジカル:不満です!まあ、以前と比べたら雲泥の差 ではありますけど、一般には、未だに多くの人が先入観に 支配されて、彼がどれほど偉大か、真価が知られていませ ん。軽んじられています。まあ、敢えて彼はチープで猥雑 なイメージを用いて、間口を狭くしているのだとは思いま すけれど。その"先入観"にこそ、果敢に挑んで来たのが プリンスです。
また、本当は魅了され、プリンスの凄さを 十分解っているクリエイターも、口をつぐんでいる場合が 多いような気がします。何故でしょうね? 彼には圧倒的に敵わないからでしょうか。素直ではないで すね。エリック・クラプトン の素直さを見習って欲しいで すねー。———確かに、エリック・クラプトン はプリンスの先輩格 にも関わらず、いかに彼に刺激を受けたか、また救われた か、語っています。ラジカルさんも、プリンスに影響を受 けたことを公言することで、表現者 としていかに偉大な存 在かを世に伝えていらっしゃると思います。Words O Princeのプロジェクトを、ラジカルさんはどのよう に感じられましたか? ラジカル:とても有意義なことだと思って ます!! 彼の凄さ・真価をより多くの人に判ってもらいたい、その 志の高さ、自由さ、感性、ユーモア、COOLさ、素晴し い感動を・・・貴男貴女の世界はグ〜ンと広がります! 触れることによって、人生はより豊かなものになるでしょ う。知らなきゃ、もったいない!!!———ラジカルさんは、書籍にワン・アンド・オンリーな プリンス・アートを提供されていますが、ラジカルさんに とって、「プリンスを描く」というのはやはり特別な思い はありますか?
ラジカル:もちろんです、自分にとってもの凄く大きな 存在を描くわけですから。多彩な音の表現を展開していた プリンスみたいに、自分も様々なタッチを駆使して描きた いと思いました。
———最近、プリンスに興味を持った方や新しい世代に、 「あくまでも入門用として」1枚(1)セットだけ、オリ ジナルアルバムを薦めるとすればどれにしますか?(ベス ト盤以外)、またその理由も聞かせてください。 ラジカル:「Musicology」です。まず表題曲 が軽快でキャッチー。他の曲のラインナップも、アメリ カ ンポップス&ロック&ファンクの王道的なテイストが多く 、聴き易いと思います。「プリンスって、普通じゃん!」 みたいな。彼は意図的にアメリ カの聴衆に向かってこれを 作ったんじゃないかと思ってます。ちょい久ぶりに大ヒットアルバムになりましたもんね。この時のツアーも同様、 バランス感覚がハンパなく、楽しく、感動的で、最高でし た。NYのMSGまで観に行ったんですが、このとき観た のが僕の生涯ベストライブであるのはこれからも揺るぎま せん。
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あと、「One Nite Alone...Live!」のBOXセットに入ってる 、ピアノ引き語り曲が中心の「One Nite Alone」、これを薦めたいです。これはプリンスをあ まり知らないヒトの漠然としたイメージを十分くつがえず でしょう、「彼は本当のミュージシャン、アーティストなん だ」って。僕やっぱり、ピアノの音色が好きなんです。だ から、ピアノ&マイクロフォン・ツアーは、観たかったで すね・・・・何とも、残念極まりありません。。。
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———とても興味深いセレクトに感じました。今後プリン スファムとしては、何を発信し、どうしていきたいですか ? ラジカル:いわゆるスタンダード、ホントに凄いものは 、時間や時代を超えますよね。彼の仕事のクオリティは過 去も現在も未来も超えています。彼の活動や音楽が古くな っていく心配はまったくしていません。しかし、これから もじわじわと長い時間をかけてでも、興味のないヒトにも 彼の真価をもっと浸透させる者の一端にはなりたいです。 無理強いはしたくない、無理に奪いたくはない、けど。や っぱり「自分は自分らしくある」っていうのが最もやらなき ゃいけないことかとは思います。自分自身があの十代の頃 の情熱を持ち続けること。それが結果として、Uを紫の雨 の中に手を引いていくことになるのではないかと・・・。 ”死は、リアルタイムで作品をリリース出来ないというこ とを意味しない”なんて意味深な発言もありましたね。彼 は、彼の精神はまだまだぜんぜん生きている、と思ってい ます。むしろ、ある意味スタートラインなのではないかと 。
僕にとって、プリンスは永遠の師ではありますが、まあ、 彼のように生きるのは正直しんどいです(笑)、とてもじ ゃないけど、なかな真似できやしません。アンドレ ・シモ ンがプリンスから離れた後に発言したように、「冗談を言 いながらダラダラとジャムったりする、そういうのも良い もんだと思ったよ。プリンスのバンドには全くと言ってい いほどそういう雰囲気はなかったから」って、僕もただの 凡人ですからあまりにも判る(笑)ついお酒のんでサボっ ちゃうし(笑)。でも、志だけは忘れたくない。それを知 っているのは素晴らしいことですから。これからも、どう したら“Face”でなく魂”が救われるのか、梯子を探 し続けます。
ラジカル鈴木氏
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(構成・編集 Takki)