パープルインタビュー/ラジカル鈴木氏(イラストレーター) 表現系01

f:id:PurpleUniversity:20200425093547j:plain

独自の世界観をもったイラストで衝撃を与え続けるラジカル鈴木氏。プリンスを創造の師と仰ぎ、クリエイティヴ道を歩み続けるラジカル氏にとってのプリンスとは?

———ラジカルさんがプリンスを聴くようになったきっかけを教えてください。

ラジカル:プリンスファンになる前は、映画音楽ファン、洋楽ファンでした。兄の部屋のステレオで聴いたザ・ビートルズ、ベイシティ・ローラーズ(!)なんかから入り、小〜中学生のときはFMエアチェック小僧で、ビリー・ジョエルがヒットを連発しててハマって、なんつっても一番好きでした。放課後に友達の家に入り浸って、ステレオで大音響で聴いて、タバコを吸っちゃったりしながら"これがロックなんだ〜"なんて思ったもんです、可愛らしかったですね(笑)。

 でもね、“ピアノマン”じゃないですビリー・ジョエルって。プリンスとの共通点は実は結構あると、後年気がついたんです、その話はまた別の機会にしたいですけど。他はデビッド・ボウイも好きでしたね。ボウイにはもっと、アート心をくすぐられるというか、言わばトリック・スターでまったく別の存在でしたけど。

 

 同時期“ダーティ・マインド”の頃、音楽雑誌で始めてプリンスを知りました。モノクロで半ページくらいのスペースで、例のコートとバンダナ、ストッキングの格好の写真で、何かとってもショキングなヤツがいる、という紹介のされ方でしたが、まだ音楽を聴くには至りませんでした。それから少々経て本国で"パープル・レイン"が大ヒットし始めると曲もFMでガンガン流れ初め、何だか凄い音楽をやる奴なんだな〜、と気になり始めました。ヒットしているにも関わらず、当時の80年代のヒットチャートの曲とは明らかに違う何かを感じたのです。
 

 濃厚というか、渦巻く情念というか、そして過剰なまでのリビドー、良識からハミ出す何かヤバイものを・・・そして、映画「パープル・レイン」を観たのが決定打となりました。出身地・春日部にあった“春日部文化劇場”で、高校3年生のとき『フットルース』(1984)と2本立てでスクリーンで観てもう、その存在の虜に!!! 『フット〜』の記憶はどこかへ完全にフットびました。で、それまで発売されていたアルバムは全部買い、もっともっと聴いて観たくなって、当時まだ日本ではプリンスのソフトはレコード以外は皆無でしたから、1985年の米ツアーのライブビデオを輸入で取り寄せ、悶絶・・・・!!! なんというエナジー、なんという才能の塊なんだあああ!!!!

 “アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ”、“パレード”と、リリースされるのを予約し発売日にレコード屋に駆けつけ入手、むっちゃドキドキしながらターンテーブルに載せたのも良い想い出です。そのペースの早さと、ことごとく前作とは違う音楽世界、変化に驚きの連続でした。それまでのものを一切守ろうとしていない、捨てては新しく生まれ変わるその潔い姿勢!!! こんなメジャーアーティストはそうそういない!!!!

 KISSがチャートNo.1で席巻の'86年、プリンスが来日するのを知ったときは、もうこれは、何を置いてでも行きたい!!! と、春日部ロビンソンのちけっとぴあに走りました。春日部から横浜・関内の横浜スタジアムは当時たっぷり2時間かかり、めちゃ遠かったけれど2日間、足を運びました。生で見たプリンスは・・・もう神を現実に見てしまった、というくらいの体験でしたね〜〜〜、これだけで一万文字くらい楽に書けます(笑)。

 それから海賊盤屋を漁るようになり、レコード、カセットテープ、プリンスの載ってる向こうの雑誌も買いまくって、イケないものを入手してしまったかのように異様に興奮しました。妖しげなプリンス専門通販屋から毎月DMが来るようになって、やがてそれはEメールに変わり・・・一体いくらお金使ってきたのやら・・・。

 また、彼の音楽ルーツであるJBやジミヘン、スライ、Pファンク、キックレオール&ココナッツ、T−レックス、サンタナ、ジョニ・ミッチェル、その他もろもろも、同時期に聴き始め・・・プリンスは、それまで僕の知らなかった音楽の世界への、興味のドアを大きく開けてくれた存在でした。それだけでなく、影響は僕の中で"ただの趣味"の範疇を遥かに超えていきました。プリンスの持つクセや"イズム"(リズム?)が僕の思考、志向、嗜好にピッタリマッチしていったのです・・・。

———なるほど、趣味をはるかに超えて、プリンスの世界に飛び込んでいったわけですね! ラジカルさんの人生において、プリンスの楽曲が救いとなった例はありますか?

ラジカル:飛び込んでいったといいますか、ある意味プリンスを媒介として自己探求を始めたとでもいいますか・・・彼の音楽全部、行動、存在、統べてが救いで、日々の励みでした。彼の曲を聴いていると、前向きになれるんです。外見やアートワークに反して彼のメッセージは純粋なんですよね。1曲1曲例を挙げていったらきりがないんですが、曲"パープル・レイン"は「よくぞ自分が生きているこの時代に、これを発表してくれた。自分はなんてラッキーなんだろう」と思っています、多分もう1,000回以上は聴いてきたと思います(自分で歌ったりもします^^)。

 

 

 

「ザ・クロス」も特別な曲です。映画『パープル・レイン』もそうですが、悶々としていた20代前後、自分がちょいと行き詰まって、辛いなあ、苦しいなあ、というときに何度『サイン・オブ・ザ・タイムズ』のアルバムとビデオで救われたか判りません。「左にゲットー〜右には花畑〜我々は皆問題を抱えている〜大きいのやら小さいの〜もし信じるなら〜その問題は消えてなくなる〜 死ぬな〜ザ・クロスを知る前に」ってな歌詞に涙し、明日からの活力をもらっていました。無宗教のつもりの自分にとって、まるで教会のような機能をしていたのです。その後も、彼のスピリチュアルな曲はどれも特に大好きですね

 

 

 


———おおお、プリンスを媒介とした自己探求。そして救いであり、励みだったんですね!今現在のご活動は、プリンスに触発された部分があったのでしょうか?

ラジカル:プリンスなしでは今の自分はありません!!!! ユーアーエブリシング!!!でしたよ。ただ、依存したままではダメだと思っていましたね。どうやって自分の道を見つけたか - プリンスに手を取ってもらって、"それ"を見せてもらったんです^^

———プリンスがプリンスであったように、ラジカルはラジカルとして道を見つけるべきだ、と意識されたわけですね?

ラジカル:その通りです。誰かのインタヴューで「彼には、すべてを常識や借りたものではなく、自分流にしていくことを学んだ」と言っているのを読みました。激同感ですね。

———確かに、プリンスも自分の音楽をそのまま真似する人たちを嫌いましたね。自分に出来ないものを聴きたい、と。ラジカルさんの作品にある生命感や、毒も含めた存在感も独特ですね。

ラジカル:ヴィジュアルの表現に関しては、彼から直接の影響もあるけど、元々僕の中にあったものです。彼は"それでいいんだよ"と言ってくれました。(スターフィッシュ・アンド・コヒーの主題!)

 また、自分が自分のオーナーシップを持つ、みたいなことも彼から教わりました。たとえ間違っていようとも、やりたいこと、やりたくないことの責任は自分で持つ。やっぱりつくる者、つくりたい者にとって超強力なインスピレーションですよね。お手本、これほど見事な師はいないと思います。

———海外では芸術家、アーティストとしてリスペクトされていますが、日本での認知度や評価をどのように感じられますか?

ラジカル:不満です!まあ、以前と比べたら雲泥の差ではありますけど、一般には、未だに多くの人が先入観に支配されて、彼がどれほど偉大か、真価が知られていません。軽んじられています。まあ、敢えて彼はチープで猥雑なイメージを用いて、間口を狭くしているのだとは思いますけれど。その"先入観"にこそ、果敢に挑んで来たのがプリンスです。

 また、本当は魅了され、プリンスの凄さを十分解っているクリエイターも、口をつぐんでいる場合が多いような気がします。何故でしょうね? 彼には圧倒的に敵わないからでしょうか。素直ではないですね。エリック・クラプトンの素直さを見習って欲しいですねー。

———確かに、エリック・クラプトンはプリンスの先輩格にも関わらず、いかに彼に刺激を受けたか、また救われたか、語っています。ラジカルさんも、プリンスに影響を受けたことを公言することで、表現者としていかに偉大な存在かを世に伝えていらっしゃると思います。Words O Princeのプロジェクトを、ラジカルさんはどのように感じられましたか?

ラジカル:とても有意義なことだと思ってます!! 彼の凄さ・真価をより多くの人に判ってもらいたい、その志の高さ、自由さ、感性、ユーモア、COOLさ、素晴しい感動を・・・貴男貴女の世界はグ〜ンと広がります! 触れることによって、人生はより豊かなものになるでしょう。知らなきゃ、もったいない!!!

———ラジカルさんは、書籍にワン・アンド・オンリーなプリンス・アートを提供されていますが、ラジカルさんにとって、「プリンスを描く」というのはやはり特別な思いはありますか?

 

ラジカル:もちろんです、自分にとってもの凄く大きな存在を描くわけですから。多彩な音の表現を展開していたプリンスみたいに、自分も様々なタッチを駆使して描きたいと思いました。

 

f:id:PurpleUniversity:20200425095239j:plain



———最近、プリンスに興味を持った方や新しい世代に、「あくまでも入門用として」1枚(1)セットだけ、オリジナルアルバムを薦めるとすればどれにしますか?(ベスト盤以外)、またその理由も聞かせてください。

ラジカル:「Musicology」です。まず表題曲が軽快でキャッチー。他の曲のラインナップも、アメリンポップス&ロック&ファンクの王道的なテイストが多く、聴き易いと思います。「プリンスって、普通じゃん!」 みたいな。彼は意図的にアメリカの聴衆に向かってこれを作ったんじゃないかと思ってます。ちょい久ぶりに大ヒットアルバムになりましたもんね。この時のツアーも同様、バランス感覚がハンパなく、楽しく、感動的で、最高でした。NYのMSGまで観に行ったんですが、このとき観たのが僕の生涯ベストライブであるのはこれからも揺るぎません。

 

 

 あと、「One Nite Alone...Live!」のBOXセットに入ってる、ピアノ引き語り曲が中心の「One Nite Alone」、これを薦めたいです。これはプリンスをあまり知らないヒトの漠然としたイメージを十分くつがえずでしょう、「彼は本当のミュージシャン、アーティストなんだ」って。僕やっぱり、ピアノの音色が好きなんです。だから、ピアノ&マイクロフォン・ツアーは、観たかったですね・・・・何とも、残念極まりありません。。。

 

 

 


———とても興味深いセレクトに感じました。今後プリンスファムとしては、何を発信し、どうしていきたいですか

ラジカル:いわゆるスタンダード、ホントに凄いものは、時間や時代を超えますよね。彼の仕事のクオリティは過去も現在も未来も超えています。彼の活動や音楽が古くなっていく心配はまったくしていません。しかし、これからもじわじわと長い時間をかけてでも、興味のないヒトにも彼の真価をもっと浸透させる者の一端にはなりたいです。無理強いはしたくない、無理に奪いたくはない、けど。やっぱり「自分は自分らしくある」っていうのが最もやらなきゃいけないことかとは思います。自分自身があの十代の頃の情熱を持ち続けること。それが結果として、Uを紫の雨の中に手を引いていくことになるのではないかと・・・。”死は、リアルタイムで作品をリリース出来ないということを意味しない”なんて意味深な発言もありましたね。彼は、彼の精神はまだまだぜんぜん生きている、と思っています。むしろ、ある意味スタートラインなのではないかと

 僕にとって、プリンスは永遠の師ではありますが、まあ、彼のように生きるのは正直しんどいです(笑)、とてもじゃないけど、なかな真似できやしません。アンドレ・シモンがプリンスから離れた後に発言したように、「冗談を言いながらダラダラとジャムったりする、そういうのも良いもんだと思ったよ。プリンスのバンドには全くと言っていいほどそういう雰囲気はなかったから」って、僕もただの凡人ですからあまりにも判る(笑)ついお酒のんでサボっちゃうし(笑)。でも、志だけは忘れたくない。それを知っているのは素晴らしいことですから。これからも、どうしたら“Face”でなく魂”が救われるのか、梯子を探し続けます。

 

f:id:PurpleUniversity:20200425093527j:plain

ラジカル鈴木氏 

twitter.com

 

(構成・編集 Takki)