ほぼ日 プリンスとモリッシー Impression 01 Takki
イラスト:杉山鉄男
プリンスとモリッシー
愛と、勇気と、自尊心の話 (ほぼ日)
「プリンスとモリッシー」である。ありそうで、なかった組み合わせ。このタイトルだけで「他とは違う何か」を感じられた方もいらっしゃったかも知れない。
もし2人の違いを列挙しだしたら、それこそキリがない。あなたとわたしが違うように。あの人とこの人が違うように。もしかしたらそれ以上に、「2人は全く違う個性」であり、同じ音楽を表現の核としながらも、そのアプローチもテイストも、あまりに異なる。
だが・・・
「ほぼ日」さんのThe Magnificent(最上級)な企画での対談では、意外にも2人の共通点が浮かび上がることになる。そして僕は、ザ・スミス、そしてモリッシーの生き様に魅せられた上村さんの言葉から、モリッシーはもちろん、プリンスをも教えていただいたのだ。
もっと丁寧に言葉を尽くすならば、「モリッシー」というフィルターを通してそれまで僕自身が知らなかった「新しいプリンスの一面」が立ち上がってくるーーーそんな貴重な経験をさせていただいた。
少なくともプリンスに関して少しは理解してるかもしれないと「勝手に自負していた僕」が、上村さんの徹底したモリッシー愛に触れることで、
「スミス、凄いなぁ!モリッシー、今も現役で戦ってんだ!ガーディアン誌にも負けてないんだ!いくつになってもその様子を見せて欲しいなぁ~!」
という気持ちになり、その気持ちのままふと「プリンス」を振り返ると、まるでグーグルに言葉を入れてEnterボタンを押したときのように、
「古き価値観をひっくり返そうと全力で戦ってきたプリンス」を彼の遺した様々な作品やエピソードの中にそれを見つけようとする自分を発見してしまった。現在進行形で世の中と対峙し続けるモリッシーと、苦境にあってもFearless(畏れない)を貫き通したプリンスが、自分の中でシンクロし始めたのだ。
プリンスはかつて、自身の楽曲、「カオス&ディスオーダー」の中で、このように歌っている。
「オレは名もなきレポーター。世の中に伝えなきゃならないニュースなんで無くなればいいのに」
まさに「混沌と無秩序」に支配された世の中と自分の心を憂い、嘆き、怒りを表明した。
上村さんが語るモリッシーは、プリンスが歌うところの「レポーター」そのものだと僕には感じられた。過去の栄光に胡坐をかくことなく、「懐メロ化」を全力で拒否し、現在進行形の自分を見せる。自分の瞳から見た景色の中で、モリッシーが心の奥底から感じたことは、批判を恐れずに表明する。(時にはTシャツまでつくる!)
世の中の不条理や理不尽を何とか良い方向に変革していくためには、それらをまず「認識しなければ始まらない」わけだが、そういう意味でもモリッシーは世の中に対して伝えるべきことを伝えるメッセンジャーとして、勇気ある表現活動を継続している稀有なアーティストであることがわかる。
表現される音楽と創造される言葉は違えども、時代の鏡たらんとする2人の姿勢、怖れを克服しようとする勇気、そして聴く者を勇気づけ、文字通り「自分の力で」立ち上がることを喜ぶ気高きアーティスト精神は、音楽や表現を下支えする水面下の部分で遠からぬ何かを感じた方も多いのではないだろうか?
そして、モリッシー自身も、プリンスについて言及している。
「プリンスは長年のヴィーガンであり、畜殺場の全廃を強く訴えてきた提唱者だ。でも、このどちらも、彼の神秘的な人生と悲しい死を特集しているにもかかわらず、わたしが昨日目の当たりにした100のテレビ番組では言及されなかった。
この2点は、権力者層の利益に反する表現だと認識されているから言及されなかったのだろう。僕らのようなガレー船を漕ぐ単なる奴隷には、知ることは許されないのだ。
プリンスは思っているよりも世界に影響を与えてきた。彼の音楽の人生はまだ始まったばかりであり、彼が歌ったように、叙情的な人生を送ったことに対して人間だけでなく、動物からも感謝されることになるだろう。人間よ、分かる通り、世界はお前らだけのものではない。」
(モリッシー、プリンスについて「エリザベス2世よりもずっと王家らしく気高い」と追悼 | NME Japanより)
これはプリンス逝去時のコメントだが、モリッシーはまさに彼にしかできない形で見事にプリンスを、そして一面的なRIP報道の在り方の問題点を捉えている。
スミス時代、「心に茨を持つ少年」と歌った彼は大人になっても、その感性を鈍化させることなく、同時に世の中の大多数の認識に取り込まれることなく、ずっと「モリッシー」である様子が、このコメントからジワジワと伝わってくる。その視線の鋭さは衰えるどころか、ますます本質を射抜いているようにも感じられる。
モリッシーの発言が、動物愛護者としてのプリンスをハッキリ示しており、僕を含む多くの人々が、彼の発言を通して「プリンスを再び捉え直す」ことになったのだ。
そしてモリッシーは「彼の音楽の人生はまだ始まったばかり」と伝えている。プリンスの逝去を受けた時点のこのコメントを読んだとき、正直、僕は意味が解らなかった。
「え?いなくなったのに!始まったばかりって?どういうこと?」
奇しくも2020年、コロナ・ショックが世界を覆った時、SNS上で「プリンスならどんなメッセージを発しただろうか?」という内容の投稿が相次いだ。
そして彼の故郷、ミネソタ州ミネアポリス市で5月25日に発生した白人警官による丸腰の黒人男性の圧迫死事件。デモ、暴動は全米、欧州にまで飛び火し、日本でも連日放送される事態となった。
アメリカでも最も平和な音楽都市、ミネアポリスは暴動の街として世界に知られることになったのだが、ここでプリンスが投げかけてきたメッセージのパズルが完璧に一致したのだ。
・彼が世界中で大ブレイクした時のバックバンドがThe Revolutionであったこと。
・パープルレインの雨で人々を覚醒させたこと
・授賞式でのBlack Lives Matterに言及した歴史的スピーチ。
・「我々は行進を続ける」と歌いデモを肯定したWe March
・まだ人種差別はなくならない?と怒り狂ったDreamer
・暴力ではなく歌と行進による「平和的デモの方法」を映像に収めたBaltimore....
ミネアポリス市は警察を解体し、再編成することを発表。人種差別に対するシステムの改革はプリンスが愛し、活動の拠点としたミネアポリスから始まった。
さらに
「 キミはまだ白人に押し付けられた名字のままじゃないか!」とアフリカ系アメリカ人の問題の根幹部分を鋭く指摘したFamily Nameの歌詞の通り、アフリカのガーナは
「今の場所で必要とされていないならとどまることはない、アフリカは皆さんを待っている」
と世界に向けて声明を発表している。
「アルバムって覚えてる?アルバムは大切だ。本や、黒人の命のように。アルバムは大切なんだ。(プリンス)」
モリッシーのコメントは圧倒的に正しかった。「プリンスのメッセージが意味を持つのはこれからである」という未来を誰よりも理解していたのは、モリッシーだったのだ。
そして彼はこのように述べている。
「財産を譲り受けたわけではなく、自分の人生を自分の手でひとかどのものにしてみせたプリンスはエリザベス2世よりはるかに高貴な存在だったし、プリンスは女王よりはるかに深くその死が悼まれることでしょう。」モリッシー pic.twitter.com/pu9Vb8pTJX
— プリンス名言WordsOfPrince (@Princewords1999) 2019年12月24日
プリンスという名を黒人の父親に授かった貧しい少年と、生まれながらに権力と富を手にしていた英国のプリンセスを比較し、世に問いかけている。
彼ら2人は表舞台で共演することはなかったが、音楽よりももっと深い部分で、共鳴する何かがあったんじゃないか?そう思わずにはいられない。
今回、このような素晴らしい、そしてありえない(ゆえに有り難い)企画をくださったほぼ日さん、糸井さん、編集担当の稲崎さん、もし皆さんのお気持ちが無ければ、プリンスの日本での認知は寂しいものになっていたかも知れません。イラストの秋元さん、プリンスとモリッシーの8変化、超楽しかったです。ワンタイムアーティストではない2人にふさわしい最高のアートでした。そして対談相手の上村さん、モリッシーへの愛はもちろん、それを誰にも届く洗練された形にされる態度と、依存しない高潔なお人柄に感銘を受けました。上村さんからモリッシーを感じる、というのが僕にとっての極上体験でした。そして対談を楽しみに読んでくださった皆様、応援してくださった皆様にも心から感謝申し上げます。
最後にひとこと。
RIP、じゃ、遅いんです。もし、あなたが心から愛する表現者がいるならば、もしあなたの心を救ってくれた人がいるならば、その人が元気なうちに(できれば活動されているうちに)敬意ある形で表してください。(今はSNSもありますしね!)そしてプリンスとモリッシーが示してくれた「自分らしく、自分の力で」が混迷の時代の希望となることを信じています。最後まで読んでくださり有難うございます。 2020.6.14 Takki
PS.プリンスとモリッシーの対談を読んで、インスピレーションを受けたイラストレーター、杉山鉄男氏が最高のアートを創作して送ってくださいました。気の遠くなるような緻密な工程を経た点描画です。ご堪能いただけたら幸いです。
40年程前に『少年キング』に載った漫画似顔絵(ハガキにGペンと丸ペン、開明墨汁で)のコピーと、2年位前から時々描いてる『Prince』点描画(ケント紙に丸ペン、Gペン、開明墨汁で)。#俺の描き込みを見てくれ #少年キング #キング二科展 #キングまんがランド #ワイルド7 #ギャラ #さそり #prince pic.twitter.com/hxgzjxcYl2
— てっつあん (@Otsutema_S) 2019年10月25日
https://twitter.com/Otsutema_S
Shinnosuke × Takki ミネアポリス・サウンド対談 ~①ジャム&ルイスの衝撃~
ーーーこんにちは、紫大学編集部です。今日はミュージシャンとして大活躍されているShinnosukeさんと、紫大学のTakkiさんこと二重作さんの対談をお送りしたいと思います。お二方、どうぞよろしくお願いします。まず、お二人の自己紹介と出逢いのきっかけからお伺いします。まずはTakkiさんからお願いします。
Takki こんにちは.Takkiです。格闘技ドクターとして、診療や格闘技の安全性について活動しながら、海外ミュージシャンの来日時のツアードクターをやっています。Shinnosukeさんとは、プリンスファムの共通の知人からのご紹介でお会いさせていただきまして。初めてだったのに、お互いの音楽のヒストリーや楽曲の好みまで様々な共通点があったことからめちゃくちゃ話が弾みました!友人からも、「素敵な人だからぜひ紹介したい」との声かけだったんですが、その言葉通りで。今回、プロの世界で生きるミュージシャンとして、ご自身の世界の表現者として、またミネアポリスサウンドを愛する仲間として、いろいろ学ばせていただきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。
Shinnosuke どうぞ宜しくお願いいたします。僕はSOUL’d OUTという3人組で2003年にSONYからデビューして以来、現在は色々なユニット活動や個人活動しつつ他アーティストにも楽曲提供してます。プリンスと同じ...なんて大それた事は言えませんが心の中では目指すところそういったイメージを持ってマルチな活動を、という感じです。
Takkiさんが説明してくださった通り共通の知人を介してお会いさせていただいたのですが、物凄くプリンス愛が深い方で驚きました!Takkiさんたちのプリンスのイベントに遊びに行かせていただいたのですが、他の同志の方々も皆さんとてもマニアックで変態さんばかりなので嬉しかったです(笑)
Takki いやー、参りましたね。ずっとプリンスファムをやっていますと、変態って誉め言葉に聴こえてきてしまうんですよ(笑)
Shinnosuke 僕も最大級の褒め言葉として「変態」って使ってます(笑)ミュージシャンとか絵画とかアートやってる人って変態って褒め言葉でしかないですよねー。
Takki たしかに。素敵な変態さんばかりです(笑)それで世の中に影響を与えてるのがみなさん凄いです。Shinnosukeさんとお会いした時も、渋谷のクラブイベントだったのですが、「大音量でプリンスが聴ける、踊れる」それ以外は何もなし、というイベントなのに、岐阜からくるは、伊豆大島からくるは、で、変態さん大集合でした(笑)でも、そんな空気の中で、純粋にひとりの音楽好きとして音に浸っていらっしゃる様子がとても印象的でした。問題は・・・僕が家に帰ってからです。
ーーー家に帰ってから?何が問題だったんですか?
Takki Shinnosukeさん、およびSOUL’d OUTの音を検索して聴いたんです。「ひょえー、めっちゃクールでカッコいいじゃないか!」とビビり入りましたね。プロに向かってこんなこと言ったら絶対失礼なんですけど、なんていうんでしょうか、凄く洋楽的というか、音楽的というか、クラストワークやヒューマンリーグといったヨーロッパ的なフィーリングと、CHICやジャム&ルイス、プリンス的な洗練されたサウンド、そしてヒップホップのストリート感覚が、凄くナチュラルに音楽の中にあるような印象を受けたんです!
もちろん、僕はニワカもいいところなので、ずっとフォローされてる支持者の方からしたら「全然違うよ」と怒られちゃうかも知れないけど、でも少なくとも僕はそう感じたんです。
Shinnosuke 調べてくださったんですか!?!? 知らなかった!!なんかスミマセン…ありがとうございます!SOUL’d OUT はメンバー2人もかなりの変態だったのでそこでのケミストリーが面白いユニットでした。僕だけじゃ生み出せない音楽性でしたね。
Takki わぁ、そのあたりのヒストリー、是非伺ってみたいです。
Shinnosuke 最初は日本の歌番組を好きで観てた子供だったので普通に歌謡曲や邦楽から入ったんです。と同時にファミコンが発売した幼少期だったのでドラクエとかファイナルファンタジーというRPGにハマって。そこでの音楽/サントラにもハマって小学校のブラスバンドに入ったんですよ。
Shinnosuke そうなんです。ピアノとか習ってなかったのでそれまで音楽教育は全く受けてなかったんですけど、なんか幼心にエンターテインメントを感じたんですよね。で、ほんとはトランペットとかサックスとかのメロディー楽器をやりたかったんですけど、背が高い(=腕が長い)からという理由だけでトロンボーンやる事になって(笑)。当時はメロディーを演奏できないからつまんないとかも感じてたんですけど、でも今振り返るとそれでアンサンブルの妙を知った、と。アレンジのおもしろさに気づいた時期だったんだと思います。
小・中学生の頃にマイケル・ジャクソンとかマドンナとか一緒にプリンスも知ったんですけど、やっぱりというか子供なのでそんなに良いとは感じなかったんです(笑)特にプリンスは見た目がアレでしょ(笑)怖い、変な人だ…と。マイケルはとんねるずさんのネタ曲のイメージ強かったし(笑)
Takki たしかに(笑)
Shinnosuke そこからはグラフィックデザイナーだった父の影響で美大へ進学したいと思うようになって絵ばっかり描いてたんですけど、でも先輩に連れられてしょっちゅうディスクユニオンとか行くわけですよ(笑)そこで色んなジャンルの洋楽に出会って。Remix とか Acappella を求めてマキシシングルとかたくさん買ったなぁ。これもリアルタイムではなく後追いなんですけど、ジャネット・ジャクソン の「Rhythm Nation」というモンスターアルバムに出会って衝撃を受けるわけです。で、ミネアポリスサウンドというものを意識しだすんですけど、そこからですね。「プリンス、やっぱカッコイイじゃん!」と。「ジャム&ルイス を使ってただけあるじゃん!」と。ようやく見直したという(笑)
Takki あははは(笑)あるあるかも(笑)
Shinnosuke SOUL’d OUT デビュー前は白金にあった老舗のディスコ「ダンステリア」でアルバイトしながらスタジオで色々試行錯誤してたんです。なのでダンス・クラシックスとかソウル、ファンクの勉強はダンステリア時代でかなり培われましたね。そこは ジェームス・ブラウンとか テンプテーションズとかがオーナーとかDJの友達なので来日公演の際には遊びに来てたというハコなんですよ。僕はお会いした事なかったですけど。そこでかかってる曲は70年代の曲が中心なので プリンス はほとんどかからなかったんですけど、お店の女性スタッフに熱狂的な プリンス マニアがいて、色々話を聞いたりしてました。
だからTakkiさんが感じてくださった「色々なジャンル感」って僕の中で凄く大事で。ロックだけでもなくソウルだけでもなく。プリンスもそうじゃないですか。全てを飲み込む音楽モンスターと言うか。
Takki 音楽モンスター!
Shinnosuke そうなんです。もっと言うともちろん J-Pop とかもそうだと思うんですよ。洋楽の美味しいところを上手く日本流に消化(昇華)した形が日本のポップスなので。必然的に後追いになってはしまうんですけどね。日本語で歌うし、音楽/曲に対しての考え方が違うから結局洋楽とは全然違っちゃいますしね。僕はそういう J-Pop も大好きな上にディスコで次々と色々な曲がかかるミックス感覚というか、今で言うとプレイリスト感みたいなそういうグチャグチャなのが好きなのでなんでもやっちゃうんですよね。
僕はChic も Duran Duran も Guy も Hip-Hop も映画音楽も Guns’n Roses も Deep Purple も全部大好き。プリンスも黒人なのにロックしか聞かないような土地で生まれ育ったからこその音楽性ですよね。彼の場合はそこに性的なコンプレックスとか様々な精神性が落とし込まれているとも思いますし。特に彼は自分で歌詞を書いて歌うわけですから。僕はそんなに歌詞書かないし自分では歌わないのでどうしてもサウンドプロデューサー的な立ち位置での創作活動になります。
Takki なるほど~。だからShinnosukeさんの音楽に多様性を感じたんですね。僕もドラクエのBGMとか好きで、「なんか、スティングのラシアンズに似てねーか?」とか弟と話しながらですね。キャラの名前で句読点無しの4文字しか打てないから、プリンスを諦めて、カミール(プリンスの別人格)にしたりして。
Shinnosuke あははは(笑)カミール、最高(笑)歩くのちょっとだけ早そう(笑)
Takki ハイヒールなのに(笑)でも、RPGにはまって、普通はゲームとか、クリエイター系に行く人が多いのに、ブラスバンドに入って、トロンボーン!!!たしかにモンスター倒す目的なら、サックスよりトロンボーンのほうが武器として使えそうですが(笑)
Shinnosuke 効きそうですね(笑)
Takki でもでも、金管楽器の下地があってのシンセサイザーってところが、なんかすごく納得いきました。P-FUNKのトロンボーンでデビューして、プリンスのバンドにもいたグレッグ・ボイヤーのトロンボーンを聴くと、なんか「ここぞ!」という時にトロンボーンが打楽器的に鳴ってたり、リズムの間にガツンとなったりすることがあって・・・。Shinnosukeさんのシンセサイザーにもきっとフィーリングとしてあるのかな、なんてお話を伺っていて感じたんです。
あと、いろんなジャンルのミクスチャー感覚、しかも遅れてきて、というのは、もろにミネアポリス・サウンドの特徴に共通する部分ではないですか?NYやLAといった都会の音楽発信地から遠いミネアポリスは、MTV出現以前、つまりラジオメインの時代は、最新の音楽がずいぶん遅れて到着したんだそうです。だから、逆に土地柄として流行を追えなかった。オーストラリアの有袋類じゃないけど、ちょっと独特の進化を遂げたところはあるのかも知れないですよね。Shinnosukeさんからジャネット・ジャクソンの「Rhythm Nation」が衝撃だったというお話がでましたが、是非その衝撃について詳しく教えてください!
Shinnosuke 「Rhythm Nation」はですね、とにかくもう「音の大洪水!!」という感じでスーパー打ちのめされたんですよ。ヘッドフォンで聴くのも好きだったので更に凄くて。ユーロビートとかテクノとかも聴いてた時期だったんですけどファンクはまだそこまで聴いてなくて、ワンコードで押し通してるのにここまで彩り豊かになるってことはアレンジャーが相当凄いぞ!と。それが ジャム&ルイス だったんですね。
僕はシンセサイザーを高校生の頃に買ったんですけど、「Rhythm Nation」を聴いてるとなんかそういう質感じゃないんですよ。僕が今まで知ってた質感ではない。後から知るんですけど、それはミックスエンジニアのSteve Hodge によるところが大きいんだ、とか使ってるシンセは ENSONIQ系が多いからこういうアメリカンな感じの音なんだ、とか打ち込みなんだけどフレーズはほとんど手弾き(←ここ重要!)なんだ、とかサンプリングの使い方が凄すぎる!とか。もうね、「スライム相手にイオナズンを100連発したくらいの攻撃力」を感じたんですよ(笑)
Takki あははは、凄まじい破壊力!スライムに同情(笑)
Shinnosuke ですよね(笑)当時はシンセやリズムマシンが爆発的なブームというかパワーを持ってた時代なので、そういった打ち込み系の音楽を好きで色々聴いてたんですけど、圧倒的なんですよね。凄く音楽的であり、人間的であり且つSFのような未来的なアンドロイド感もあったり。で、アルバム全体がコンセプトアルバムなのでインタールードが沢山散りばめられていて。この演出にも参りました。完全にひれ伏しましたよ。映画的というかゲーム的というか。
Takki なるほどー!映画的、ゲーム的。
Shinnosuke そうなんですよ。表題曲「Rhythm Nation」はもちろんシンセやリズムマシン、サンプリングの嵐なので凄く硬質的なテクスチャーなんですけど、実は スライ& ザ・ファミリー・ストーンの「Thank You」という曲がサンプリングされて使われてるんです。ベースの所とか。こういう人間的なフレーズサンプリングが薄く下敷きされてるの最初は分からなかったんですよ。全部が打ち込みだと思ってて。CDブックレットのクレジットにもこのサンプリングは載ってなかったので全く気づかず。
この後 、ジャム&ルイスはこういった スライや JBなどのファンクネタを好んでサンプリングしてトラックメイキングしていく事になるんですけど、これもかなりの衝撃で勉強になったんです。タンバリンとかスネアが何種類も聴こえるんだけど、「打ち込みでやっても同じようにならないなぁ。どうやってるんだろ?」ってずっと分からなかった答えがそれで。フレーズサンプリングなんですよね。Hip-Hop のトラックメイキングのような感じ。
Takki おおお、実はヒップホップ的であった、と。
Shinnosuke そうなんです。なので僕はこういったサンプリングのテクスチャーと打ち込みのシンセと、さらに人間が弾いたギターやストリングスなどの楽器達が上手くまとまってるサウンドが好きになっていったんです。でね、基本的にキーボーディストではあるんですけど一番好きなのはシンセアレンジではなくてストリングスやホーンセクションのアレンジなんです。元々トロンボーンやってたというのもここに繋がってるんだと思います。でもね、Jam&Lewis がプロデュースした作品て沢山ありますが、生のホーンセクションを使ってるのそんなに多くないんですよ。
Takki おおお、意識したことなかったですが、言われてみれば!
Shinnosuke 生のストリングスはバラードとかだと結構ありますけどね。これは僕の勝手な想像ですけど、ミネアポリスサウンドの特徴ってやっぱりシンセブラスだと思うので、そういうところからそんなに生のホーンセクションを使ってないのかもな、なんて思ったり。Jazz にしろファンクにしろブラックミュージックなんて生のホーンセクションが沢山入ってるから使えば良いとも思うんですけどね。そうじゃない。多分彼らが生まれ育った土地がもっと南の方とかだったらシンセブラスにこだわってなかったかもだし。 わかんないんですけど。
(パート2へ)
Shinnosuke プロフィール
Song Writing (Compose / Lyric & Words) , Arrangement , Produce , Remix
Sony/SME Records より3人組ユニット 「SOUL'd OUT」 としてメジャーデビュー。 Trackmaster として楽曲の作曲・編曲を担当し、2003~2014年まで活動。buzz★Vibes、boyz mart、Disco Hardayz Band など現在も様々なユニット・アーティスト活動と平行して他アーティストへの楽曲提供やテレビドラマ/アニメの BGM 制作も行っている。
Shinnosuke が自分の思い出と共に「Pop」という観点から選んだ大好きな曲を好き勝手にかける音楽番組『Pop Life』今春から各局で放送中!番組タイトルはもちろんPrinceの楽曲から拝借。
http://fukuchiyama.fm-tanba.jp
DARAZ FM 毎週土曜日 24:00〜(リスラジで聴けます)
FMふらの 毎週水曜日 16:30〜
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TVアニメ『魔術士オーフェンはぐれ旅』のBGMを担当したオリジナルサウンドトラックがCD2枚組で発売中!シンセサイザーだけでなくオーケストラを使った重厚で壮大な作品!
食わず嫌い王子 07 古川 淳一/ボーカリスト・ボーカルトレーナー
食わず嫌い王子 ~あなたの殿下がここにいる!かも?~
ヨーロッパやアメリカでは「現代のモーツァルト」として高く評価されリスペクトされる一方、日本の一般層には「プリンス?誰それ?」状態。そんな時代に、究極のお節介企画、『食わす嫌い王子』。プリンスをあまり聴いていない方、存在自体知らない若い世代に、「殿下の音楽は届くのか?」実験的インタビューをここにお届けします。
07 古川 淳一さん/ボーカリスト・ボーカルトレーナー
ーーーこんにちは、紫大学大学です。この度はおせっかいな企画へのご参加をありがとうございます。まずは、古川さんの自己紹介をよろしくお願い申し上げます。
古川:古川淳一です。福岡県北九州市出身のボーカリストです。現在はおもに吉祥寺でボイストレーナーとして働いており、ボーカリストさんをはじめ様々な方のサポートをさせていただいております。
ーーー古川さんはボーカリストとして、またボイストレーナーとしてご活躍されているんですね。どのような経緯でその道にすすまれたのでしょうか?
古川:大学時代の出会いがキッカケです。地元にいる時は全く思いもしなかったのですが、大学で出会った人達に誘われて、ゴスペルや路上、クラブなど、様々な環境で人前で歌うことを気がついたら始めていました。やっていくうちに楽しくなっていってお仕事もいただけるようになっていったのですが、このままやってても良いものか…そもそも自分の才能で通用するのかどうか不安になったのもあり、ボイストレーニングスクールに入りました。
そこで出会った恩師から「君はボーカリストでプロになれるから大丈夫」と言ってもらい、就活をスパッとやめ、周囲を説得し、ボーカリストとしての活動を本格的に始めました。
ーーー恩師との出会いがあったんですね。
古川:そうなんです。ボーカリストとして経験を積む中で、受けていたレッスンを通して自分の成長を感じたり音楽がより深く理解できるようになりました。自分と向き合い、仲間たちと音と向き合うこと。辛いこともありましたが、これは独学ではまず無理だったと思います。また同時並行で予備校で英語の先生をしていました。中学高校時代の学校や塾の恩師に教え方も人間的にも面白い方が多く、その影響で大学時代から始めたもう一つのお仕事でした。教えること、習って身につけたことを自分の言葉で伝えること、そして生徒さんたちの成長と笑顔を見ていくことにハマっていきました。
ーーー同時に英語の先生もされていたんですね。
古川:はい、しばらく活動を続ける中で様々な不運やタイミングの悪さも重なり、音楽活動を続けるのが困難になってきた時に、ボイストレーナーの恩師から、一緒に働くお誘いを受けました。ボイストレーナーはボーカリストと予備校講師をハイブリッドしたものだと言われ納得しまして、今はボイストレーナーをメインにお仕事しております。今年で12年目です。
ーーーなるほど、音楽を通じて自他の成長を実感された古川さんが、教え、伝え、成長する喜びを経験された。いろいろある中で、恩師からのお誘いで、2つの川が交わって、ハイブリッドとしてのボイストレーナー古川さんが生まれたんですね!
古川:そうですね。導いてくれた方がたくさんいてくれる幸せに恵まれていると思います。
ーーー素晴らしいですね。古川さんの好きな音楽についても、是非伺ってみたいです。といっても、おそらくは無限の広がりと深みがあるでしょうから、読者の方に「これだけは!」というところをご紹介いただけますか?
古川:そうですね!無限とまではいきませんが、結構面倒なことになりそうなので、二つに絞ります(笑)
ーーーありがとうございます(笑)
古川:はい!それではまず1人目はマイケル・ジャクソンです。言わずと知れたスーパースター。“King of Pop”と称され、グラミー賞受賞回数13回、3億枚を超える音楽作品の売り上げを誇る最高峰のアーティストです。私はこの人のライブを中学2年生の時に福岡ドームで見ることができまして、非常に衝撃を受けました。私が洋楽にどっぷりつかるキッカケとなりました。おすすめの1曲はHeal The Wolrdですね。ダンサブルな楽曲が有名ですが、バラードにも名曲が多いと個人的には思っていて、歌詞の内容的にも今の状況にぴったりかと思います。
続いて2人目に挙げたいのがベビーフェイスです。ボーカリストとしてもプロデューサーとしても、アメリカの音楽界のトップを走り続けるアーティスト。ソウルやR&Bから始まり、長年にわたりジャンルを超えて幅広いヒット曲を生み出し続けています。私が20代の頃に出会い感動した音楽の大半が彼の関連作品だったりします。ぜひ聴いていただきたいのはHow Come, How Longです。1997年のMTV Unpluggedというライブプログラムでのスティーヴィー・ワンダーとのデュエットが有名ですね。この曲の収録されているライブアルバムは、私史上最高の一枚なので、ぜひ皆さんに聴いてもらいたいです!
ーーーなんとあのマイケルのライヴを直接体験されたんですね!それは歴史の証人レベルだと思います。たしかデンジャラス・ツアーとヒストリー・ツアーの両方で福岡公演をやったんでしたよね。いま、改めて聴かせていただいたんですが、全く古びない、時代を超えたエバーグリーンな楽曲だなぁ、と感じました。
そして、ベビーフェイスのご紹介もありがとうございます。これ、「ごめんなさい」案件なのですが、僕の中で、ベビーフェイスといえば80年代終わりにシーンを席巻した2人組の新進気鋭のプロデュースチーム、LA リード & ベビーフェイスの印象が強烈でして。とにかく当時は、最先端のダンスとサウンドが武器のボビー・ブラウンとか、デビューアルバムから立て続けにシングルヒットを連発したポーラ・アブドゥルとか、黒いマドンナといわれたペブルスとか、ブレイクしたR&B系の音楽は彼らのキレキレのサウンドが核になっていたような時期で。僕の中ではその印象が強烈で、その後のベビーフェイスのソロはあまり聴いてなかったんです。
でも、今、こうしてじっくり聴かせていただいて、メロディーと雰囲気に酔いしれています。古川さん、素晴らしい楽曲と音楽家を教えてくださりありがとうございます。
古川:ありがとうございます。ボビー・ブラウンやペブルスの作品については、90年代からどんどん遡って聴いた感じでした。90年代R&BとかNewJackSwingをメインコンセプトにしたクラブイベントが多かったので、ダンサブルな関連作品はガンガンプレイされてましたね。
ーーーたしかに流行のサウンドとしてLAリード&ベビーフェイスが席巻したような時代でしたね。僕はボビー・ブラウンのRONIというバラードが大好きで、今調べたら、これもベビーフェイスの作品でした!ビックリです!
さて、ここでプリンスの1曲目をご紹介させていただくわけですが、何かご希望はございますか?こんな感じのを聴いてみたい、というのでもいいですし、古川さんのフェイバリット、マイケルやベビー・フェイスから閃いた1曲をご紹介する形でも大丈夫です。
古川:はい!それでは、私はボーカリストですので、プリンスのボーカルの魅力が際立つ一曲をお願いします。勉強したいです!!
ーーーでは、Somewhere here on earth のライヴです。
古川:いやー!イイですねー好きです!5回目リピート中ですがまだニヤけてます(笑)ジャズバラードという感じでもあり、美しく流れるようなファルセットがフィリーソウル的でもあり。メロディアスにスキルフルに歌う部分から語るように歌う部分もあり。力強さ、繊細さ、セクシーさ・・・「表現力の幅広さ」なんて言葉がチープに感じるくらいのパフォーマンスですね!
バラードって、スピード感がとってもとーっても大事なんです!演奏もゆったり、歌もゆったり…これって一歩間違えるとグダグダ感に繋がってしまうんですね。当たり前ですが一切そんなグダグダは無く、バラードなのにジェットコースターに乗っているかのようなダイナミクス。素晴らしいです。ささやくように歌う時も、パワフルな時も、ファルセットのハイトーンやロングトーンの時も、全てにおいて計算され尽くしたかのような…時間と空間を操るかのような歌ですね!恐れ入りました!途中のスケッチ?してる部分も遊び心あって良いですね。これだけのパフォーマンスならもっと必死になってしまいそうですが、どこか余裕があって…。いやー底無しですね。
ーーーしっかりと聴いてくださっただけじゃなく、プロフェッショナルとしての視点をシェアしてくださり、ありがとうございます。特に「バラードの難しさ」はリスナーでしかない僕には、全く意識したことがないところで・・・古川さんの仰るポイントで僕も聴き直してみたんですが、たしかに「ジェットコースター」ですね!
途中の演奏が盛り上がる前までは、バンドは抑制が聴いていて、一定というか、変化をつけないことで、プリンスのボーカルの変化が際立つようになってるように感じました。逆に、Excuse Meとか言いながら、画面中央から姿を消すのも、「ここは俺じゃなくてバンドを聴いてね」ってことなんでしょうね。で、スケッチ?文字?を書くパフォーマンスでプリンス自身は「サイレント、ミュート」に徹している。それがまた彼自身のギアチェンジになっているのかも知れない!古川さんの知見から、そんなことを感じました。
この曲は、もちろんスタジオレコーディングのMVもあるんですが、ライヴの一発勝負のほうが、プリンスとバンドがダイレクトに伝わりやすいかな?と思いまして、こちらを選ばせていただきました。
古川:ありがとうございます。バラードって本当に難しいんです。軽い気持ちで歌ってみても、「ん?何か違うぞ!?あれ?難しいぞ!?」ってなります(笑)
この映像の演奏が一定でボーカルが動き、間奏でバンドにバトンを渡す、持ちつ持たれつな関係性。しかもお客さんにも目配せしつつ、全体の雰囲気をクライマックスに向かって盛り上げつつきちんと着地。それをいとも簡単にやってのける素晴らしさですよね。エネルギーがプリンスの頭上に集まって、優しく全体に降り注いでいるようでもあります。
そしてやっぱりライブ!大好きです!一発勝負の良い意味でのヒリヒリ感だけでなく、オリジナルとのアレンジの違いも楽しめますしね。「ライブ」の良さをあらためてこの動画で感じました!今すぐにでも観に行きたい!ですが・・・今は我慢のしどころですね。
ーーーうわぁ、古川さんの「お客さんにも目配せしつつ全体の雰囲気をクライマックスに向かって盛り上げつつきちんと着地」の言葉は、逆に気づかされるというか、プリンスがプリンスである所以が凝縮されているように感じました。
古今東西、優れたアーティストはたくさんいるんですが、彼がその中でも頭1つ抜けてる部分があるとすれば、「場を把握する能力」ではないかと僕は思っていて。この映像もスタジアムやアリーナクラスのライブではなく、TV出演時のライブなんですが、もう見事に「それ用のパフォーマンス」になっている。
自分の音楽を届ける先は、TVカメラの向こう側であり、「視聴者はTV画面を通じてプリンスを体感する」という前提をしっかりと把握した上で、歌う時の目線や表情による表現に重点を置いたパフォーマンスになっています。そういえば、この動かない旧式?のマイクもプリンスの表情の変化を際立たせるのに一役買っているのかも知れない。古川さんのプロの見識に触れることで、新たな発見ができています。
古川:職業柄どうしても技術から入る部分がありまして、ボーカリストとして、エンターテイナーとしての振る舞いがまず印象に残るんですね。空気をガッチリ掌握して、まさにマエストロ。固定されたマイクも含め、演出と期待感がしっかり噛み合ってて、素晴らしいグルーヴになってますよね。
ただこれは噛めば噛むほど味が変わるというか、これから先聴いていく時間が増えたり、より深く知っていけば…今回のようなやりとりが出来るとまた新しい切り口が見えてくるような気がします!とてもおもしろいです!!
ーーー専門家という言葉以上の、ボーカルという世界に魅了された古川さんの情熱まで伝わってくるのが最高です。僕は全く門外漢なので、全ての知見が刺激的で面白くて。おっしゃるとおり、経験や景色によって違った面が見えてくるからそれもまた楽しみです。さて、2曲目はどんな感じにいたしましょう?ご希望をきかせてください。
古川:それでは2曲目ですが、1曲目がジャズバラードでしたので、アップテンポでダンサブルな、イケイケな楽曲をご紹介いただければと思います!!
ーーー了解しました!ではLet's Go Crazy の12inchバージョンを今度は音だけでご紹介します。
古川:これはまたダンサブルですね!思わず体が動くというか、手拍子したくなるというか。少し長めのアレンジになってますが、これは確実に聴く側を踊らせにかかってますよね。途中様々な楽器のソロが挟まっていて、独特な不安定な和音が続いたり、跳ねたリズムと淡々としたリズムが同じタイミングで鳴っていたり、吐息やシャウトも歌に組み込んでスピード感にブースターをかける感じも好きですね。聴かせる歌というよりは踊らせる歌。
全体を通して、いわゆるJpop的なAメロBメロサビという構成ではなく、ずーっと同じことの繰り返しに近い感じではあるものの、いろんな音がクロスオーバーして最後まで飽きさせない楽曲だと思います。ちなみにこの楽曲って有名だったりしますか?どこかで聞いたことがあるような気もしますが・・・
―――プリンス2曲目の全米1位の曲ですが、羽生結弦選手がショートプログラムで使用されて世界的に再評価されるようになった曲です。
古川:羽生選手!そうでした!何度か聞いているとギターの素晴らしさがじわじわと。ロックテイストあふれるソロにしても、バックのカッティングにしても、様々な音色を展開ごとに使い分けながら、ものすごく存在感はあるのに全然鬱陶しく無い。これプリンスご本人が弾いてたりしますか?
ーーーはい、これはプリンスのギターですね。
古川:彼がギターをもって弾きながら歌っているイメージはあったのですが、こんなギターすごい人だったという印象が正直ありませんでした! 非常に個人的な感覚なのですが、ボーカル一本でやってきている人の歌の良さと、ギターも弾けちゃう人の歌の良さってちょっと違った感じがするんです。ギタリストさんの歌でグッと来る歌い方は、なんだかギターソロのような歌い方なんですね。ギターソロの譜面通りに音を置くように強弱やノリをつくっていると言いますか。
―――ギターソロのような歌い方!それは非常に興味深いお話です。
古川:エリック・クラプトンや、ジョージ・ベンソン、ジョン・メイヤーなどが典型例ですね。誤解を恐れずに言えば、特にクラプトンはお世辞にも綺麗な声とは言えないですし、音域も狭く、声量もそんなに大きくはない。ボーカリストとしての能力で言えば、もっと凄い人はいくらでもいる。でも、あのグルーヴは誰にも真似できない。あんな風に歌えたらどんなに素晴らしいか…ギターで出来ていることをそのまま歌に落とし込んでいるので、ボーカル一本でやって来た人には出来ない歌になるんです。Change the worldでグラミーを受賞したのもそういった理由もあるんじゃないかなと。同様にベースが弾ける人、ピアノが弾ける人、ドラムやパーカッションが出来る人…それぞれの歌の良さっていうのがちょっとずつ違っていて、それぞれに素晴らしいんですよね。
ちょっと話が逸れましたが、プリンスの歌を聴いていると、ボーカリストの歌の良さはもちろん、ギタリストとしての良さもガッツリ出せているなぁと感じます。同じ弦楽器でもバイオリンから三味線まで弾けちゃうような器用さと幅広さを感じます。一曲目と二曲目だけでも比較すれば全然個性が異なりますもんね。時代性なんかもあるかとは思いますが…さっきも書きましたが、正に底無しですね。
ーーー詳細なご感想をありがとうございます。しかもリズムや曲の構成について、専門的な視点も交えての解説にビックリです。古川さんの仰る通りで、プリンスの楽曲の特徴のひとつに「飽きさせない仕掛け」が随所にみられるんです。なんていうんでしょう、「圧倒的な反復再生も耐えうる曲の強度」という言葉になってしまうのですが、単純な構造の曲の中にたくさんのアイディアがあったりだとか、聴く人の音楽的嗜好や、音楽的経験によって違う感じに聴こえるとか、そういうところがあるんですね。
この曲もイントロだけ聴けば教会音楽みたいだし、リズムを聴けばダンスナンバーなんだけど、ギターに注目すると思いっきりロックナンバーだったりしますよね。古川さんの「ものすごく存在感はあるのに全然鬱陶しく無い」はもう、よくぞ言ってくださいましたレベルの表現でして、不協和音含めてこれだけ「盛り盛り」なのに、同時に容赦なく「引き算」して空間をつくってる気がします。そして、「ギタリストはギターソロのような歌い方」という視点は凄く興味深く感じました。僕は医師として運動やリハビリを専門にしているんですが、歌を習得してできた神経細胞の連結と、ギターを弾いて習得した連結が、それぞれまた相互に連結しあっている可能性が十分に考えられるんです。ですから、脳の機能と運動という面から考えても、古川さんの仰る通り、クラプトンのボーカルは、「ギターを極めたアーティストならでは」なんだと思います。
例えば、カラテだけやってきた選手のカラテと、バレーボールでジャンプ力鍛えまくった人のカラテって同じじゃなかったりするので、「歌」も「演奏」も大きな意味では運動ですから、表現として違いが生まれるというのはあり得ると思います。これも、言われてみれば、ですが、スティングはジャズ・ベースの名手ですし、デヴィッド・ボウイはサックスが上手い。マイケルは身体表現であるダンスで音楽を感じさせるし、ピーター・ガブリエルはドラマーならではのリズムが音楽の核になっている・・・。古川さんの視点で音楽家と楽曲を見つめていくと、いままで聴いていた曲がさらに深く多様性をもって聴こえるように思います!
古川:なるほどなるほど!飽きさせない仕掛けがあるからこそ、反復再生に耐えられるわけですね。「引き算の美学」なんて言葉もよく使われますが、自分が音楽製作活動をしているときにこの感覚をもっと深く理解していれば、悩み苦しんでいるときにも状況を好転させられたかもなぁと思います。
そして脳と神経細胞の連結のお話は本当に興味深い!私は剣道経験者なんですが、違うスポーツから移ってこられたり、小学生の頃に他のスポーツと両立されているような方は剣道オンリーの方とスタイルが違いましたし、そもそも体型や性格によっても剣風は変わるし、ざっくり言うと育って来た環境が違うと何もかもが違って当然ですよね!なんだかプリンスの楽曲とこのやりとりを通して、今までバラバラだった自分の中のパズルのピースがどんどん組み上がってるような感じがしています。大きな話になってしまいますが、人間の成り立ち?みたいな。その人の音楽性や個性みたいなものをさらに深く読み解くきっかけになるというか。
ボーッと聴く音楽もそれはそれで良いのですが、腰を据えてじっくり聴きながら、さらにこういったやりとりをさせていただく中で、その音楽家の様々な経験や努力の痕跡、当時の流行や時代背景だったりも含めてかなり深いところまで抉っていくことができているんだなぁと感じます。
私はボイストレーナーという職業に就いていますが、それ以前にボーカリストで、もっと言うとただの音楽好きです。今私の中の「ただの音楽好き」の部分がとても満たされてる感じがしています!あれ?そういえばここ、「紫大学」ですよね?なんか今とても良いセッションを受けているような・・・!
人を理解する、と言うことに対しての僕なりの方法論が再構築されつつあるのかもしれません。家族はもちろん、友達やレッスンの生徒さん、初対面の人に対しても、オンラインでもオフラインでも、今後もっと深く理解し合えるようになる気がします。楽曲やアーティストを分析し、理解していこうとすることが、多様性の理解力だったり、受け入れる器の広がりにつながるとはおもってもみませんでした。
ーーー古川さんの仰る通りで、音楽に対してボーッと聴く、それも意味があるし、音楽の役割のひとつですよね。でも、それだけで終わるには非常に勿体ないし、音楽から学ぶことであったり、音楽の人間への作用であったりは、相当奥深い世界なんじゃないか?と思うんです。
ましてや、古川さんは音楽を受け取る側だけではなく、発信する側であり、さらには発信する人たちの能力を引き出し、エンパワーする側じゃないですか。そのご経験と探求心があるから感じられる楽曲の魅力って絶対にあると思いますし、僕はそれを直に感じられないから、古川さんに見えた(聴こえた)景色を言葉にしてもらって、僕なりに再構築させてもらうという極上の時間を過ごさせていただいてるわけです。
古川:ありがとうございます、嬉しいです。
―――古川さんの「ただの音楽好き」のお話を伺ってて想い出したのが、アメリカでセレブリティが集まるパーティーがあるんですが、もうトンデモナイクラスの歌手やらダンサーやら俳優やら映画監督やらが集う場で、「あのプリンスが来る」ってなると、会場がざわめくらしいんですよ。名前のある人たちからのリスペクトが半端ないらしくて、みんなファンの顔になっちゃうそうなんです。
プリンスと一緒にステージで演奏してるバンドのミュージシャンたちなんかも、普段はめちゃくちゃ鍛えられてたり、思いっきりダメだしされてりしてるのに、ステージでレッツ・ゴー・クレイジーを演奏するプリンスを後ろから見てて、「うわぁ、プリンスだ」って思うらしいんですよね(笑)なので、きっと「音楽好きに戻る」って最高なんじゃないですかね?エリック・クラプトンも「プリンスは音楽のすばらしさの生まれ変わりだ」とコメントしてるくらいなので、「好きを刺激する天才」なんだと思います。
古川:あぁ…なるほどですね。音楽という大海原をヨットで悠々と風に流されてみるのも良いですが、深海まで、普段は光が届かないようなところまで探索してみると、新しい何かに気付くことができる。点が線になるような感じかな。私も再構築させていただいてます!
そしてプリンスのエピソード、素敵です!トップオブトップはやはりすごいなぁ~。気づけばただの音楽好きになっちゃってる。非常に刺激的です!
ーーー古川さんは、詩人ですね!さて、ここまでボーカルを味わえるジャズバラードのライヴ、そして羽生選手も使用したレッツ・ゴー・クレイジーの元々の長さのものを聴いていただきました!いよいよ3曲目、どんなので参りましょう?
古川;ここまでの流れで、プリンスの楽曲や歌だけでなく、プリンスという人の人間性や音楽性の奥深さにとても興味が湧いて来ました。そして先ほどから出て来ている「再構築」という言葉。プリンスの音楽の歴史や彼の人生の中で、ガラッとイメージが変わった曲だったり、それまでの積み重ねと違う方向性にシフトしていった曲だったり。良い意味でリスナーを振り回しつつ、それでもやはりこれぞプリンスだ!というような楽曲があればご紹介いただければと思います!
ーーーでは、Popeをご紹介します。
古川:おぉ!ヒップホップですね!これまでの2曲とまた全然毛色が違う!90年代のNew Jack Swing風なトラックに軽快なラップが乗っかってますが、これもプリンスなんですよね?ラップもできてしまうとは!!クレジットを見てもエンジニアリング以外のトラックも詞もプロデュースも全てご本人。女性ボーカルとの絡みも素晴らしいし、すごいなぁ。ほんと何でも屋さんですね!こんな才能をなんでこれまで見落としていたんだろうか…
リスニング力がイマイチ自信ないですが、popeとdopeで韻を踏んでいたりしますよね。英詞を書く方の方が日本人よりも韻を踏む文化があるとはいえ、センスを感じざるを得ないですね。
ボーカルというか、ラップの部分の発声なんですが、声帯の使い方や鼻腔をはじめとした頭蓋骨内の共鳴の具合がずーっと同じで安定しているんですね。綺麗な倍音が響き続けているのが特徴的で、これはとても高等テクニックなんです。ものすごく絶妙に無理なくコントロールされている。あまり力強く張り上げているわけでも無いし、もちろん大きな声でもない。でも非常にマイク抜けが良いので鋭く聞こえてくる。跳ねたトラックの上に小気味好く乗っかるラップと、しっとりした女性ボーカルも含めたバランス・・・ミックスの妙でもあるんでしょうが、とても気持ち良いバランスで何度でも聴けますね!
ーーー素敵なレビューありがとうございます!実は「これぞプリンスだ!というような楽曲」という古川さんのリスエストを頂き、「うーーん」と考え込んでしまったのです。というのも、プリンスという人は、「これがプリンス」的な他人からの定義や偏見に対して、「おいおい違うだろ」って態度で示してきたようなところがあってですね。いわゆる代表曲、有名曲、ヒット曲はあるんですが、それらも結局は彼のダイバーシティのひとつ、あるいはいくつかの組み合わせに過ぎないところがあって。
僕がどの曲を選んだところで、「僕が考えるこれぞプリンス」になってしまうんです。それだけ「スケールがある」ともいえるけど、逆にそれが「わかりにくさ」にもつながってしまうんですね。そのように迷った挙句、このPopeをあえて選んだのは、「これぞプリンスという曲」ではないけれど、ある意味彼の多様性が端的に表れていように思ったからなんです。
古川:なるほどー!ダイバーシティか!
―――そうなんです。古川さんが解説してくださった、この曲のプリンスのラップの唱法は、僕にとっては全く目からうろこで、知らないできくと一本調子に聴こえる「安定」は、高等テクニックなんですね。そういう視点をいただくと、なんかラップがベースのように聴こえてくるというか、ラップの安定感ゆえに、それ以外のサウンドが際立って聴こえてくるから面白いですね!
古川:何事も「力任せ」「勢い任せ」より「良い具合に制御して持続させる」ことのほうが難しいですよね。あの感じだと思っていただければ。それにしても、プリンスはヒップホップもやってしまうんですね。これぞプリンス、に限界が無いんですね。
ーーー彼の特質として、新しい音楽スタイルに触れた時、それを飲み込もうとするところがあるんです。「ちょっと拝借」とか、「エッセンスをとりいれる」とかではなくて、なんていうんでしょう、怪獣みたいにガブッとスタイルごと。80年代の終わりぐらいから、ヒップホップがムーブメントとしてグワッと台頭してきて、それまでのR&B系のアーティストは、ヒップホップに対してどのようなスタンスをとるか、試されるような時期だったんです。
例えばマイケル・ジャクソンであれば、ニュージャックスイングの旗手であったテディ・ライリーを迎えた”Jam”にヘビーDのラップを乗せて、当時の最先端をやる、みたいな。プリンスは「できるようになればいいんだろ?」って感じのスタンスで、ラップを練習して、ループサウンドも構築して、DJプレイもマスターした。ヒップホップの手法を取り込んだ上で、これに生演奏の技術を上手くブレンドして、ニュー・ファンクというスタイルを確立してしまったんです。
古川:なるほど…スタイルを完全に飲み込もうとするんですね!そうすると中途半端なちょい足しとは全然意味合いが変わってしまいますね。おっしゃるようにマイケルは、音色や奏法、映像にしても、その時のスペシャリストと手を組んで最高のものをつくりあげようとしてました。常に最先端に居ようとするスタンス。
でもプリンスのスタンスの取り方はちょっと勇気が必要ですね。普通のミュージシャンの感覚だと、下手すると二番煎じだと揶揄されかねないし、方向性を見失ってしまうかもしれない。でも彼は当然そのレベルでは無かった。きっと尋常ではない研鑽を積んで、新たなスタイル飲み込んで、モノにして、変わり続けたんですね。
ーーーいま、古川さんのおっしゃったところがとても興味深いところでして。あえて誤解を恐れずに書くと、マスターして、ブレンドして、トンデモなく凄いの出してくる場合もあれば、「あれ?どうした、プリンス?」ってなった曲が後になって「ああ、あの時のあの挑戦が、今、こういう形で結実したんだな」ってわかるような場合もあるんです。クオリティというよりも、音楽的な方向性という意味でですね。
その結果、それまでの支持者をガツンと突き放すようなこともしょっちゅうあって。それでも、そんなことはお構いなしに、ブレずに突き進む様子を見せてくれる感じがあるように思います。
「レッツ・ゴー・クレイジーみたいな踊れるロックも良いけど、でも、Popeのようなクールなヒップホップだって、素敵な音楽だろ?」みたいな。だから、僕らリスナーの扉を次から次にあけてくれる人ですよね。
古川:今のお話で、プリンスって、とことんgiverなんだろうなぁと思いました。常に新しい価値を提示し続ける。たとえ賛否両論だったとしてもグイグイ突き進んで、固定概念をひっくり返し、そして引っ掻き回す。カオスであることにワクワクする感じなのかな。未知のものを取り入れて、今までと違う自分になってしまっても全然OK。そしてそれを作品として嘘偽り無く素直に世の中にに提示する。そうやって結果的に新たなスタイルを創り上げてしまう。そこが彼の魅力なんですかね!?
もちろん技術の磨かれ方も半端ない。dopeだ。控えめに言って最高だ。常人の理解を超えてます。自分で書いてて自分の理解を超えてる話なんですが、「変わること」は、突き詰めると「変わらないこと」になるというか。変わり続けようと試みることで「らしさ」が知らぬ間に増強されるというか。今知らぬ間に、と書きましたが、そこも実はプリンスには見えていた、分かっててやってたのかもしれませんね。
ーーーわずか3曲、そしてこの対話から、そこまで適切に捉えていらっしゃる古川さんにビックリしています。僕なんてひたすら追っかけて聴いてきたけど、そのような洞察に至ったのは、ついここ2-3年の話ですから。しかし、実際に変わり続ける、しかも音楽的にもどんどんスタイルを更新して、時にはセールス的にもしっかり結果を出すってやっぱり大変だと思うんです。
古川:はい。普通なら大変なことです。成功体験は甘い蜜のようなものですから。離れがたいものです。
―――この大変さって、同業者であったり、表現者にこそその凄さがわかる、というか。古川さんも表現者でいらっしゃるから、「全く異なる3曲がひとりから出てくること」の意味が分かったんだと思うんです。
古川:はい、それをやっちゃうのがプリンスなんですね。
―――「らしさ」ってやつですね!実は古川さんにお伝えしてなかったことがあるんですが、プリンスはマイケルのことも歌っているし、ベビー・フェイスに至っては自分の曲の中でわざわざ名前を出しているんです。Hardrock Loverという曲なんですが。
スティーヴィーとは、楽曲でもライヴでも共演していますし、エリック・クラプトンがドラッグやアルコールまみれでどうしようもなかった80年代中盤、プリンスのパープル・レインの映画を見て、曲を書き、再起したそうなんです。ジョージ・ベンソンとも親交があって、ベンソンはプリンスにギターをプレゼントして、プリンスはそのギターをとても大切にしたそうです。
こんな感じで、古川さんの大好きなミュージシャンたちとも親交があり、相互に影響を与えてきてるんですよね。今回の対話で、僕自身、彼らの音楽に興味がわいてきたし、ちゃんと聴きたいな、と思いました。そして、古川さんが音楽に心底惚れていて、曲の感想や古川さんが感じたプリンスを真摯に言葉にしてくださったことにも感動しました。音楽でここまで盛り上がれるって素晴らしいな、本当に人をつなぐんだな、と。
古川:わー、なるほどですね。みんな繋がってる。高次元で影響しあっているわけですね。いろいろと探して聞いてみることで、今回のやり取りと自分の今までのデータをアップデート出来そうです。クラプトンのお話は知らなかったなぁ・・・。マイケルやベビー・フェイスについても彼らの歴史とともに振り返ってみようと思います!
今回はたった3曲でしたが、ものすごく濃密なやりとりが出来てとても楽しかったです!勉強になりました!今後の音楽の向き合い方にも良い影響が出るでしょうし、これからも僕なりにプリンスと彼の多様性に向き合って、もっと深く理解できればと思います。これを機に沼にハマってしまうかもしれませんね(笑)その時には救いの手を差し伸べていただければと思います!
―――もちろんです!ご自身に生かしてこそ、ですもんね。
古川:今は新型コロナの影響で休業中ですが、状況を見つつトレーナー業を再始動する予定です。今回のやりとりで引き出していただいた言葉や感覚、そして学んだことは、きっと今後に活かせると思っています。良いトレーナーであるべく、変化を繰り返し自分の幅をどんどん広げていきます!休業中にこんなに脳味噌に良い汗をかけるとは思ってもみませんでした!清々しいです!本当にありがとうございました☆
ーーーこちらこそありがとうございます。古川さんとの対話で、新しいプリンスをたくさん発見できました。それだけじゃなく、変化ってなんだろう?多様性ってなんだろう?いろいろやってるのにそこに「らしさ」があるのはどうしてなんだろう?みたいな感じで、どんどん思考が発展していくのを感じました。素晴らしい音楽家と、古川さんのボーカル追求から得られた叡智が重なるとこんなにエキサイティングになるとは・・・!これからもご活躍楽しみにしています。今後ともどうぞよろしくお願いします。
古川:はいっ!エキサイティングなひと時をありがとうございました!マニアック上等で思いのままに話しましたが、うまいこと拾っていただきつつ、さらに繋いで拡げていただいて感謝です。プリンスとの出会いは、今後の自分の音楽人生のターニングポイントになりそうです。今後も期待しております!よろしくお願いします!
ーーーこちらこそよろしくお願いします!
プリンス 7 つの質問 15 立本 真己
God ~ Prince from Princefan046 on Vimeo.
食わず嫌い王子 06 山本 裕美/人財育成コンサルタント
食わず嫌い王子 ~あなたの殿下がここにいる!かも?~
ヨーロッパやアメリカでは「現代のモーツァルト」として高く評価されリスペクトされる一方、日本の一般層には「プリンス?誰それ?」状態。そんな時代に、究極のお節介企画、『食わす嫌い王子』。プリンスをあまり聴いていない方、存在自体知らない若い世代に、「殿下の音楽は届くのか?」実験的インタビューをここにお届けします。
06 山本 裕美さん/人財育成コンサルタント
アスパラ 山本裕美 (@wakabagou) | Twitter
ーーーこんにちは、紫大学です。この度は、おせっかい企画へのご参加、ありがとうございます。まずは、山本さんの自己紹介をよろしくお願いします。
山本:山本裕美と申します。「自分で考えて行動する人の育成」と「個と組織の成長の支援」をテーマに活動している人財育成コンサルタントです。塾講師、OL、勤務社会保険労務士の仕事を経て2004年に起業しました。最初は就職支援に携わっていましたが2011年に働く人々の支援にシフトチェンジしました。現在は企業での人財育成コンサルティングと現場実践型・対話型の研修やワークショップの企画運営などが主な活動です。
ーーー働く人々の支援のプロとして活躍されているんですね。自分で考えて行動する、早くも面白くなりそうな予感がしています。趣味や好きなことはございますか?また音楽はどのようなのがお好みですか?
山本:そうですね。社労士時代から通算すると、気づいたら「ひとと仕事」に20年ぐらい携わっていることに先日気づきました。この対談で自身への新たな気づきも得られそうで楽しみです。趣味は筋トレ、そして5~6年前からバスケットボール観戦にどっぷりハマっています。9月から5月のシーズン中は毎週末、日本全国どこかのアリーナに出没する生活を送っていましたが、2月末からの無観客試合、そしてリーグ戦中止になってしまい、今はそのエネルギーを筋トレにぶつけています(笑)
音楽は、今は何かジャンルを決めて聴くことはあまりなく、運転中に流しているラジオやどこかで出会って心に残ったものを探して聴いていることが多いですね。聴いているうちに自分の思考にエネルギーがシフトすることが多く、もしかしたら「聴く」ということをやっていないかもと今なんとなく思いました。
ーーーバスケ観戦に、筋トレ。アクティブな生活ですね!音楽も心に残ったものを聴く。人と仕事の専門家らしいスタンスを感じました。この対談は、その人の趣味趣向やライフスタイルに合わせて、プリンスの楽曲を3つ選んで聴いていただく、という実験企画なのですが、山本さんは「プリンス」にどのようなイメージがありますか?率直なところを教えてください。
山本:ありがとうございます。アクティブと言えばアクティブかもしれませんが、自分がやることとやらないことは結構明確に分かれているのでピンポイントでアクティブなのかもしれないですね。そして、プリンスのイメージですね。ほんとに率直に言っていいでしょうか・・・?プリンスを愛していらっしゃる方との会話の中ですから憚られますが、お名前自体は知っていましたがまさに「誰それ?」状態です。ステキな企画にお声かけいただいたので、気の利いたコメントをしたいと思って情報収集しようと思ってググってみました。まず最初に見つけたWikipediaの記事を読もうと思いましたが・・・・・情報量の多さか何なのか分かりませんが全く頭に入ってきませんでした(汗)今のところはこんな状態です。
ーーー逆にありがたいんです、「誰それ?状態」というのは現実そうですし、この企画自体、その現状認識からスタートしています。世界最大の音楽授賞式、グラミー賞のスタッフが主導で、グラミーの直後にプリンスを祝うトリビュートコンサートが2020年1月末に開催されたんです。アッシャー、アリシア・キーズ、ジョン・レジェンド、コールドプレイのクリス・マーティン、フー・ファイターズ、H.E.R.、ベック、といった当代きってのミュージシャンたちが出演して全曲プリンスを演奏したんですが、これがCBCで放送されて、新型コロナ以前の最大の音楽イベントとして、アメリカでは早くも再放送が決まったくらいなんです。
山本:なるほど、海外では盛り上がっている!
ーーーそうなんです。欧米の盛り上がりに比して、日本では悲しいくらいに知られていなくて・・・。山本さんが仰る「全く頭に入ってこない」ってのも、実は当然のことなんです。僕らリアルタイム世代が何十年もかけて聴いてきたから、歴史や概要がわかるだけで。ですから、無理やり例えるならば、メニューが300種類ぐらいある何でもありのレストランに入ったようなもので。ですから、今まで彼の作品と接点がなかった皆さんと、こうして対話できる機会を心からありがたく思っているんです。
山本:そういえばWikipediaでもたくさんのアルバム名が並んでいました。何を基準に読んでいいのか分からず断念したのかもしれません。メニューが300種類のレストランと聞くと、一気に見え方が変わってきました。選ぶのが楽しそうでワクワクしますね。
そして「誰それ?状態」の現状認識からスタートされているというのは、共感するところがあります。私は9年前から研修にケースメソッドという教育手法を取り入れているのですが、それこそ当初は私の周りや関わっているクライアント先では「何それ?状態」からスタートしてようやく少しずつ浸透してきたところなんです。カレーを食べたことない人にカレーの味とおいしさを説明する難しさとでも言いましょうか。「とにかく一度食べてみて!」と勧めてきたことを思い出しました。
ーーー曲紹介が始まる前の、この対話がすでにめちゃくちゃ面白いです。よくよく考えてみれば、「王室に生まれた」とか、「超有名人の家に生まれた」とかを除いてほとんどの人や活動は「誰それ?」からスタートするわけでして。山本さんの実体験のごとく、「少しづつ」に挑んでみたいと思います。ではさっそく1曲目を選んでみたいのですが、こんなタイプの曲がいいとか、ジャンルだとか、今のフィーリングだとか、どんなことでも構いません。ご希望をいただければと思います。
山本:記念すべきプリンスとの出会いの1曲をどうしましょうか・・・。あ!そうだ。実は今、ジョギング中に聴く曲を探していたところでした。3月からジムが休館になってしまい、自宅でトレーニングを続けているんです。筋トレはYouTubeの動画を見てやっているのですが、有酸素運動をどうしたものかと思いジョギングを始めました。走るの興味なかったのですが、始めると楽しくなってきたところなんです。ほとんど人がいない田舎道をひとりで走るパートナーになりそうな曲があったら教えてください。
ーーー具体的な情景まで教えてくださりありがとうございます。では、ジョギング用としてこちらを選んでみました。Stevie NicksのStand Backです。
山本:ご紹介ありがとうございます。それでは、これをBGMに後でちょいと行ってまいります!
(約2時間が経過してからの返信)
ゼェーハーゼェーハー。人体実験から戻ってまいりました。6キロ走りながら9回目の途中まで聴きました。記憶が新鮮なうちに実験中に感じたことをつらつらと書き記しておきます。今から走り出すぞ^というところでイントロが流れだして「おおっ!これはテンション上がってきた!」と軽快に走り出しました。そしたらパンチの利いた低音の歌声が響きだしてさらに力が湧いてきました。テンポよく走りながら、音楽と自分の思考を行ったり来たりしていて、まさにジョギングにあった曲。走りながら感じたのは、いつもより身体の軸がしっかりしていたことです。疲れると前傾姿勢になってくるのですが、今日はブレないというか。頭のてっぺんからまっすぐ軸が通っている感じがしました。
気持ちよく走りながら、また曲に意識が戻って聴いていたら、力強いだけだと思ったら♪Stand back Stand back ♪のあたりになぜか繊細でちょっと弱いというか儚げな感じがしてきて、それでも腹が据わった感じは根底に流れたまま。不思議で強くて優しい印象を持ちました。ちなみに!6キロの自己ベストタイム更新できました。
―――うわぁ、ちょっと驚いています!初めてご紹介させていただくStand BackをBGMに自ら人体実験してくださったこと。それから、曲が走る感覚にどのような影響を及ぼしたか、内的な変化を含めて記してくださったことに!Stand Backは世界中で今も聴かれ続けている曲ですが・・・ジョギングとリンクしての記述は、おそらく「初」だと思います!
山本:よかったぁ!
―――この曲は、ちょっと独特の過程で、完成していまして。フリートウッド・マックという歴史的なスーパーバンドがあるんですが、そのキーパーソンのひとりであるスティーヴィー・ニックスがあるときプリンスの曲、「リトル・レッド・コルベット」をラジオかなんかで聴いたらしいのです。気に入ったニックスは、リトル・レッド・コルベットをベースにしてこのStand Backを書き、プリンスに連絡をしました。
「あなたの曲にインスパイアされた曲を書いたの、もしよかったら協力して」みたいなことを言ったら、プリンスはすぐにスタジオを訪ねたそうなんです。そこでキーボードを演奏して、曲の完成をアシストした。結果、この曲は全米5位を記録、ニックスのソロの代表曲のひとつになったんです。
元歌となったリトル・レッド・コルベットは、プリンス初のトップ10入りヒットにして、MTVで初めて流れたブラック・ミュージシャンの曲でもあります。いわゆる人種の壁を超越した曲が、プリンスに影響を与えた側の先輩、ニックスにもリーチして影響の恩返しを果たした。白人社会の一般層の「プリンス?誰それ?」を「プリンス!」にした曲に閃きを得て共作された曲として、Stand Backをご紹介させていただいた、というわけです。
山本:「あなたの曲にインスパイアされた曲を書いたの、もしよかったら協力して」この言葉、一体何でしょうか。心の奥から何かぶわーっと溢れてきました。今の私にとてもタイムリーな言葉かもしれません。今まで16年、フリーランスでやってきました。もちろん、これまでもいろんな人との関わりで仕事をしてきましたが、今これと似たような感覚で共感とか刺激とかを通して人とつながって何かを始めていくことがとても多いんです。つい最近知り合った人、しかも直接会ったことなくオンラインでつながった人と何かを始めていく。それも、互いにとってとても大切なものを扱って、シェアしあって、新しいものを構築していくことが増えています。
あ、リトル・レッド・コルベットも探して見てみました!これめっちゃかっこいいですね!!!!「プリンスさまはじめまして」なんですが、セクシーだなあというのが第一印象。動きに見とれてしまいました。お顔立ちも美しくて、目が離せない感じです。
―――おおお、動くプリンスもご覧くださったのですね!山本さんの「共感とか刺激で人とつながって何かを始める」って素晴らしいですね。プリンス自身がフリートウッド・マックの大ファンで、メロディアスで親しみやすい音楽性はもちろん、男女混合編成のバンド形態なども大いに影響を受けているんです。
だから、スティーヴィー・ニックスに電話をもらったプリンスは、めちゃくちゃ嬉しかったんじゃないですかね?2人の感情の高まりみたいなものも、音に反映してるような気がしますし、「新しいものを構築する」際の山本さんのマナーにも大いにリンクしてような気がします。
山本:わー、ご自身がリスペクトしている方から「協力して」と言われるって、魂込めて仕事や表現をしていたらそんなうれしいことはないでしょうね。まさに今、こちらのオファーいただいたときの私がそれです。影響を受けた相手からのオファーは「自分が役に立てることがあるかも!」と思えて、その場に立ったら「これからどんなことが起こるんだろう」と最高にワクワクしますよね。そういうご縁で「新しいものを構築する」ときって、その場がひとつの脳になっていてそこで互いの大切なもの、つまり価値観の一部が混ざり合って化学反応を起こしていくような感じがします。
この曲もまさにそんなエネルギーがあふれてるんですよね、きっと。そう思って改めて聴くと感慨深いです。それぞれ、自分ひとりでは表現できなかったものが、セッションによってその場で互いに影響を及ぼし合って「新しいものを構築していく」パワーを感じます。表現や創造の喜びってこういうことなんだろうなあ。
ーーーとても興味深いところですね。やはりプリンスがプリンスとして結果を出した。それが作品を通じて、つまり作品がブリッジとなって、スティーヴィー・ニックスに届いた。そこで新たな楽曲が生まれた。ニックスは、お礼としてロイヤリティーの50%と共作者としてのクレジットをプリンスに申し入れたそうなんです。プリンスは「いらない」と断ったらしいのですが、最終的にはレーベルやビジネス面での調整もあったのかな、その条件で合意となったそうです。
山本:そんなやりとりがあったんですね。自分がまっすぐ世の中に送り出したものを誰かが受け取って反応する。そこからつながりが生まれ、互いに影響を及ぼし合いながら新しいものが生まれていく。今、私自身がこの場で貴重な体験をしていますが、きっとこういうスパーク的なものは今このときも世界のいたるところで無数に起こっているんでしょうね。なんだかとても幸せな気持ちになりました。
ーーーこちらもです。このスパークが読んでくださる皆さんに伝わっていくといいなと思います!では2曲目に参りたいと思います。ご希望をお知らせください。
山本:ありがとうございます。2曲目・・・・・そうですね、では「闘う男」を感じられるような曲があればぜひお願いします!
ーーーでは、Love Signをご紹介します。映像と共にご覧いただければ!
山本:ありがとうございます!2曲目の Love Sign 聴きました。こ。これは。。。ちょっと驚きました。「闘う男」というリクエストで、ハードなのが来ると思いきや軽快なリズムで始まって、曲とともに映像を追っていたら最後にズキュン♡と堕ちてしまいました(笑)
そもそも「闘う男」をリクエストしたのは、先にも話しましたが私はバスケットボール観戦(Bリーグ)が好きなんです。シーズンで50試合近く、片道何時間もかけて全国各地の会場に大好きな選手を追いかけて応援しに行く生活を5年ほど続けています。今シーズンは2月末からコロナの影響で試合が中止になってしまって「闘う男」に飢えていて、それを埋めたくてリクエストしたのでした。
私はバスケを観に行くと、ボールではなくゴール下のセンターやフォワードの選手たちのゴリゴリのポジション争いにばかり目が行ってしまうんです。2メートルぐらいの大きな男たちの熱い闘い。そのゴリゴリを感じたかったので、正直これは斜め上・・・というより斜め後ろぐらいから来た感じでした
でも何度か見返すうちに、暗殺者(?)の女性にどんどん意識が向いていきました。彼女と彼の闘いを描いた映像ですが、彼女は最初に依頼人からのオファーがあった時点ですでに戸惑いがあったのか。プリンスのもとに向かう道中にも心の揺れが垣間見られて、椅子の背に銃を向けたときも手がブレている。ここ、とても興味深かったです。それと、銃をチケットに替える会場に向かったところ。赤いレザースーツを脱いでいたところ、そしてアタッシュケースの中のスポンジのくぼみがなくなっていたところがとても印象的でした。
ーーーおおお、面白いですね。プリンス、実は高校の時バスケ部で。身長158cmでアメリカでは相当小柄なんですが、動きが相当速かったらしいです。ステージのバスケのゴールを設置してライブ中にシュートしたり、NBAも観戦にいったり、彼のスタジオにもバスケゴールが設置してあったから、相当なバスケフリークです。なので、山本さんとここでもリンケージがありますね!
山本:なんと!プリンスはバスケ部だったのですか!!!ここにきて一気に親近感(笑)先ほどの「プリンスさまはじめまして」で出会ったリトル・レッド・コルベットの動画を観たときに、その動きの素早さとしなやかさに目を奪われました。小柄であの俊敏な動き,からすると、きっとポイントガードでしょうね。プレイがなんとなくイメージできます。闘う男を感じる曲で、何でこの曲を選んでいただいたのか?興味津々です。
―――プリンスは1978年にワーナーブラザーズと契約してキャリアを進めてきたんですが、1993年頃に拳銃反対のチャリティーをやろうとするんです。チャリティーソングをリリースして、その収益を拳銃撲滅運動に役立てる、というものだったのですが、所属のレコード会社からこのアイディアを潰されるんです。「チャートで1位をとることより、重要なことなんだ」と彼は訴えたんですが、銃社会のアメリカで銃反対の活動をやるというのは、いろんな意味で困難だったということでしょう。そこでプリンスは、この曲の入ったアルバムを自分の独立レーベルからリリースします。
山本:拳銃反対の歌だったんですね!ポップな感じなのに。
ーーー曲調としては、親しみやすい感じはあるんですが、思いっ切り銃社会に対してNOを突きつけ、これ以降、レコード会社の言いなりにならずに独自の表現と流通ルートを開拓していくという意味で、プリンス流の静かな闘志が宿った作品でもあるんです。
山本:なるほど、静かな闘志!
―――山本さんが注目された、女性。彼女は、ノーナ・ゲイといって、銃で射殺されたソウルシンガー、マーヴィン・ゲイの実の娘さんなんです。この映像では、「ノーナが闇組織の指令でDJプリンスを暗殺しに行く。でもプリンスは、拳銃のサインを人ではなくて、天に向けたら「L」、Love Signだろ?と訴える。ノーナは銃を燃やしてコンサートチケットを手にする道を選んだ。」というストーリーになっています。
しかも、この映像の監督は、アイス・キューブという西海岸を代表する元ギャングスタ・ラッパーで、アイス・キューブもまた、暴力的な路線からの脱却をはかってクリーンな活動に変化している時期の作品なんです。
「オレは闘う、でも怒りに任せては闘わない。みんなに届く親しみやすい楽曲と共に必要なメッセージを届ける」、そんな態度が曲と映像になっていると思ったので、Love Signを選ばせていただきました。
山本:おおおおっ!なんと!まさに斜め後ろからのノールックパスに痺れています。そしてこのLove Signのエピソード。拳銃のサインの方向を変えることで「L」…Love Signに変わること。怒りに任せては闘わない。みんなに届く親しみやすい楽曲と共に必要なメッセージを届ける。というところ、とても響きました。これはタイトル通り「愛」のうたですね。
愛も怒りもそうしようと思って出てくるものではなく、どちらも衝動的なものだと思います。その湧いてきた衝動に突き動かされてアウトプットとしての行動があって。でも、その根底が愛なのか怒りなのかによって形はずいぶん変わるなあと感じました。闘いという場においてもまさにそれは同じだなあと感じました。ゴール地点が全然違うように思います。
―――なるほど、根底の違いで、ゴールが違う。
山本:プリンスにとって、どうしても守りたい、実現したい・・・それまで積み上げてきたものよりも大切なものがあると確認しての決断。どんな気持ちだったんでしょうね。プリンスでも、これからどうなっていくか未知への不安があったんでしょうか。でも、自分で決めて選んで進むというところで清々しく誇らしい気持ちになったのではないかなあと想像します。
ここまでのスケールではないですが、自身の転機をふりかえっても「自分が守るべきものと手放すもの」を問いかけて決断したときに重ねてそう思うのかもしれないですね。闘うというのは、ある意味自分の内側の何かと向かい合うことなのかもしれないと感じました。
―――深い洞察をありがとうございます。彼の葛藤を含めたそのあたりの部分は、アーティストとして重要な部分だと思ってまして。プリンスが特徴的なのは、「ヒット」に対する考え方なんです。
山本:ヒットに対する考え方?
―――そうです。彼は、このLove Signのように、音楽が人々に寄り添ったり、世の中を良いほうに前進させることが真の目的だったんですが、それを成し遂げるにはやっぱりヒットを出して、影響力を持たなければならない。だからヒットはゴールじゃなく、「やりたいことをやるために必要なこと」だったようです。そんな価値観がデビューから2年目くらいの時にすでにあったんですね。
山本:それは凄いですね。
ーーーブランド名であり、本名であった「プリンス」の名前も捨てる。レコード会社副社長の地位も捨てる。大物歌手との共演も断る。山本さんがおっしゃるように「清々しさ」が漂うくらい、固執しないんですよね。なんていうんでしょう、おそらく葛藤や悩みを抱えつつも、やはり「畏れない、囚われない自分」を見せる、それがオレだ、みたいな自意識があったんじゃないかな、と思います。
山本:畏れない、囚われない自分。
―――あともう一つ重要なのは、楽曲、メッセージが共にアファメーションになっていること。未知の不安の中で、「オレはこうする」を作品の中で先に形にして、自分をその方向に導く、といったところがありますね。Love Signでも、こういう音楽と映像を遺すことで、自分の音楽は暴力や争いではなく、愛を表現する、みたいな。宣言であり、航海図のような。
山本:おおっ。フィットする言葉が見つからずにありふれた表現になってしまいますが、深く感動しています。「ヒット」が目的ではなく、自分が発信したいメッセージを広く伝え、世界にアプローチする手段だとはっきり認識していたからの選択。葛藤や悩み、不安と向かい合いながらも、敢えてポップな感じで愛を表現していくところに痺れます。ああ、それらの感情があるからこそのアファーメーションなんでしょうね。自分を変えていく、進化させることが世界の変化、進化につながっているという確信でしょうか。「世の中を良いほうに前進させること」が真の目的とありますが、プリンスが考える「良いほう」というのは一体どういった世界だったのか興味深いです。
ーーー「自分を変えていく、進化させることが世界の変化、進化につながっているという確信」という山本さんの言葉、そのものだと思います。彼の表現の特徴として、答えを投げずに問いを投げかけ、彼なりの答えは自身の表現や態度で示した。この対話から、そんな彼らしさの輪郭がハッキリしてきたように感じています!
さて、いよいよ最終曲の3曲目に参りたいと思います。心拍数上げるStand Back、ポップにファンキーに”L”で戦うLove Signと来ました。次はいかがいたしましょう?
山本:そうですね。では「癒し」をテーマに1曲お願いできますでしょうか?今のところ毎日元気に今自分が出来ること、そして未来に向けての種まきをしている日々ですが、大変化の波を乗りこなそうと力が入りすぎているなあと感じることがあります。そんなときのおススメがあればお願いします。
ーーーでは、こちらはいかがでしょうか?Venus De MIloです。
山本:これもプリンスの曲なんですか?最初に300ものメニューがあるレストランという表現をされていましたが、今まで聴いたものとはかなり雰囲気が違って驚きました。メロディがとても美しくて、何度も何度も聴いてしまいました。実はこれも人体実験をしてみまして・・・。
―――おおお、またもや!ありがとうございます。
山本:「癒し」をテーマにお願いしたので、夜寝る前に聴く曲だわと勝手に思い、部屋の明かりを消してベッドに入って準備万端の体制で初めて聴きました。低音で始まり「おおっ!これは心の奥にフォーカスしてくるのか?」と思いきや、軽やかなメロディが流れ出しその美しさが心地よく、いつ歌が始まるのかな?と思っていたら気がついたら終わっていた・・・というのが初回の感想です。
で、何回か繰り返し聴いているうちに、広い草原でやさしい風に吹かれているような気持ちになってきて光のイメージが湧いてきて「朝に聴きたい!」と思いました。今朝、起きてさっそく聴いてみました。窓を開けて朝の柔らかい光とこの曲を浴びながら、ルーティンのストレッチをするととても心地よかったです。そして、最後のピアノの音で「さあ、整ったからいってらっしゃい」と送り出された感じがして、初めての朝ラン&ウォーキングに行ってきました。
ーーー素敵な実験と詳細なレポートに感謝します。僕も「癒し」のテーマで、いろんなシチュエーションを自分なりに想定してみたのですが、今は2020年の5月の最初の日。緊急事態宣言の延長、増大する社会不安、解雇や倒産のニュース、ネット上を飛び交う非難と罵声・・・こういうシチュエーションにおける「癒し」って何だろう?って僕なりに考えたんです。ノイズに対してノイズを返しては、不安は増強されるばかり・・・そんな中でノイズから心を脳を守るには「静けさ」つまりサイレントが必要なんじゃないか?と考えました。このミロのヴィーナスの音の細部までしっかり聴こうと思ったら、まず「静かな環境」に身を置く必要がありますよね?
山本:ああ、たしかにそうですね。私も静かな環境で聴きました。
―――さらに「言葉」もある意味、癒しの邪魔になることも想定されます。例えばですが、大切な男性がコロナで苦しんでいる時に、「A Man」という歌詞で「想起させてしまう」可能性があります。そういうことが無いように、「静かな環境で、静かなる音をキャッチして、自由なイメージに逃避する」つまり、レスキューとしての音楽として選んでみたんです。
ですから、山本さんが心地よい朝を迎えるためのマインドセットとして届いたのであれば、もう最高に嬉しいですね。プリンスはおそらく、メジャーなスターとしてはおそらく、ボーカルなしの楽曲をリリースした数はナンバーワンだと思います。アルバム単位でも変名含めて5枚は出していますし、通常のアルバムやシングルのB面、サイドプロジェクト等の中にスッと差し込むこともあって。ですので、もしこの曲が言葉の無い音楽体験のひとつになれば嬉しいです。
山本:ありがとうございます。「癒し」について考えを巡らせてこの曲にたどり着かれたプロセスを知って、なんだかじーんとしています。私たちは日々、言葉を使って考えて、言葉を使って他者とコミュニケーションを図っています。だから、言葉が与える影響ってものすごく大きいですよね。特に今はオンラインでのコミュニケーションが日々の大多数を占めていて、いつも以上に多くの言葉が飛び交っているように思います。会えば非言語で伝わる部分もSNSでは言葉のみの情報となっていて、限られたところからたくさんキャッチしようとしているのかもしれません。その分いつも以上に言葉に対して敏感になっているなあとあらためて感じました。
だからでしょうね。この曲を何度も聴いていくうちになんだかとても「豊かな時間を過ごしているなあ」と感じていたんです。「余白」のありがたみとでも言いましょうか。実は朝のジョギングでもひとつ変化がありました。いつもは途中でつらくなっても最後まで走ることを自分に課していて、歩いたら負けという暗黙の掟(笑)みたいなものが自分にあったんですが、あえて「歩く」という選択をしてみたんです。つらいから歩くのではなく、あえて「歩いてみよう」と。そしたら、走っているときには気づかなかった優しい風やお花の香りに気づいて、さらに聴いていた音楽を止めてイヤホンも外したら鳥のさえずりも聞こえてきて・・・気づいたらふんわり笑顔になっている自分がいました。走っているときの表情とはかなり違っていたでしょうね。「ない」ことによって気づかなかった「ある」を得られたような気がします。
ーーー「豊かな時間」素晴らしいですね。いま、音楽の聴かれ方もレコードやCDの時代にくらべて、1曲単位になってしまっているというか、いわゆる即効性のある曲はどんどん聴かれるけれど、この曲のように音楽に向き合って情景が浮かんでくるような曲は、ネットの大海の中で聴かれづらくなっているような気がするんです。アルバムの中で「主役となるヒット曲」ではないのですが、でもそういう曲にもちゃんと意味があって。山本さんがランニングに集中されていた時には気が付かなかった「ある」にも通じるような楽曲かも知れない、といま改めて感じています。ここまで、山本さんにはお忙しい中、3曲のリスニングにお付き合いいただきました。初プリンス体験、全体を通じていかがでしたか?率直なご感想をお知らせいただければ幸いです。
山本:丁寧に対話を深めながら新しい世界を知るという非常に興味深い体験でした。初めにプリンスの印象を聞かれたときにWikipedia見に行ったけど全然頭に入らなかったとお話したと思うんですが、今の私はどうなっているんだろうと改めてページに飛んでみました。最初に見たときはただの大量の文字列だったのが、今読んでみると少しずつ言葉が入ってきます。ああ「唯一無二のスタイル」ってああいう感じなのかとか「ワーナーとの確執」・・・Love Signで聴いたお話だなあとか、モノクロの世界が少しずつ彩られていくような感じがしました。今回、プリンスを知って、曲に込められた想いや背景、根底にあるプリンスの愛を知ってからご紹介された3曲を聴くとあらためて沁みますし、もっともっとプリンスの世界に触れて、自分で感じ取りたいと思いました。
―――ありがとうございます。
山本:そして、もうひとつ。「世界はつながっているんだなあ」と実感しました。プリンスも誰か・・・ここではスティーヴィー・ニックスでしたが他にもたくさんの人々と影響を与え合い、世界の出来事を感じて想いを込めて曲を世に出す。それを多くの人が聴いていて、今回、こうやって私にも紹介してくださいました。お互いに新たな気づきがあって、それぞれがつながっている人たちにまた何らかの形で広がっていく…そんな連鎖を感じました。連鎖の根底には「世の中をよりよくしたい」そして「自分自身をよりよくしたい」これがあるからこそつながっていくのかなと、そんなことを感じています。
ーーーあああ、それは嬉しいです。録音された音楽や記録された映像は「変わらない」はずなのに、こちらの知識、経験、機会、関係などによって、「違って聴こえる」「違って見える」ってことはあるじゃないですか。彼はそういった「気づくトリガー」をたくさんしかけて「積極的に感じとる能力」であったり「偏見に惑わされない能力」であったりを引き出そうとした人なんだな、と思います。
そして山本さんおっしゃる通り、世界が拡大していく醍醐味みたいなものを感じます。なぜ僕がいま、山本さんとご縁があるのか?というと、僕のツイッターや記事を読んでくださり、それに対してnoteで感想を記してくださったことがきっかけなんですよね。直接的な会話ではなかったけど、お互いの作品や発信で、会話したようなところがあったと思うんです。それまで全く別の世界に生きていたのに、SNSを媒介としてご縁ができて、プリンスの芸術によってさらにご縁がワンステージ上がっていく。そんな貴重な経験をさせていただいています。山本さんの実験精神であったり、ホワイトボードですぐに形にしてくださったり、そういう人としての姿勢からも学びがあって。感謝しています。
山本:「気づくトリガー」をたくさんしかけて というフレーズ、めちゃくちゃいいですね。昨日、講師や先生など教える立場の人向けのオンラインワークショップを開催したのですが、そこでも「教えないで教える」というテーマでディスカッションをしたところでした。発信側ってついつい相手の肩を揺さぶって「これ大事!」と伝えたくなってしまうんですが、それをやっちゃうと逆に相手に届かないというか。伝えた相手が当事者として自ら手に取ることで、そこに意味が生まれて変化や成長につながっていくんですよね。仕掛ける側としては、相手を信じて待てるかどうか。そこが大きいように思います。相手を信じるというのは、相手を信じる自分を信じるということでもあって・・・なんだか言葉遊びみたいになっちゃいましたが、その姿勢を貫き通しているプリンスにますます興味が湧いてきました。師匠と呼びたいです!
そして、なんとなんと!noteにほぼ日での糸井重里さんと二重作拓也さんの対談の感想を備忘録がわりに自分が感じたこと書き残しておこうとひっそりと記事をアップしていたのですが、まさかご本人に届いていたなんて思いもしませんでした!それが「今」につながっていることに衝撃を受けております。あの対談を読んで「おもしろい!」と思ったこと、読んで感じたことを書き残しておこうと軽い気持ちで蒔いた種が忘れたころに思ってもみない形で芽を出していたという・・・「人生って、ご縁っておもしろすぎる!!!」と震えています(笑)
表現する・伝える・行動するということは自分と世界をつなげ、自分も世界も広げて深めていくための大事なアクションだなあとあらためて感じました。こちらこそ、身体を通して気づき学び、対話を通してさらに気づき学ぶ機会に深く感謝しています。
ーーー対談を読んでくださり、ありがとうございます。僕もあの時、糸井さんにいろんな角度から引き出していただき、気づかせていただいたんです。なんか昔、近所の憧れのお兄ちゃんが優しくキャッチボールの相手をしてくれたような。このプリンスの3曲もそうですが、彼が全く違うタイプの楽曲をつくったのも、人間の多様性にアクセスするためだったんじゃないかな?と思います。大切なことを、いろんな形で、優しい変化球も交えながら、受け取りやすいように。ですから、ほぼ日の対談、そしてプリンスの音楽を通じて、山本さんとも素敵なキャッチボールができたような気がして、非常に楽しかったです。これからのご活躍も、応援しています。どうもありがとうございました!
山本:私もとても楽しくエキサイティングな対話の時間を満喫させていただきました!2020年の今だからこそのゴールデンウィークならぬパープルウイーク、最高でした!どうもありがとうございました。これを機にプリンスをもっと聴いてみようと思っています!これからもおすすめなどをぜひ教えてください!
―――わかりました、紫大学のいたるところにそっとトリガーをおいておきますね!
プリンス 7 つの質問 14 愛里.A.Sugawara
1.あなた自身を紹介してください。
愛里.A.Sugawaraです。天然石ビーズを用いて、その方のエネルギーを表す『世界でたったひとつのブレスレット』を作っています。そのブレスから浮かぶ言霊(メッセージ)を書いています。
プリンスの楽曲を聴いて、そこから浮かぶ世界を詩やストーリーとして文章におこす『プリンス曲妄想文』、占星術の観点から、プリンスをいう人物を探ってみる『ホロスコープから見るプリンス』も書いています。ハーブのブレンドを日常的に楽しんだり、読書と映画鑑賞も、昔からかなり好きです。
2. あなたはどうやってプリンスファムになったのですか?
高校時の親友が、テープに録音した『Purple Rain』を貸してくれたのがきっかけです。
その時、はじめて聴いたはずが、『Let’s Go Crazy』や『When Doves Cry』は聞き覚えがあって。ヒットしていた当時、TV等から流れてきていたのを聴いて覚えていたようです。
その直後、TV放映の『ヌードツアー』で、髪を風に靡かせ、ステージの端から端まで駆け回りながら、歌い踊るプリンスを観て、完全にはまりました。小柄な体躯から放たれるエネルギッシュさ。どこか両性具有的にも感じられるセクシャルな魅力。もちろん、録画したテープが擦り切れるまで繰り返し観ました。
3 .あなたの最も記憶に残る「紫の経験」は何ですか?
私の中学時代、両親が不仲になり、母親から、父親に対する諸々のこと、私の祖父母との話も聞かされていたのもあって、ただでさえ難しい思春期の頃、相当複雑な気持ちを抱えていました。そして、とうとう高校入学の直前に離婚しました。
プリンスに出逢い、好きになったのは、この直後でした。プリンスを好きになって、過去作品を遡って聴いていると、例えば、『Something In The Water (Does Not Compute) 』のあの叫び声を聴いて、「どうにも叫ばずにはいられない人が、ここにもいる…」と、(勝手に)シンパシーを抱きました。そして、その胸の内のどうしようもない感情こそが、楽曲を生み出すエネルギーに変換されているようにも感じられました。
プリンスの半自伝的のように謳われていた、映画『Purple Rain』もビデオで観ました。やはり、近いものを感じずにはいられませんでした。それは、実際に起きていたこと、というより、自分の中で感じていたことに対してです。両親はその後、それぞれ再婚し、高校3年の始業式の翌日、私の父は自殺未遂をしました。
月日は流れ、20代半ば頃。久々に映画『Purple Rain』を観た時、【父親の自殺未遂と取り乱すプリンスの姿】に、ものすごい強烈な衝撃を受けてしまいました。人間は、あまりにも辛い出来事があると、忘れることで心を守るというようなことを言われますが、まさしく、それでした。本気で、すっかり記憶から抜け落ちていました。映画を観て、【追体験】をした時の方が、ショックが大きかったのも、また興味深いものでした。当時は、まともにショックを受けないように心をガード・プロテクトしていたのでしょう。私の感覚では、心を凍てつかせていた。感じないように、麻痺させていた。家庭内で次々起きる辛い出来事に傷つかないように。そんな心を麻痺させていた状態でも、プリンスの音楽には感じ入るものがありました。喜びであったのは確かだし、生きていられたのも、プリンスの音楽があったからだと思います。
しかし、その後、歳を重ねるにつれ、「プリンスに【依存】しているのでは…?」と感じるようになりました。震災以前の、とある出来事をきっかけに、周りで起きていること云々ではなく、もっと、【私】にフォーカスしはじめてから、プリンスの楽曲から離れるようになっていました。何故か、手が伸びなかった。聴く気が起きなかった。もちろん、新譜も買いませんでした。とにかく食指が動かなかった。全く聴かない状態が3年くらい続いていて、ある時、「プリンスから離れよう」と思い、最も素敵だと感じるジャケットのCD1枚を残して、全て断捨離しました。2015年のことです。
その直後に参加したイベントで大音量で聴いたプリンスの楽曲は、ただただ、とんでもなく格好よく感じて、「プリンス大好き~!!」と、プリンスに対する新たなる純粋な気持ちが、自分の中に湧いてくるのを感じました。以前の【依存】的感情とは別物になったと思います。
そして迎えた、2016年4月。断捨離した頃から、「この日が近い」ともしかしたら、感じていたのかも・・・とも思いました。その前に、私の中で、一旦、けじめをつけておく必要があったのかと。なので、ものすごく単純に彼を想うことが出来ました。泣き暮らすのではなくて、「プリンスの残してくれた楽曲で、楽しんでいく」と。これは、決意であり、私なりのプリンスに対する感謝の表し方でもあります。そして、それは、私自身の人生に対しても、前を向いていく気持ちをもたらしてくれています。プリンスという人、プリンスの楽曲と共に、私という人間の心情的な変化は起きてきました。これが、私の紫な経験。紫な人生です。
4. あなたのトップ3のソウル・ソング(重要曲)は何ですか? なぜあなたはそれらの曲を選んだのですか?
『Love… Thy Will Be Done 』
マルティカのアルバムで聴いた時から、何故か、とてもとても大好きな曲です。理由はわかりません。とにかく、心が震える…としか。強いて言えば、神聖なる大いなる存在に見守られているような安心感…。プリンスが目の前で1曲歌ってくれるとしたら、迷うことなく、この曲をリクエストします。
『Until U’re In My Arms Again』
プリンスの曲の中で、一番、壮大な宇宙を感じる曲です。元はただの魂(ソウル)である私たちが人間となって、この地球に降り立ち、再び出逢えることの奇跡。その喜びを、その美しさを、存分に感じさせてくれる曲です。
『Te Amo Corazón』
最初、聴いた時は、歌謡曲的な雰囲気にだいぶ驚きました。前述した『プリンス曲妄想文』を書きだしたきっかけとなった曲です。何故、この曲だったのか?何故、そんなものを書こうと思ったのか?もう全く覚えていないのですが、これを書くことも、私の心や私自身が解放されていくことのひとつともなっています。そういう意味でも、私にしあわせをもたらしてくれた曲です。
5. 素晴らしいアーティスト/ミュージシャンをプリンスが私たちに紹介しました。あなたのお気に入りは誰ですか?
シーラEです。よくぞ、あの才能を見抜き、フロントウーマンとして世に出るよう促してくれたものだと思います。もちろん、以前から彼女の素晴らしさは明らかなのですが、(これは、プリンスと共演を果たした全ての人に当てはまることなのですが、プリンスのステージにおいては、それらがあたかも当然のように感じられてしまいます)。
改めて、シーラの凄さを思い知らされたのは、2016年のBET Awardsのトリビュートでした。それは、まるで、プリンスのステージで。数えきれないほどプリンスと共にステージに上がり、(リハーサル等を含めればもっと)プリンスのサウンドを熟知…というか、完全に血肉となっていて、歌っていても、演奏していても、ダンスをしていても、そのステージ全体に、「プリンスの【血】が流れている」としか感じられませんでした。あんなにもプリンスを感じさせるステージになったのは、シーラだからこそ、だと思います。
生前からのふたりの絆。プリンス亡き後も、シーラのプリンスへの、尽きることない永遠の愛を感じずにはいられません。
6. プリンスの音楽は人生の教訓とメッセージでいっぱいでした。プリンスがあなたに与えた最も重要なものは何ですか?
『Starfish And Coffee』の
If u set your mind free, baby
Maybe you’d understand
この歌詞です。
人間の思考は、制限や決めつけでいっぱいです。だからこそ、その狭い視野からではなく、常にマインドを自由に泳がせるようにして、もっと想像力を働らかせて、相手や状況を把握し、理解しようとすること。生きていく上で、大切なことだと思っています。
7. 次世代にプリンスを紹介する方法は?
2019年のことですが。『4ever in my Life』という「プリンス・ラブ・プロジェクト」を一人で勝手に立ち上げました。どんなに待っていても、新譜が出ることも、ライブが開催されることも、残念ながら、無い。だとしたら、プリンスで楽しむ機会を自主的に作るしかない。活動内容としては、『プリンスが残してくれた楽曲で楽しむこと』なのですが、そこから派生して、『プリンス・ラブな活動をしている人たちを応援する』等も含まれます.。肝心な、後世に伝える方法としては、大の大人たちが、揃いも揃って、いつまでもプリンスプリンスプリンスプリンスと大騒ぎして楽しんでいる姿を見せることでしょうか? 「何がそんなにいいの?」と思わせることが出来れば、後は、プリンスの素晴らしさに、格好よさに、気付いてしまうのは時間の問題かと思われます。
食わず嫌い王子 05 金城 有紀/コミュニティーナース
食わず嫌い王子 ~あなたの殿下がここにいる!かも?~
ヨーロッパやアメリカでは「現代のモーツァルト」として高く評価されリスペクトされる一方、日本の一般層には「プリンス?誰それ?」状態。そんな時代に、究極のお節介企画、『食わす嫌い王子』。プリンスをあまり聴いていない方、存在自体知らない若い世代に、「殿下の音楽は届くのか?」実験的インタビューをここにお届けします。
05 金城 有紀さん/コミュニティーナース
ゆきまる🏝OKINAWA☀️ (@SHUMMEISM) | Twitter
ーーーこんにちは、紫大学です。企画へのご参加、ありがとうございます。まずは金城有紀さんの自己紹介をお願いします。
金城:わー、こんにちはー!ドキドキです。はい、私、「ゆきまる」こと金城有紀(きんじょうゆき)と申します。沖縄に生まれ、沖縄に愛し愛されたピチピチの34歳。愛しい愛しい8歳の息子とふたり、今現在も沖縄で仲良く暮らしております。職業は「病棟にいないナース」コミュニティナースとして地域をうろうろしています。
ーーーありがとうございます。お母さまとしてしっかりお子さんを育てながら、医療者としても活躍されているんですね!「コミュニティーナース」というお仕事にとても新鮮な響きを感じたのですが、病棟にいないナースとして、具体的にどのような形でご活動されているのでしょうか?
金城:はい、コミュニティナースの働き方としては、本当に100人100色なので「私の場合は・・・」に限らせて話をさせていただくとですね、例えば、村の公民館に行って、介護予防教室をしたり(その際、血圧を測ったり、健康相談を受けたりします)村の乳幼児検診に出たり、80歳以上の高齢者の皆さんとバスに乗って、ピクニックにいったりしています。あとは、公設市場の夜市で、市場のお肉屋さんで購入したお肉を七輪で焼きながら健康相談に乗る「七輪ナース」をしたり、、、笑 屋台を作って古民家でカフェを開いて健康相談にのったり、、、「健康」に限らずですが、地域にこちらから出て行って、地域の方々と交流する、という感じでしょうか?やってる私自身、うまく言葉にできない仕事をしています。
ーーーなるほど、まさに生活の動線上のナースですね。七輪ナースに、体操に、カフェ!だから話しかけやすいお人柄なんですね。興味深いです。ふだん好まれる音楽や愛されている音楽はありますか?
金城:好きな音楽。流行りの音楽はあまり聴かないですね。洋楽はほとんど聞いたことがなく、一度めちゃハマったことがあるのはBilly Joel のWe Didn't Start the Fireという曲です。
ひとりの歌手、というか一つの曲、にものすごいハマることは多いです。チャゲアスの、しかも、YAH YAH YAH ぐらいまでの曲が好きですね。歌詞も含めて。尾崎豊、、、とか、、BOØWYとか、、中島みゆきとか山口百恵とか、、尾崎豊だと「失くした1/2」というあんまり有名じゃないんですが、これが一番好きです。あと「COOKIE 」とか。BOOWYだと「DREAMIN'」。
あ!クレイジーケンバンドはファンクラブにもはいっていました(笑)気合を入れる朝は映画「プリティウーマン」の曲をかけて身支度をします。基本「色々あったけど明るく気丈に立ち上がる系」の曲が好きですね。
あとラテン系の音楽はずっと踊ってられます沖縄民謡も含め踊りたくなる曲は無条件に好き、という体が勝手に踊ってしまいますね。うちなーんちゅなんでしょうね(笑)ああ、槇原敬之、宇多田ヒカルも大好きです。あ、ウルフルズも好きです!困った、色々出てきちゃうなー。音楽は聞かない方だと思っていましたが、結構聞いているなーと思いました。流行りにのれていないだけで(笑)
ーーーいいですね、ジャンルやスタイルにとらわれることなく、次から次へとどんどん出てくるのが楽しいです。音楽と共にあったのが凄く伝わりますし、教えてくださったタイトルも検索してみたいと思いました。
そして、「踊りたくなる曲は無条件に好き」の言葉に、沖縄を感じてしまいますね!この企画では3曲をおすすめするのですが、この会話から最初の1曲は、「金城さんが踊りたくなるかどうか?」を基準に選んでみようと思うのですが、いかがでしょう?
金城:めっちゃステキです♪よろしくお願いします。踊りたいです♪
ーーーではでは、これはちょっとした変化球なのですが、こちらをご紹介します。Ryuichi Sakamoto feat. Jill Jones - You Do Me
金城:めっちゃ良き!です!ありがとうございます!オープニングでとても引き込まれました。そのあと、女性にとてもセクシーさを感じていたのですが、うちなー音階が入った時にDNAがざわつきましたね!感情としてはうれしさ。でしょうか。そのあとは女性のことが他人事ではなくなりました。セクシーさプラス力強さ、を感じました。なんでしょうね。最後のフェードアウト感に「もっと聞きたい!」と思ってリピートして聞きました♪
ーーー良かったです。「変化球」と記したのは、これはプリンスではなく、坂本龍一さんの曲なんです。ですが、ボーカルの女性、ジル・ジョーンズはプリンスがずっと育ててきたファミリーの一員で、プリンスの映画やPVに出たり、彼のプロデュースでソロアルバムも出しています。そして何より、坂本龍一氏のセンスが凄い!沖縄民謡とファンクの奇跡的な融合、みたいな。
金城:あの坂本龍一さんの曲なんですね!
ーーーそうなんです、坂本龍一さんは、音楽家として歴史に残る存在であることはもちろん、沖縄音楽の魅力を世界に伝えた功労者でもありますよね。沖縄民謡をご自身のサウンドと見事に調和させつつ、でも「誰も聴いたことがないような音楽」になっててビックリ。
金城:たしかに、こういうのは初めて聞きました。思わず私も踊っちゃいました(笑)
―――僕も沖縄の友人の結婚式に出たことがあるんですが、みんなで沖縄民謡で踊って、ライブみたいに大盛り上がりで終わって、なんともいえない興奮を味わったことごあるんですが、沖縄の皆さんのあの肉体性というか、身体文化は、もう生活の中で当たり前にあることなんでしょうか?東京だとカラオケなんかでは盛り上がるけど、「さぁ、みんなで踊ろうぜ!」とはなかなかならないもので。
金城:もちろん人にもよるとは思いますが、踊るのは嫌いじゃないと思いますね。結婚式も「かぎやで風」という踊りではじまり、テンポの速い「カチャーシー」をみんなで踊って終わる、というのが定番になります。高校生の頃の放課後の過ごし方も、那覇よりも海が近いところは、ビーチに行って、誰かが三線を持ってて、誰かが弾けて、誰かが歌えて、誰かが踊れる、みたいなのは普通だと思います。私は音楽は何にもできませんが、カチャーシー(定番の踊り)は同世代では上手い方だと自負していますね。
あと看護師として高齢者のお宅に訪問することがあるのですが、寝たきりのおばあちゃんでも、民謡を流すと踊り出したりして「起きれるじゃん!」みたいなコントのような場面も何回も見たことがありますね。リハビリの現場でもそう。「踊れはするけど、歩けない」というコントのような本当の話がたくさんあります。やっぱり「血が騒ぐ」的なものはあるように思いますね。
ーーーそれはめちゃくちゃ興味深いです。僕は医師でもあるんですが、「寝たきりの沖縄の高齢者でも沖縄民謡で踊れる!」「リハビリで踊れるけど歩けない」って、これ、脳の中に何十年ってかけた神経回路ができてるってことですから!
何らかの原因で健康が損なわれたとしても、長年生活の中にある音楽がその人の生活を回復する、そんな可能性があるわけです。いやー、凄いな、スタートから面白いです。
金城:ホント、おもしろいですよね。背中曲がったおばあちゃんが音楽が鳴り出すとシャンとして踊り出して、踊り終わったら、普通に(曲がってる)に戻ってる、、、とか。介護福祉の現場では、もう毎日がコントのようです。
ーーー毎日がコント!それ、沖縄の現象として学会発表すべきレベルの話ですよ。そしてリハビリや介護の場面でも「その人の音楽療法」と組み合わされるべきです。プリンスで始まったお節介企画が、凄いところまで来てしまって、僕自身驚いているんですが・・・。
金城:学会発表したいですね!データ集めます!
ーーーぜひよろしくお願いします。さて、この流れで?2曲目に行ってみたいと思います。こんなのが聴いてみたい、といった希望はございますか?
金城:そうですね、もっともプリンスらしい曲、ってありますか?これぞ、プリンス!的な。聞きたい曲って、その時の感情や一緒にいる人で変わったりすると思うのですが、もっともプリンスらしい曲、聴いてみたいです!
ーーーでは、2曲目はこちらで参りましょう。もっともプリンスらしい曲かどうかはわからないんですが、代表曲の1つであり、金城さんとの会話の中から、閃いた曲がこれでした。The Most Beautiful Girl In The World。
金城:すごくステキな曲ですね、もうホント率直な感想になってしまいますが、一度どこかで聞いたことあるけど思い出せない懐かしさを感じました。そしてなんだろう、私は母を亡くしているのですが、母がいた時に感じたような心強さを感じる曲です。安心して前進できるような、そんな感覚を持ちました。
ーーーそうでしたか・・・お母さまの心強さ、安心感を思い起こされたんですね・・・。なんとも言えない気持ちになります。ありがとうございます。
金城:こちらこそです。このビデオも素敵ですね。いろんな人が出てきて。
ーーーこの映像を撮影する前にプリンスは広告を出したんです。「世界でいちばん美しい女性を募集します」って。それで応募して選考に残った女性たちに「自分の夢が叶った映像」を撮ってあげたんです。このビデオは、それぞれの女性が「自分の夢の映像」を自分で観ているところを撮影したドキュメンタリーになっていて。
金城:ドキュメンタリーなんですね~。
―――はい、コメディアン、歌手、結婚と出産、デザイナー、教育者・・・自分が心から好きなことをやっている時の表情、それを見ている時の表情を記録したんです。「心からやりたいことをやってる女性」、それが「世界でいちばん美しい女性」なんだよ、っていうメッセージになっているんです。
金城:なるほど〜。だから希望に満ちたような、肯定されているような感じを受けたのかもしれません。なんか一歩を踏み出せるような、勇気づけられるような・・・。プリンスすげぇ!この映像、改めて見てみると、ホント、泣けてくるくらい勇気づけられますね。私はコミュニティナースとして写真も撮っていて。フォトグラファーでもあるんです。
―――おおお、フォトグラファーも!多彩だなぁ!
金城:授乳中のお母さんたちって、ワンオペで育児をされていたり、睡眠不足だったりして、一日中こどものために一生懸命に動いているのに、社会からは取り残されたような感覚を感じたりして。しかも6ヶ月近くも3時間に一回とかの割合で昼夜を問わず授乳しているのに、その時の写真がなかったりして。あってもスッピンで寝不足で家着でボロボロな感じだったりして。だけど、私は授乳中のお母さんって本当に美しい存在だと思っていて。その時を残すお手伝いをしています。
「今は終わりが見えなかったりするかもだけど、母としても女性としても、今とっても美しいよ」って、気づいて欲しくて。だから、プリンスもそんな感じに思ったりしたのかなーと。
ーーーそれは凄いリンケージです。プリンスは世界一美しい女性を募集した。でも彼が伝えたかった美しさとはcome from inside、つまり内面から来る美しさだった。見た目の美しさが到底及ばない次元のものです。
ただ、言葉では言えちゃうじゃないですか、「内面が大切だ」とか。それを実際にセットを組んで、映像に撮って、本人に見せて、「あなたは美しい」って言葉を使わずに伝えてる。そこがこの作品のすばらしさだと僕は思うんです。コミュニティーナースである金城さんも、授乳中の親子に美しさを見出して、それを言葉じゃなくて写真と撮影という形で伝えている。
金城:ですです。めっちゃおこがましいですが、プリンスにそうゆう共通点を垣間見ました。私はこの「授乳フォト」の撮影は「ケア」の視点でも撮っているつもりでいます。写真を撮る時はわざわざ「看護師」は名乗りません。あくまでも主役はお母さんで、撮影の一時はお母さん自身の美しさとか強さとか(決して強要する強さではなく)が感じ取れるような写真に仕上がるよう心がけています。
―――お母さんが主役。素晴らしいコンセプトですね。
金城:音楽や写真、アートは、本人さんの持ってる力を引き出すパワーを持っていると思っています。プリンスにも同じようなナーシングマインドを感じました。エンパワーメントのチカラ、信じる力、というか。
ーーーおっしゃる通りで、プリンスは引き出すパワーが半端ないです。ロージー・ゲインズという、めちゃくちゃ歌が上手い女性シンガーがいるんです。
彼女がプリンスのバンドに加入した時、プリンスは彼女にキーボードを弾かせようとするんです。でも彼女は「私、キーボード弾いたことないから・・・」って消極的になっていたら、「できるさ、キミなら、きっとできるよ」って無茶振りされて、すぐにツアーに出た(笑)
金城:なにそれすごい!
―――だから、金城さんのお話を伺っていると、本人の力を引き出すって、「その人を信じる」とセットなのかも?って思いました。
金城:そうですね、なるほどそうかも。そういう意味では、「信じてる」かもしれないです。でも、今の今まで、私は人を信じれない人だと思っていました。けど、逆にプリンスの話を聞いて、「あ、私って人のことめちゃめちゃ信じてるんだ」と気づかされました。ちょっと不思議な感覚です。
私は人を信じることに対してすごい恐れている時があります。なので、全部自分で抱え込んでしまったりとか・・・。プリンスのようには信じきれてないのかもしれません。大切な人、身近な人ほど、信じるのを恐れている?と感じる時があります。プリンスはそのあたりはどうだったのでしょうか?
ーーー金城さんが、お母さんたちの授乳の写真を撮るとき、「その姿こそ美しいんだ」って信じていると思うんです。被写体のお母さんがそれを信じてなくても、金城さんはそれを信じて、美しさを既に見つけてしまってるような。
金城:それはめっちゃわかります!その自信はすごいあります!
―――そう考えると、人を信じるって、その人のことを信じてる自分を信じる、ってことなんじゃないか?って。プリンスをみていて感じる瞬間があるんです。彼の最初の主演映画、パープルレインを撮影してる時も、プリンス以外は、この映画は失敗するだろう、って思ってたらしいんです。でも、共演者いわく、「ご本人は1000%信じきってた」らしい。
金城:えーーー!1000%ですか!!!
―――それだけ、もてる時間、スキル、情熱、エナジー、スタミナなど、全部を投入したんじゃないでしょうか?信じられるところまで、真剣に本気でやった。だから「俺が見つけてきたやつ」は信じられる。逆に言えば、自分を信じずに、他人を信じるということはなかったのかも知れません。
金城:それ、めっちゃわかります!「自分が見つけた人間」はすんごい信じられます。私、自分に自信はないけれど、そういう意味では自分が「これだ!」って思ったことは、周りにどう言われても突き進めて、そういう意味ではすんごい「自分を信じてる」っていえると思います。
みんながどれだけ「給料も安定してるし、病院で働いてこそ看護師でしょ」って言ってても、「いや、これからは絶対地域だ!」っていう自信?みたいなものはブレたことないんです(笑)これなんだろう?結局はめっちゃ自分を信じてるということでしょうか?自分の未来を信じてる?でも、めっちゃプリンス親近感です。超勝手ですが。すんごいわかります!なんかすごいワクワクしてきました。
ーーー僕のほうも、「信じる」について、今改めて考えるきっかけになっています。金城さんは、何があろうともコミュニティーナースとしての道を歩むことに迷いがない。他はいくらでも譲るかも知れないけど、ここだけは、この領域だけは、誰に何を言われようが譲らないし、譲れない。もしかしたら、「自分を信じる」とは、自分全体を闇雲に信じることではなくて、コミュニティーナースとして輝いてる自分を信じている。そんな感じではないですか?
僕は、僕よりも詳しいひと、できる人、凄い人について、全く気にならないんです。他の領域では。むしろ仲良くなりたいし、学びたいんですね。でも、格闘技医学だけは、またプリンスをボジティヴに伝えることだけは、「勝手な使命感」みたいなものがあるんです。「俺が先頭になるんだ」という気持ちも全く無いわけじゃないですが、それよりももっと強いのは「それらが間違った形で行使されるのはまずい、だから僕がやらなきゃ」みたいな使命感です。それを勝手に背負ってる。勝手に、です(笑)だから、金城さんがその景色が見えてる、ってのは、すごくわかるし、それこそプリンス的な気がするんです。
金城:わ!わわわ!まさに!めちゃそんな感じです!
病棟で働ける採血がめっちゃ上手なナースはたくさんいると思うし、なりたい人もめっちゃいると思っていて。そこはみんなに任せるよ、と思っています。だけど、地域看護は。私が多分、誰よりも実践できるし、実践する自信があるし、それが世の中を、沖縄を、変えていくことにもなる。やるぞ。それは私にしかできない、と思っています。その感覚がプリンス的だとしたら、めっちゃうれしいです!
ーーーもちろん迷いもするし、失敗もするけど、私はこれをやる、沖縄を変える、世の中を変える、という意志をもてるというのは素晴らしいことだと思います。それができるかどうか、の結果よりも、そこを目指す、意識するというのは、自分という小船を、正しい方向に導くような気がします。いよいよ、ラストの3曲目になりますが、どのような楽曲にいたしましょう?
金城:新たなスタートをきる際にオススメの曲などありますでしょうか?今、新しいことをやろう!と思っていて。
―――では、こちらはいかがでしょうか?Can’t Stop This Feeling I Got
金城:めっちゃいいですねー。ノリノリになりました♪息子も踊り出して、私も踊り出して、、、♪そのままチャンネル登録して、連続でプリンスの世界を楽しませていただいています。ありがとうございます。なんか、プリンスの曲は一曲一曲が短編の映画のようですね。曲そのものにストーリーを感じるというか、、、すごいパワーです。
ーーー息子さんまで!嬉しいことですね。金城さんが「新しいスタートを切る」とおっしゃって。きっと何か前向きなイメージが浮かんだのかな?なんて思いまして。「このフィーリングを止められない!」ってタイトルを選んでみました。
金城:ありがとうございます。
―――この曲の途中で、語りの部分があるでしょう?Padon Me 4 living....から始まるんですが「生きてて悪かったな、でも、これがオレの世界だ。お前にオレを変えることはできない。変えなきゃならないのは・・・俺たちのブレイン(考え方)だ」ってメッセージがあってですね。金城さんが「コミュニティー・ナース」という使命を通じて、沖縄を、世の中をよりよくしていこう!と思われる「志」に通じるものがあるなぁ、なんて思ったんです。
金城:そうですね、この曲を何度か繰り返し聴くうちに、曲の感じがワクワクと、良い意味でのプレッシャーもかけてもらった感じもしました。「世の中を変える!」というでっかい志はもちろん抱えてる、やること、やれることは見えているんだけれども、社会にとっては「早熟」にならないだろうか、と。
COVID19の影響下で、社会のベクトルの方向がグンっと変わった感じがしていて。強制的に社会の舵がきられて、私にとってはチャンスだな、と思う反面、社会的な「成熟」にはなっていないことも感じていて。今まで「早く変わってほしいな」を見守りつつ、自分のできることを、できることから、できるだけ実行していましたが、それが全然予想してないカタチで望むように舵がきられたけれど、でも、それはそれで社会としては良いのかな?と少し不安になったりもして。Can't Stop This Feeling I Got を聴きながら、ワクワクと、ちょっとした、焦り?に似たような不安?も感じました。
新しくスタートするときはそんな気持ちはつきものなのかもしれませんが、ちょいビビっているのでした。「焦り」、というか、「畏怖感」ですかね。テンポが良いからなのかもしれませんが、ワクワクの中に、ちょっとドキドキのエッセンスも感じたんです。
ーーーそのご感想は、逆にこの曲の本質に近いかもしれません。というのも、「こんな素晴らしいフィーリング、伝えたい」って思ったのは誰か?といえば、それはもうプリンス本人なのですが、じゃあ、彼想い描く理想の世の中にすぐなるのか?と言えば、答えはNOなわけです。曲にして、レコーディングして、発表して、すぐにそうなるようなら、それは大した理想でも志でもないわけじゃないですか。だから、金城さんのおっしゃる不安というのは、ついて回ると思うし、プリンス自身も、そう簡単にいくことじゃないってわかってたからこそ、自分を鼓舞する意味でも「このフィーリング」をサウンドとして記録しておきたかったように僕は思うんです。
例えがあれですが、夏のキャンプの肝試しで、明るい歌を歌いながら墓地の暗闇を歩くような感覚、というか。
金城:そうそう、そんな感じですね。ワクワクとドキドキ。でも、一歩踏み出す、やらずにはいられない、希望を持って。という感じです♪
ーーー初めてこの曲を聴いていただいて、「ただ明るいだけの能天気なロックじゃない」って理解された金城さんの感性には正直驚きました。彼の世界はいつも、暗闇の中の希望だったり、制約の中の自由だったりを描くところがあるので。今、4月下旬のコロナ問題の真っただ中で、どんなフィーリングを得るのか?絶望するか、希望を見つけるか?そこは問われてるような気がします。1990年発表の楽曲なのに、金城さんとの会話でこの曲に新しい意味が見つかった気がします。
金城:いや、ホント、今まさに必要な音楽がプリンスのような気がしています。
ーーー金城さん、今回は、食わず嫌い王子にご参加くださり、誠にありがとうございました。プリンスファミリー関連作品1曲、プリンスの楽曲2曲を聴いていだきながら、いろんな対話をさせていただきました。プリンスの世界に触れてみた、率直なご感想を頂ければ幸いです。
金城:率直な感想。ホント、率直な感想になりますが、「あ、出逢うべくしてプリンスに出逢ってしまったな」と思いました。なんだか、逆になぜ今まで私がプリンスに出逢ってなかったのかが不思議なくらいでした。曲もそうですが、もっともっと彼自身について知りたいな、と思っています。曲自体にも幅があり、なんでもできる感じが伝わってきます。チャレンジングな姿勢、なんでもやってみようという姿勢と、僕はなんでもできるはずさ、という自信、、、というか。
今の社会や、今の私にとってもものすごく必要な音楽のような気がしています。これも直感的なのですが、この企画自体がもプリンス的、というか。「自分にしかできないコトをやる」「他の誰かがやっているコトは他の誰かがやってればいい」的な。それを見失いがちになりそうな今だからこそ、今のこのタイミングでこうしてお話ができたこと、ホントにありがたいなぁと思っています。
やれることをやっていく。自分を信じて。プリンスの曲を聴きながら、ちょっとwithコロナ時代以降のコミュニティナースでの働き方を考えてみようと思いました。すんごい後押ししてもらえそうです。この3曲だけでもすんごいパワーと気づきをいただきました!
―――僕も、この対話から、沖縄文化の素晴らしさはもちろん、今後の医療やリハビリのあり方のヒント、美しさや信じること、不安と希望、そして自分らしさ。いろんなテーマが見つかったように思います。プリンスがヒットを連発していた時期や、ライヴをガンガンやってた時期は、ある意味、影響を受けやすいわけですけど、リアルタイムから数年が経過してもなお、「出逢いのきっかけ」と「ストーリー」さえあれば、時と場所を超えて人生応援歌としても機能するんだということがとてもよくわかりました!
そして、金城さんという新しい生き方を目指す女性と、プリンスの生き様がシンクロして、プリンスを通じた仲間というか同志のような気がしてくるから不思議です。これからもますます金城さんらしく、フィーリングを信じてBeautifulに沖縄を走ってくださいね!ありがとうございました!
金城:ホントに素晴らしい時間をありがとうございました!「プリンス」の存在からたくさんの話題になって、しかもそれが全部繋がっていて。プリンスは今ここ、にはいないけれども、確実に私たちに出逢いとつながりと未来を与えてくれたわけで。なんか「生きてるってなんだろう〜」って思いました。この出逢いを大切に、これからまだ出逢ってないプリンスと出逢っていきたいと思います。ありがとうございました!