プリンス 7 つの質問 11 古賀 史健

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1.あなた自身を紹介してください。

 

 ライターの古賀史健と申します。『嫌われる勇気』(共著・岸見一郎)という本や、『古賀史健がまとめた糸井重里のこと。』(共著・糸井重里)という本などを書いている46歳です。

 

 2.あなたはどうやってプリンスファムになったのですか?

 

※(古賀註)本サイトをご覧のみなさま。ここに書かれている「ファム」とは誤植ではありません。プリンスは「ファナティック=狂信的な」に通じる「ファン」ということばを避け、「ファミリー」に通じる「ファム」の語で、自らのファンを呼んでいました。

 

 彼の存在は小学生のころから知っていたのですが、自分のお小遣いでレコードを買って聴いたのは『Lovesexy』が最初でした。そこから旧作をさかのぼり、また新作を追いかけ、現在までずっと一緒に生きてきました。

 

3.あなたの最も記憶に残る「紫の経験」は何ですか?

 

 2002年11月の「One Night Alone...」ツアー、武道館公演です。90年代のワーナーとの確執(ぼくは Slave 期と呼んでいるのですが)から解放され、心身ともに自由になったプリンスがこころの底から音楽をたのしんでいる、すばらしいステージでした。

 あれはどの曲のあいだだったのかなあ。確信を持って挿入された「マイ・ネーム・イズ・プリンス、アンド・アイ・アム・ファンキー! マイ・ネーム・イズ・プリンス、ワン・アンド・オンリー!」の歌詞。観客をステージに上げて「ファンク!」の掛け声とともにダンスさせる、あの演出。

 ライブ会場で踊ることの苦手な自意識過剰のぼくが、唯一ダンスフロアのように踊りまくったのがあの日の武道館でした。

 

4.あなたのトップ3のソウル・ソング(重要曲)は何ですか? 

 

(1)Pop Life

 すみません、正直言って大学生になるくらいまで、プリンスの歌詞をほとんど気に留めていませんでした。「キスとかラブとかセックスとか、そういうエッチなことを歌ってるんだよね」くらいに思っていました。そんなぼくが、はじめて歌詞カードと睨めっこして衝撃を受けまくったのが、この "Pop Life" です。

 

 

 

 これ、めちゃくちゃポップな曲調じゃないですか。サビの部分では何度も「♪ポップ、ライフ」ってくり返してるじゃないですか。当然、そういう能天気な、ひまわりみたいな歌だと思うじゃないですか。でも、ぜんぜん違うんですよ。いや、これからプリンスを聴く人に向けて話していますけど。めちゃくちゃ意訳を交えながら話しますけど。

 

曲の冒頭、「最近どうしちゃったの?」と問いかけるプリンス。

傷つき、塞ぎ込んでる誰かに向けて、それが貧困のせいなのか、セクシャリティのせいなのか、肌の色のせいなのか、薬物のせいなのか、さまざまな問いを投げかけるプリンス。そしてサビの部分で、こう歌うのです。

 

" ポップ・ライフ

  みんなスリルを求めてる

  ポップ・ライフ

  ぼくらはこころの隙間を埋めていく

  ポップ・ライフ

  誰もがトップに立てるわけじゃない

  でも、ポップに生きなきゃ、

  ほんとのファンキーにはなれないんだよ

  わかるよね? "

 

さまざまな苦難や絶望を受け入れ、それでも「ポップであれ、ファンキーであろう」と。ああ、こんな人生賛歌を届ける人だったのか、この人は!

 

いまでも聴くたびに泣きそうになる(こんなポップな曲調なのに!)曲です。

 

 

(2)Sign O’ The Times

じつはこれも「すみません」の告白からはじまる1曲です。

えーとですね、もちろん2枚組の大傑作アルバム、『サイン・オブ・ザ・タイムス』の冒頭を飾るタイトル曲です。1曲目ですから当然、うんざりするほどの回数、聴いています。けれども正直、この曲について「すごいことがはじまる幕開け感」以上のものは、感じていなかったんですよ、むかしは。なので CD で買い直してからは、スキップしてしまうこともしばしばでございました。

 

 

 

  ところがイギリスのロック・バンド MUSE がカバーしたこの曲を聴いて、震えまくったんです。こんなにカッコイイ曲だったのかと。やっぱりギター、ベース、ドラム、キーボードの4人という、シンプルなロックバンド編成で弾いてくれたことがおおきかったんだと思います。いやー、ごめんなさい。こんな感じでたぶんぼく、まだまだそのポテンシャルをわかりきれていないプリンス曲、たくさんあるんだと思います。

 

 

(3)Rock & Roll Is Alive! (And It Live In Minneapolis)

 プリンスって、よくも悪くも謎が多い人で、気むずかしい完璧主義者のように思われている面も多いんじゃないかと思います。

 録音済みの新曲が数千曲ストックされているとか、来日当時ポップコーンしか食べていなかったという目撃証言とか、例外的に受けるインタビューではテープ録音を禁じるとか。

 で、そんな気むずかしいイメージをぶっ壊してくれるのがこの曲。1995年にレニー・クラヴィッツが発表した "Rock and Roll is Dead" へのアンサーソングです。

 

 

 

「ロックンロールは(オレの本拠地ミネアポリスに)生きている!」って、もうタイトルだけで爆笑モノの、出オチソングじゃないですか。こういうお茶目なところも、プリンスの魅力なんですよねー。シングル盤 "Gold" のカップリング曲です。

 

 

そしてプリンス、腹を立ててこの曲をつくったわけじゃなく、レニー・クラヴィッツの登場が嬉しかったんだと思うんですよ。自分と同じマルチプレイヤーの、骨のあるミュージシャンが出てきたことが。2000年のカウントダウンを祝うライブ、"Rave Un2 the Year 2000" での共演は最高でしたしね。

 

 

5. 素晴らしいアーティスト/ミュージシャンをプリンスが私たちに紹介しました。あなたのお気に入りは誰ですか?

 

 ぼくにとっては「ブラック・ミュージック」の扉を開けてくれたアーティストが、プリンスです。ですから、答えは「ブラック・ミュージックのすべて」になると思います。

  プリンス自身がインスピレーションを受けた、ジェームズ・ブラウンジョージ・クリントンブーツィー・コリンズメイシオ・パーカーら、The J.B.'s 〜 P-Funk 軍団の素晴らしさを教えてくれたことがなによりも大きかったです。エリック・クラプトンがブルーズへの扉を開いてくれた偉人だとすれば、プリンスは豊潤なファンク・ミュージックへの扉を開いてくれた大恩人です。

 

 

 

6.プリンスの音楽は人生の教訓とメッセージでいっぱいでした。プリンスがあなたに与えた最も重要なものは何ですか?

 

ポップに生きること。ファンキーであること。自らのスタイルに忠実であること。

 

7. 次世代にプリンスを紹介する方法は?

 

  プリンスの死後、それまで厳しく制限されていたオンライン上のプリンス動画が一挙に解き放たれました。やはりプリンスはレコードよりも LIVE の人なので、できるだけたくさんの人に彼の映像を観てほしいです。いちばんいいのは "Rave Un2 the Year 2000" かなあ。これまで何人もの「非プリンスファム」に見せてきましたが、当然のように全員が感激、感動、大絶賛していました。また、MUSE のように、彼をリスペクトするミュージシャンたちのよるカヴァーも、もっともっと期待したいですね。

 

 

古賀史健 

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